第140話 吉本ばなな先生の初期作品が好きです。
なんとなく、吉本ばなな先生について書こうと思って、パソコンに向かい、キーボードを叩いています。
吉本ばなな先生は素晴らしい作家ですが、私はその初期作品が特に好きです。
『アムリタ』より前の小説が大好き。
はじめて『キッチン』を読んだとき、衝撃を受けました。なんだこの小説は。少女漫画より少女漫画みたいじゃないか!
軽い。読みやすい。でも深い。
ライトノベルが大量に生産されるようになり、軽い文体はめずらしくなくなりました。
しかし、ばなな先生の文体は、一瞬にして心を掴む力を持っていて、真似しようとしても、簡単にはできないのではないかと思います。
『キッチン』の書き出し。
私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。
どこのでも、どんなのでも、それが台所であれば食事をつくる場所であれば私はつらくない。できれば機能的でよく使い込んであるといいと思う。乾いた清潔なふきんが何まいもあって白いタイルがぴかぴか輝く。
ものすごくきたない台所だって、たまらなく好きだ。
書き写してみて、その文体の特異さにいまさらながら気づきました。
なんだこのひらがなの使い方は! 「いちばん」「何まい」「ぴかぴか」「きたない」。漢字やカタカナを使いそうな言葉をひらがなで表現している。びっくりだぜ。
「思う」をいきなり2回も使っていて、素人みたいだけど、そうじゃない。きっと計算して、語り手の心理を描写しているのだ。
「どこのでも、どんなのでも」すごく口語的。文学的じゃないところが逆に文学的に思えてくる。
吉本ばなな先生、すごいです。やっぱりただものじゃない。
『TUGUMI』の書き出し。
確かにつぐみは、いやな女の子だった。
漁業と観光で静かに回る故郷の町を離れて、私は東京の大学へ進学した。ここでの毎日もまた、とても楽しい。
私は白河まりあ。聖母の名を持つ。
これもすごいですね。
つぐみとまりあ。ふたりの主人公を最速で表現しています。
しかも、「いやな女の子」って。ヒロインのキャラ立ちがいきなりとてつもない。
『うたかた』の書き出し。
嵐とは1回キスしただけだ。
ここが日本だからまだよかったが、外国だったらそんなのほとんど友達以前の範疇だ。そしてすぐに彼は遠いところに行ってしまった。だから、私にはまだこれが恋かどうかも本当にはわからない。さっぱり、わかっていない。
これも最速の恋愛表現。読者の心を刺す速度が半端じゃない。1行目で突き刺す。
そして、漢数字ではなくて、アラビア数字を使っているところも、初めて読んだときには新鮮でした。文学は漢数字を使うものだと思い込んでいたから。
正直に言うと、私は『アムリタ』以降は、ばななファンではありません。
真の吉本ばななファンから怒られてしまうかな。
初期作品が特別に輝いている。
私はそんなふうに吉本ばなな作品を見ています。
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