承 - 3
世界で一番夏なのは、きっとこの瞬間、この空間だ。
最高の一日だった、海へ沈んでいく太陽をぼんやりと眺めて佐久は独り言ちる。
バットが飛ぶスイカ割りから始まって、泳げない栞との海水浴、肉をほとんど取られたバーベキュー、負けるまでやらされたビーチバレー。そして疲れた二人はビーチパラソルの下でサイダーの乾杯をする。ワイングラスで飲んだサイダーはなぜだか大人の味がした。それから、砂遊びでは佐久が窒息死しかけたり、クラゲを見た栞が素手で捕まえようとしたり。ヒヤリハットにあふれていて、色々な意味で刺激的だった。
「……だった。ってまだ終わってないよ?」
「地の文読むのやめてもらっていいすか、神田サン」
ビキニタイプの青い水着に、白のカーディガンを羽織った栞が、ビーチベッドで黄昏れる、同じ白のカーディガンを着た佐久を見下ろして言い、手に持ったススキ花火を一本佐久に渡す。
「小出君は本当に分かりやすいよ」
「神田は分かりづら過ぎるんだよ」
「そんなこともないと思うけど」
栞は佐久が寝転ぶベッドの足元に腰かける。今日の栞は珍しくテンションが高かったから、いつも通りの彼女が戻ってくると、思わず安心してしまう佐久がいた。
「にしても、給料2か月分ってすげえな」
栞のバイト代2か月分がすべて今日に消えているらしい。学校をサボってまで演出したかった夏が、たった一日で消費されてしまったと考えると侘しいものがある。
「頑張ってバイトした甲斐があったよ」
「本当に俺でよかったのか?」
「秘密」
「……厳しいね」
「そっちが甘すぎるんだよ」
立ち上がって二人は一本目の花火に火をつける。まだ空も明るいからか綺麗な発色はせず、ただ火を噴きだすススキ花火。それを見つめて栞は勢いを失う花火のように付け足す。
「……でもさ、最後の夏としては合格かな」
佐久はその自嘲的な笑みに不安定な魅力と、不安を感じた。最後という言葉に例の手紙が浮かぶ。
「最後ってなんだよ。……来年も来ようぜ。俺も頑張ってバイトするし」
「もう来年受験でしょ」
「そしたらその次でもいいし」
「……うん」
それきり、二人は何本も何本も火薬を火花へと溶かしていく。ススキ花火は過剰なほどの量が用意されていて、途中からはまるで作業のように燃やし尽くした。
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