第152話 劉慈欣『三体0 球状閃電』感想
劉慈欣の『三体0 球状閃電』を読みました。
ネタバレ少なめで感想文を書いてみます。
前日譚、エピソード0との謳い文句がありました。『三体Ⅰ~Ⅲ』との関連を過剰に期待していたので、その点では残念な感がありました。
書かれた順番も『Ⅰ~Ⅲ』を終えた後に、『0』を書いたものと勝手に思い込んでいたのですが、『0』は先に執筆された作品でした(翻訳順は『0』が後です)。
しかし、『球状閃電』を独立した1冊のSF長編として振り返ると、素晴らしい作品だと思います。
物理学と人生の問題を絡めて壮大な謎を解き明かし、中国と対立同盟との戦争を経て、詩のようなエピローグで締める。
スリリングな力作でした。
商業的には『三体0』として売り出すのが正解だったのでしょうが、先入観なしに『球状閃電』として読めた方がより楽しめたかな、と私は読後に思いました。
訳者あとがきで、この作品の初稿が2000年に完成していたと知り、驚きました。
2022年に書かれたとしても、けっして不思議ではない驚異の軍事兵器が登場します。
全然古びていません。
著者あとがきにも、驚くべきことが書かれていました。
英米SFの中国語の翻訳は遅れていて、劉慈欣は1981年に初めてアーサー・C・クラークを読んだそうです。それまではSFと言えば、ジュール・ヴェルヌとハーバード・ジョージ・ウェルズの作品しか読むことができなかったとのこと。
その後、アイザック・アシモフ、フランク・ハーバード、ブライアン・W・オールディスらの作品に触れることができるようになっていった……。
日本では戦後、星新一、小松左京、筒井康隆らがSFブームを巻き起こしました。
21世紀の中国では、劉慈欣が世界を席巻するSF作品を生み出しました。
英米SFの影響の時期がズレて、発現したと考えてよいのではないでしょうか。
中国ゆかりのSF作家としては、台湾系アメリカ人のテッド・チャンと中国系アメリカ人のケン・リュウも注目されています。私も読みました。
ふたりとも短編作家ですので、気楽に読めると思います。図書館で借りて読んでみてはいかがでしょうか。
私はテッド・チャンが好き……。
短編集『あなたの人生の物語』の最初におさめられている『バビロンの塔』を読んで、ドハマリしました。
こんなクールなSFを書いてみたいものだと思いながら、私はショートショート『月の塔』を執筆しました。足元にもおよんでいませんが……。
『球状閃電』は『三体』とは切り離して楽しめるSF長編です。
劉慈欣ってどんな作家なんだろうと思っている方におすすめできます。
とはいえ、ヒューゴー賞を受賞した『三体』は圧倒的な名作で、そちらを先に読むべきかと思いますが……。
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