第6話 潜伏

 アルフヘイム中央ホテルに着くと、早速俺はグラーベに事務室に連れて行かれた。


「ご紹介します。メタリカ警察アルフヘイム呪術発見課のルスト マルカートです」

「はい、私が紹介に預かりましたマルカートです」


マルカートは敬礼をした。


 まずは特徴を挙げていこう。

 現在彼女は制服ではなく、黒いスーツを着ている。警察だと疑われないようするためだろう。

 口元はキリッとしていて、目元は蛇のように鋭い。その黒い髪は後ろで纏められており、申し訳程度にお洒落な赤い髪留めで前髪を留めている。年齢はその姿や立場を踏まえると、三十代前半と言った位だろう。


「はじめまして。私はガウス カルマートです。この度は捜査に協力させていただかせ、誠にありがとうございます」


俺は握手を求め、右手を差し出したが、彼女はそれを無視してグラーベに


「グラーべ刑事部長。現状の報告をさせていただきたいのですが、カルマート氏にも公開してもよろしいのでしょうか?」

「あ、ああ。勿論だとも……えっと、だね。まずはこのホテルの紹介と彼の部屋を用意しなければならないだろう?」


グラーベはおどおどしていた。こんな彼を見るのは初めてだった。


「そうでした。お二人の部屋は用意しておきましたので、早速案内しましょう」



 アルフヘイム中央ホテル。アルフヘイム中央駅から徒歩で三分の距離にある高級ホテル。主な客は自然観光目的の人、フレア王国の避暑地としての人等だ。大抵は平均以上の裕福な客であるが、皇帝アルビーニやフレア王国のメラ女王が泊まった事もあり、この異世界のホテルで十本の指に入る有名ホテルとなっている。

 一階にはフロントとホールが二つ、駐車場がある。

 二階はレストランとなっていて、時折舞踏会を開く事もある。ちなみに二日後に舞踏会が開かれるらしいが、警察は警戒している。

 三階から五階までは客室となっている。一フロアに三十もの部屋がある。

 六階はスイートルームとなっている。ここに国のトップらは泊まるらしい。普段は立入禁止になっている。


「ホテルの案内は以上です。他に何かお手伝い出来ることはありますか?」


俺とグラーベの部屋がある四階エレベーターホールに戻って来ると、マルカートは言った。


「いいえ、もう大丈夫です。ありがとうございました」

「ありがとうございました、マルカート巡査。では、先生、私はもう寝ます。先生はどうされますか?」


グラーベは笑顔で言った。

 まだ七時なのに……


「私は空腹で寝られそうにないので、二階のレストランに行こうかと思います」

「左様ですか。では、おやすみなさい」

「ええ、おやすみなさい」



 レストランでは楽団が演奏をしていたのだが、それはオーケストラそのものだったので、俺は驚嘆した。異世界に異世界の物がある。誰かが持ち込んだのだろうが、それが俺を興奮させるのである。

 バイキング形式であったので、適当に盛り付けると俺は近くの席に座った。俺が選んだのはパンとバター、スープ、それからケーキだ。それらを食していると、一人の男が目の前に現れた。


「僕もご一緒させて貰ってもよろしいですか」

「ええ、勿論です」


 男は身長百八十センチ程の細身のエルフだった。タキシードを着こなす彼はどこか紳士的であり、首元の赤いネクタイは豪華さを出していた。


「御客人、貴方は音楽家ではないでしょうか?」


不意に言われた。


「はて、どうしてお分かりに?」

「先程、このホテルの楽団に見入っておりましたので、もしかしたらと。何を弾かれるのですか?」


 グイグイ来るなあ……


「ピアノという弦楽器です」

「ピアノでしたか。僕も音楽が好きでしてね。特にこのホテルの楽団は変わった楽器を用いて演奏しますが、別格です。同じ趣味の方とお会いできて嬉しいです」


男は本当に嬉しそうに言った。

 どうやらピアノを知っているらしい。


「わわ、申し遅れました。僕はヘルツ アルフヘイムと言います。貴方は?」


 ヘルツの質問に俺はうろたえた。と言うのも、ガウスと名乗れば、何故探偵がこんな所に居るのかと疑われると思ったからだ。俺の名前は然程さほど有名ではなかったが、犯罪の世界では割と知られる程にはなったのである。もしもこの男が呪いの真犯人なら、確実に逃げられてしまうだろう。そうなれば、警察の努力も水の泡だ。


「私はリーベ。リーベ アマービレと申します」

「リーベ! 素敵なお名前ですね」

「貴方こそ。ところで宿泊の目的は?」

「ここの楽団ですよ。この楽団の演奏はここでしか聞くことが出来ない。僕は我慢出来ないのです。ところで貴方は?」


ヘルツはローストビーフにフォークを刺しながら聞いた。


「私は旅行です。世界樹を見にシーテ街から来たのです」


 シーテ街から来たと言うのも、悩んだが、あまり設定を複雑にしてもボロが出そうなので、正直に答えた。


「ご旅行でしたか。で、世界樹はどうでしたか? 駅から見えたのでは?」

「ええ。見えました。とても大きく、美しい木でした」

「いやはや……故郷が褒められると、なんだか嬉しいですね」


 ヘルツはローストビーフを口に運んだ。


 

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