第141話 最近ヘラブナが面白くてしようがない。

 村上龍はかつて『すべての男は消耗品である。』というエッセイのシリーズを書いていた。

 その第3巻をふと手に取った。

 最初のエッセイは『アリゾナのゴルフ場が箱庭的で好きだ』で、書き出しは次のとおり。


 最近ゴルフが面白くてしようがない。


 それにならって、私もエッセイを書いてみよう。

 最近ヘラブナが面白くてしようがない、と。

 私はヘラブナ釣りを始める前に、ニジマス、ブラックバス、シロギス、ハゼ、カワハギ、メバル、アオリイカ、タチウオ、アジなどの釣りにハマり、それぞれの釣りから快楽を得てきた。

 釣りの快楽は強烈で、中毒性がある。毎日行きたくなるほどだ。

 私には仕事があるから、毎日釣りをすることは不可能。

 しようがないから、毎週釣行する。

 雨が降っても、風が吹いても釣る。

 アルコール中毒者に酒をやめろと言ってもやめるはずがないように、釣りキチに釣りに行くなと言っても無駄である。

 私は沖縄に行っても観光などせず、釣りばかりしていた。そして、でかい魚や烏賊を釣り、痺れるような快感を味わってきた。

 ヘラブナは退屈そうだと思っていた。ずっと座って当たりを待つ。そんな釣りのどこが面白いのか。魚を探してランガンするアクティブなブラックバス釣りの方が快楽が大きいに決まっている、と思い込んでいた。

 間違っていた。

 ヘラブナ釣りの快楽はブラックバス釣りと同等クラスだったのである。


 ヘラ師は常に戦略を練り、戦術を試している。

 様々な餌があり、それはバス釣りのルアーが各種あるのに似ている。

 練り餌を研究し、どのような特性があり、効果があるのかを究明する。

 どのように混ぜたらよいのか。

 水の量は多めがよいのか、それともか少なめか。

 ラインの細さと長さは。

 竿の長さと柔らかさは。

 各種のウキはどう使い分ければよいのか。

 季節ごとのヘラの動きはどうなのか。

 よい釣り場はないか。

 どのような釣り方をすれば、たくさん釣ることができるのか。

 ヘラ師は常に考え、情報を集めている。

 ヘラブナ釣りはブラックバス釣りに勝るとも劣らない奥深さを有していたのだ。


 研究し、それが当たって釣れたときの快楽は極上だ。

 ヘラ竿が半月に曲がる。抵抗するでかいヘラを寄せ、仕留める。

 脳内麻薬がドパッと出る瞬間だ。

 ヘラ師たちはその快楽の虜になり、釣り場に通い、一見退屈そうなヘラブナ釣りを夢中になってやっているのである。

 私は小説を書いているが、釣りを取るか、小説を取るかと迫られたら、迷いなく釣りを取る。

 釣りの快楽は文章を書く快楽を上回る。

 もし小説書きが金になるなら、やむなく釣行回数を減らすかもしれない。

 だが、身体を壊さない限り、釣りをやめることはけっしてない。

 仮に文章を書いて金がもらえるなら、その金で釣り具を買う。

 いまなら、ヘラ竿を買う。

 ノーフィッシングノーライフ。

 陳腐な言い方だが、一言で表現するなら、そういうことだ。


    ◇ ◇ ◇


  村上龍先生の文体の真似をしてみましたが、似ませんね。

 なにこの生意気なやつ、という文章にしかなりませんでした。

 実際は、文章を書くのも麻薬的に面白いので、釣りか小説かと訊かれたら困ってしまって答えられません。

「極上だ」は現在絶賛アニメ放送中の『スパイ教室』のクラウスさんの真似でした~。

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