第144話 軍事的天才 

 司馬遼太郎先生は日本史上の軍事的天才として、源義経、織田信長、大村益次郎、秋山真之を挙げています。

 源義経は一ノ谷、屋島、壇ノ浦の戦いに連勝し、平氏を滅ぼしました。一ノ谷における騎兵による鵯越奇襲戦法は有名です。

 織田信長は桶狭間の戦いで奇襲に成功し、今川義元を討ち取りました。長篠合戦では鉄砲隊の威力を活かして武田勝頼軍に大勝しています。

 大村益次郎は幕長戦の長州軍勝利に貢献した後、戊辰戦争を指揮し、幕府軍を早期壊滅させました。

 秋山真之は日本海海戦の作戦を立案し、バルチック艦隊を日本海に沈めました。


 日本の軍事的天才の3人までが非業の死を遂げました。

 源義経は兄頼朝に追われ、奥州平泉で自害しました。

 織田信長は明智光秀に謀反を起こされ、本能寺で自害。

 大村益次郎は暗殺されかけ、その傷が原因で死去しました。

 秋山真之は日露戦争で戦死はしませんでしたが、長生きはできず、50歳で病死しました。

 軍事において卓越した人は、当然のなりゆきとして敵をつくりやすく、標的とされ、殺されてしまうのかもしれません。


 源義経はその軍事的使命を終えてから亡くなりましたが、織田信長が生きていたら、豊臣政権、徳川政権は成立していなかったと考えられ、その後の日本史はどうなっていたのだろうと想像する面白さがあります。

 大村益次郎は近代陸軍を育成する途上で亡くなりましたが、西郷隆盛の謀反を予見し、大砲をたくさんつくっておけと言い残していたそうです。

 秋山真之は日露戦争勝利の立役者のひとりですが、この戦争に勝利して、日本は名実ともに軍事大国となり、アジア・太平洋戦争へ向かっていくことになります。秋山真之が不在で、日本海海戦の完全勝利がなければ、その後の日本史はどうなっていたか。これも知的想像をしてみる価値があるかもしれません。


 太平洋戦争において軍事的天才はいたのでしょうか。

 候補者は山本五十六だと思います。真珠湾攻撃は成功させましたが、ミッドウェー海戦では大敗しました。

 真珠湾奇襲は戦術的に成功しましたが、アメリカ合衆国と戦争を行うということ自体が戦略的誤りであると考えられます。戦争遂行の決定者は政治家であり、山本五十六に責任はないかもしれませんが、真珠湾攻撃の成立により、アメリカ国民が日本戦に前のめりになりました。

 山本五十六は天才になり切れなかった人物だと思います。

 もし太平洋戦争が勃発しなかったら。

 ミッドウェー海戦後、多くの利権を手放すことになったとしても、すみやかに終戦できていたら。

 これも日本史のIFとして想像力をかきたてられます。

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