第32話 両崖山火事跡探訪

 廃墟探訪から始めたこの雑文集も第32話となった。

 今回は山火事跡探訪である。

 栃木県足利市にある両崖山で令和3年2月21日に山火事が発生した。消防署の努力にもかかわらず山中の火事は容易には鎮火せず、周辺の山にまで燃え広がった。完全に鎮火されたのは3月15日である。僕は山火事がどれほど恐ろしいものか確認するため、まだ山火事の跡が残っているであろう両崖山に登ろうと考えたが、しばらくの間、同山は立入禁止であった。4月になって、安全が確認されたためであろう、立入禁止は解除された。

 4月上旬の風が冷たい朝、僕は東武鉄道の有料特急に乗った。特急列車に乗るのは久しぶりだ。関東平野北部の田園風景が見える車窓を楽しんだ。両崖山の最寄駅、東武鉄道足利市駅で降車し、駅から両崖山の登山口のある織姫神社まで歩いた。

 足利市は関東平野の北の端に位置している。

 織姫神社は山腹にある。

 麓の鳥居から境内まで229段の階段がある。「229段登れば叶う縁結び」との標語看板があった。マスクをしながら登るのはなかなかきつくて、体が温まった。

 朱塗りの社殿が美しい神社だった。

 織姫神社は縁結びの神社として全国的な知名度を誇っているらしいが、僕は知らなかった。「恋人の聖地」という幟が翻っていた。

 境内からは渡良瀬川が流れる足利市街が見渡せる。これを見るだけでも来るかいはある。

 神社から両崖山まで約2キロメートル。登山口は緑豊かだった。登山道の途中に機神山古墳群がある。はたがみやまと読む。

 6世紀の古墳群らしく、興味深い。発掘調査され、埴輪や土器などが出土したそうだ。登山道の途中に2基の古墳がある。

 両崖山登山道はときどき眺望が開けて、美しい風景を見ることができる。関東平野と丘陵地帯が見渡せる。おすすめできるハイキングコースだ。山名に崖がついているだけあって、岩場が多い。しっかりした登山靴を履いて登る必要がある。

 山道にはヤマザクラやツツジが咲き乱れていた。美しい道だなと思っていたら、山頂まで残り約700メートルというあたりで、焼け焦げたツツジの枝葉が落ちた山肌を目にした。焦げた臭いがまだ漂っている。

 山の斜面の片側はツツジが咲き、もう一方は火事にやられていた。

 山火事予防の古いポスターが貼られた樹があった。予防はできず、火事は発生してしまった。

 山肌は灰が落ちて黒く汚れ、多くの樹々が根本を焦がしていたが、完全に燃えてしまった樹は少なく、森林はしぶとく生き残っていた。

 山頂直下の休憩所は完全に焼け落ち、焦げた木材が積みあげられるばかりとなっていた。その周囲の森は枯れていた。

 山頂に登った。標高は291メートル。両崖山頂には平安時代末期から戦国時代にかけて城が建っていたらしい。

 古墳や城跡がある。この登山は歴史探訪の旅でもある。

 山頂の祠も焼け落ちていた。山頂周辺の森には、真っ黒に焼けている樹と助かった樹が混ざっていた。かなり太い樹が斜面に倒れていた。やはり山頂周辺は相当酷い火災だったようだ。

 火事の原因はタバコの不始末と見られている。タバコを山で捨てるのはやめようという平凡だが大切な教訓を書き記しておく。両崖山森林の完全なる再生を祈る。

 下山した。足利市駅までぶらぶらと歩いた。なかなか面白い建物がある街だとわかった。

 かなりの歴史と風格のある薬屋、蔵造の居酒屋、蔦の絡まる建物が格好いい中華料理店、映画館の廃墟などが見られた。

 足利市には平安時代に創建された高等教育機関「足利学校」の建物も残存している。観光資源の豊かな街だ。関東地方に住んでいる方なら、小さな旅を楽しめると思う。

 

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