第145話 川原泉『不思議なマリナー』

 川原泉先生は知的でユーモラスな作風の漫画家です。

 食欲魔人シリーズは爆笑確実。しかも知識が得られるひと粒で2度美味しい名作です。

 同シリーズは主役たちが食べるの大好きというだけが共通点。まったく異なる短編の集合体。

『不思議なマリナー』は私の趣味、釣りを題材にしていて、特に興味深く読みました。

 以下、ネタバレを含めて紹介します。

 読みたい方はご注意ください、と念のため書いておきますが、古い漫画なので、川原ファンはとっくに読了済みでしょうし、ご存じない方は、紹介文を読まないと興味すら湧かないのではないかと思います。


「…おはよう娘さん。今朝の調子はいかがです?」

「あ、おはよ。アイナメが絶好調さ」


 という台詞で始まります。

 かつては東京湾でアイナメがよく釣れたものですが、最近はほとんどいなくなりました。とても残念です。


 川原先生の作品では、冴えない女の子が主人公であることがほとんどです。その彼女がしあわせになるラストにほっこりします。

 相手役の男性の人柄もよい。

 ストーリーは大きな波乱はないことが多いのですが、会話がユニークで、内容がエッセイ的で実に濃く、私は何度も読み返しています。


『不思議なマリナー』でも「所詮、釣りは孤独なゲームなのさ。フッ」とつぶやく女の子が主人公。女の子の趣味としてはもひとつパッとしない、と書かれています。

 お相手の男性は『釣りキチ三平』の魚紳さんを彷彿とさせる人物。

 彼が磯の王者イシダイを釣ると、すかさずそれについての蘊蓄うんちくが語られます。

「うう…。アイナメ如きで自慢するんじゃなかった…」と落ち込む主人公。ユニークで可愛らしいです。

 イシダイを釣った彼は、その場でお刺身をつくります。食欲魔人シリーズでは食が男性と女の子を結びつけていきます。


 2匹の焼き魚があった時、加納さんはいつも、ごく自然に大きい方をわたしにくれるのだ。

 加納さんはそーゆー人なのだ。

 そーゆー不思議な海の人…。


 川原泉先生は短編の名手です。川原教授と呼ばれることもある博識なお方。プラス独特なユーモアを持ち合わせている相当な個性派です。

 なお、『不思議なマリナー』は白泉社の単行本『カレーの王子さま』に所収されています。

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