第21話 村上春樹の女性キャラ

 村上春樹〔敬称略〕を僕は激しく愛読している。何度も読み返した長編小説があるし、短編もエッセイもたいていは読んでいる。僕の小説「作家志望愛詩輝の私小説」で主人公が作家をめざす理由を春樹の作品に感動し、憧れたからと設定したほど僕にとって特別な作家だ。

 さて、春樹の小説の女性登場人物はまるで漫画かアニメかラノベかと思うくらいキャラが立っている。1979年にデビューした春樹はラノベを先取りしたと言っても過言ではないと思う。僕が特に好きなキャラを紹介したい。ネタバレはあるが、作品を読むのに支障がない程度にとどめるよう気をつける。

 最初に紹介するのは「羊をめぐる冒険」の主人公のガールフレンドだ。21歳。耳専門のモデルで、ふだんは髪で耳を隠している。耳を出すと凄い魅力を放ち、エロさも増す。「私たちはお友だちになった方がいいと思うの。もちろんあなたがそれでよければの話だけれど」と言う。なんという都合のいい女の子。ラノベキャラだよね。

 次に「ダンス・ダンス・ダンス」のユキ。13歳の美少女。特別な感受性を持つため周りに馴染めず、不登校だ。主人公にも最初はつっけんどんだったが、やがてなつく。ロリでツンデレだ。「あなたすごく良い人だったわよ」と彼女は言った。どうして過去形で話すんだ、と僕は思った・・・。

 続いて「ねじまき鳥クロニクル」の笠原メイ。ポニーテールの女子高生。バイクの事故でケガをしており、彼女も不登校だ。「人が死ぬのって、素敵よね」「ねぇ、ねじまき鳥さん、知ってる? あなたは私の気持ちひとつでそのまま死んじゃうかもしれないのよ」激しくエキセントリックなセリフが魅力的だ。彼女もやはり主人公が好きなのである。

 4人めは「海辺のカフカ」の大島さん。21歳の私立図書館司書。血友病患者で性的マイノリティである。「僕はこんな格好はしていても、レズビアンじゃない。性的嗜好で言えば、僕は男が好きです。つまり女性でありながら、ゲイです」と言う。「世界はメタファーだ、田村カフカくん」主人公のメンターでもある。こんなにキャラの濃い人はめったにいない。

 5人めは「1Q84」のふかえり。本名は深田絵里子。黒髪ロングの美少女。読字障害ディスクレシアでありながら、小説「空気さなぎ」の作者である。しゃべり方がカタコトで独特だ。「ホンは読まない」「よむのに時間がかかる」「すごく」「もりのなかではきをつけるように」「もういちどネコのまちにいく」そのカタコトのため、幼い印象を受けるが、17歳だ。僕には女主人公の青豆よりも鮮烈なキャラクターだった。

 最後に紹介するのは「騎士団長殺し」の秋川まりえ。13歳の女子中学生で、無口キャラだ。幼い頃に母親がスズメバチに刺され亡くなっている。主人公の画家はまりえの肖像画を描く。「絵が未完成だと、わたし自身もいつまでも未完成のままでいるみたいで、素敵じゃない」中学生だが、ふかえりよりも大人びた印象を持った。

 春樹は稀代のキャラクターメイカーである。未読の方にはそのほとんどすべての長編小説をおすすめする。多少趣味が合わない方もいるかもしれないし、実は僕にもこの作品はちょっと、というものがあるのだが、読まず嫌いはもったいない作家である。純文学作家にして、多くのラノベ作家にも影響を与えたであろう天才だ。

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