第23話 超大国アメリカはなぜベトナムに負けたのか?

 強大な陸海軍を擁していた大日本帝国を完膚なきまでに叩きのめし、広島、長崎への原爆投下でとどめを刺した超大国アメリカが、比較すれば明らかに弱小国であるベトナムになぜ負けたのか、不思議に思って調べてみた。

 調査に当たっては、平凡社の世界大百科事典とブリタニカ社のブリタニカ国際大百科事典を参照し、ネットに頼るのは最小限にとどめた。それでも便利さには抗えず、ウィキペディアとヤフー知恵袋には頼った。

 結論からできるだけ簡潔に書くと、ベトナム人兵士の鉄のような意志とアメリカの自滅により、ベトナムは勝利し、アメリカ合衆国は敗北したと言えるようだ。

 しかしベトナム戦争史は簡潔ではない。

 まず、ベトナム戦争は第一次と第二次に分かれる。第一次はフランスとの独立戦争であり、第二次がアメリカとの戦争である。

 第二次ベトナム戦争は1960年に南ベトナムで内乱という形で始まる。

 当時、ベトナムは北のベトナム民主共和国と南のベトナム共和国に分かれていた。第一次ベトナム戦争後に分割され、民主的な選挙により統一されるはずだったのだが、南ベトナムの軍事政権はこれを拒絶していた。

 1960年、南ベトナム解放民族戦線が独裁的恐怖政治に反発して、反政府闘争を開始する。これは内乱であり、まだアメリカは参戦していない。解放戦線は南ベトナム政府や米国からはベトコンと呼ばれるようになる。太平洋戦争で日本人がジャップと呼ばれたようなものだろうか。

 南ベトナム軍事政権は解放戦線の反乱を鎮圧できなかった。1965年、米国のジョンソン大統領はアメリカのベトナム軍事基地への解放戦線の攻撃に対する報復を理由に参戦することを決意する。

 しかしここがよくわからないのだが、アメリカは南の解放戦線ではなく、北のベトナム民主共和国に対する爆撃を開始するのである。おそらく解放戦線を北ベトナムが支援していたからだろう。こうしてアメリカとベトナムの戦争が始まった。

 戦争の当事者はベトナム民主共和国、南ベトナム解放民族戦線、ベトナム共和国、アメリカ合衆国である。北をソ連、中国、北朝鮮が支援し、南とアメリカを英、仏、台湾、日本などが支援した。

 この戦争により、多くのベトナムの軍人と民間人とアメリカの軍人が死に、ベトナムの自然が荒廃する。米軍と南ベトナム軍は枯葉剤と呼ばれる化学兵器を使用した。死者・行方不明者はベトナム人とアメリカ人を合わせて八百万人を超える。無論ベトナム人の方が圧倒的に多い。

 北ベトナム軍と南解放戦線が降伏しなかったのは、僕には奇跡のように思える。大日本帝国は沖縄を除いて本土決戦をしなかったが、ベトナムでは戦場はすべて本土だった。継戦は超人的な意志力によるものとしか思えない。

 勘違いしてほしくないのだが、僕は大日本帝国が本土決戦をするべきだったと考えているわけではない。むしろ逆で、できるだけ早く、できればミッドウェー海戦の敗北を機に降伏すべきだったと思っている。それが当時可能だったかどうかはわからないが、そこでやめていれば、日本の戦死者は桁違いに少なくて済んだ。

 ベトナムの話に戻る。ベトナム人は驚異的な意志力で戦い続けた。世界ではベトナム反戦運動が吹き荒れる。世界各地で数万人、数十万人規模で抗議集会が行われた。日本も例外ではない。日本政府はアメリカを支援していたが、日本でも反戦運動が活発化した。

 アメリカ政府を追い詰めたのはこの反戦運動であり、特に国内での運動の高まりである。徴兵拒否、軍隊内での地下反戦運動、軍事機密文書暴露などの内部告発、黒人解放運動と反戦運動との結合・・・。

 1969年に発足したアメリカのニクソン政権はベトナムにおける軍事的な勝利が不可能であると判断し、徐々に撤退していく。それは世界各国からきびしい批判にさらされていたことからも不可避であったようだ。

 1975年、サイゴンが陥落する。ベトナム戦争は社会主義勢力の完全な勝利のうちに終結した。1976年、ベトナム民主共和国はベトナム社会主義共和国に改名する。

 最後に残る疑問。アメリカはなぜベトナムで原子爆弾を使用しなかったのか?

 1945年、広島、長崎で悲劇があったとき、まだソビエト連邦は核兵器を持っていなかった。1949年に核を開発する。ソ連は北ベトナムを支援しており、その報復を怖れて、アメリカは原爆を使用できなかったと思われる。

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