第158話 メロディから遠く離れて

 ブライアン・イーノはメロディアスなロックを作曲できるが、しだいにメロディから遠ざかり、環境音楽を多数制作するようになった。

 メロディのない音楽は心を鎮める。小説執筆などの作業の邪魔にならず、愛聴している。特に『アンビエント4』が好き。幻想世界の風の音や生き物の声みたい。

 イーノは『アナザー・グリーン・ワールド』や『ブッシュ・オブ・ゴースト』などの素敵な実験的ロックを制作した後、アンビエントシリーズを制作した。YMOの『コンプリート・サービス』のプロデュースもしている。偉大なる音楽家だ。

 美しいメロディなら誰かがつくる。イーノはそう考えて、メロディから遠く離れていったのかもしれない。

 彼はただの音か音楽かわからない境界線上の曲をつくるようになった。『アンビエント1』はまだ美しいピアノ曲だと感じられるが、『4』はファンタジー世界の夜の音のようだ。


 小説も物語から遠く離れて、起承転結のないただの読み物であってもいいのではないかという結論につなげようとして、この雑文を書き始めたのだが、結論は保留しておこう。


 私はいま『東京都放浪記』という旅行記を書いている。女性主人公の一人称小説だ。

 旅行小説。

 起承転結とかクライマックスとかは考えないで、旅の途中で起こる出来事とか美味しい食べ物のこととかを、思いつくままに書き連ねている。

 東京から出発し、たぶん東京に帰ってくるところで終わる。

 起承転結もクライマックスも考えていないが、もしかしたら思いがけずそういうものを書くことになるかもしれない。

 

『悪魔少女狩り』と『人間の恋人なんていらない。』を全力で書き、ストーリーをつくるのに疲れてしまった。

 肩の力を抜いて、『東京都放浪記』を書いている。

 ただの旅行記になるか、主人公の成長譚になるか、まだわからない。

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