第53話 女子野球漫画の主人公のような
小学生のときは、男の子に混ざって野球をやっていた。
中学校では野球部に入りたかったが、女子であるという理由で断られ、ソフトボール部に所属した。
いつかまた野球をやりたいという想いは消えなかったが、高校女子硬式野球部は存在しない時代だった。
ところが、1997年に鹿児島県の神村学園が日本で最初に女子硬式野球部を創設した。
彼女は栃木県に住んでいたが、野球をやりたい一心で神村学園に進学した。
投手志望で練習をしまくったが、投げ込みすぎて、肩を壊してしまった。くじけず、一年生のときはひたすら筋トレと走り込みに打ち込んだ。
二年生のとき、エースの座を手に入れた。
そのとき、全国に五校女子硬式野球部があり、全国大会には野球もできるソフトボール部を含めて、二十校が参加していた。
彼女は百十キロの球速が武器の速球派の投手だった。全国高校女子硬式野球大会で、埼玉栄高校を相手にノーヒットノーランを演じ、鮮烈にデビューした。が、決勝で習志野高校ソフトボール部に打ち込まれ、敗戦投手となってしまった。
猛特訓を積み、女子野球としては魔球クラスの百三十キロの速球を投げられるようになり、ついに春の全国大会で優勝する。
その年の全米女子野球選手権に日本代表チームの投手として参加し、二回戦でまたもノーヒットノーランを披露した。
夏の全国大会決勝の浜名高校戦では、五回に肩を負傷しながらも投げ続け、完投して春夏連覇のエースとなった。
女子高校野球漫画の主人公のような少女が実在したことに驚く。
彼女の名は小林千紘。
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