魔法少女☆ロジカルアップル 最終決戦後に異世界へ転移しちゃったんだけど変身アイテム(スマホ)のバッテリーがピンチです! 助けて!!
荒木シオン
魔法少女の受難は続く……。
「どこ?! ここはいったいどこですかぁ?!」
深い深い森の中、
彼女の名前は
そんなアップル、いやリンゴは最終決戦を終えた直後、不可思議な光に包まれ次の瞬間、気がつけば
小学校四年生から始めた魔法少女業も
人生とはかくも予想外で理不尽なのか、とリンゴがその場で
『ハロー! アップル! 良いニュースと悪いニュースがあるよ!』
腕に装着するスマホ型の魔法少女変身デバイスから話しかけられた。
恨みがましい視線を向ければ、昨今の魔法少女にお約束であるウサギかリスか、はたまたネズミか、微妙に形容しづらいマスコット的愛玩動物が画面内で手を振っている。
「シーリ、割と嫌な予感がするんですけど……とりあえず良いニュースから……」
『オッケー! アップル! じゃあ、悪いニュースから! なんとビックリ! ここはキミの暮らしていた世界じゃないみたい! つまり異世界だね! ヒュ~ゥ♪』
スマホ内でクルクル回りながらどこかやけくそ気味に喋るマスコット的愛玩動物、シーリの言う意味が分からず呆けていると、
『けど、安心して! 魔法少女☆ロジカルアップルの全機能は問題なく使用できることが確認されたよ! やったね、アップル!
ドヤ顔に決めポーズまでとりキラリとウィンク一つ。
そんな魔法少女の相棒たるマスコットを無言で見つめ、内容を理解するのに数分――、
「はぁあぁあぁあぁあぁあ?!」
――魔法少女☆ロジカルアップル、
『落ち着いて、アップル! リリカルにならずもっと論理的に、そうロジカルに現状を考えようじゃないか!』
「うっせぇ! うっせぇ! うっせぇわ! この状況が
そう、現状はとてもマジカルである……理性など砕け散った。
腕から外したスマホをギリギリと握りしめ画面に映るウサギリスネズミ、シーリを親の
『割れる! アップル! 画面が割れる! 分かった! 分かったから! 元の世界に戻れるようにボクも頑張るから!』
冷や汗を流しながら焦り慌てるシーリの言葉に握力を弱めるリンゴ。
なんだ、戻れるならそういうことは早く言って欲しい。思えば、このマスコットはいつだって言葉が二、三足りなかった。
魔法少女だって本当はもっと早くに辞めているはずだったのだ。なのに契約は一期、二期とずるずる更新され今に至る……。
マスコットの言うことを信用してはいけない。中には体が白くて目が赤いウサギなんだかネコなんだかよく分からない地球外生命体もいるのだ……。
さておき、戻れるなら早く戻して欲しい。そう思いリンゴは彼女の人生を狂わせた元凶へ目を向けるが、
『い、今すぐには無理だよ! 異世界転移用マジックアプリとか初めて組むし!』
アワアワと手を全力で振り現状を説明し、そうして申し訳なさそうに付け加える。
『あとこれは重要なことなんだけどね、アップル? スマホの……変身デバイスのバッテリー残量がちょ~っと心許ないから節約してくれると助かる、かな? な~んちゃって?』
そう、
古き良きマジカル理論で動く不思議な永久機関と違い、エレキテルパワーをバッテリーへ充電して動く真っ当な家電アイテム。つまり、電気がないと詰む!
「はぁぁああぁぁぁあああぁぁああ?!」
『落ち着いて、アップル! あくまで充電手段が見つかるまでの応急対応だよ! バッテリーが充電できる目処が付けばいつも通り使って構わないから! ちなみにアップル? キミはソーラーバッテリーを持ってたりしないかな?!』
「あるわけねぇー……」
実際、ソーラーモバイルバッテリーを
想定よりハードな現状に思わず空を仰ぐリンゴと、万に一つの希望が打ち砕かれ画面内で肩を落とすシーリ。
その場をなんとも言えない重い空気が支配しようとしたとき、
【ギュインッ! ギュインッ! ギュインッ!】
突如としてスマホから鳴り響くけたたましい警告音!!
『気をつけて、アップル! 敵意ある存在がこっちへ近づいてくるよ!』
「あぁ……貴重なバッテリーが消費されていく……」
慌てるシーリと若干涙目で立ち上がり迎撃態勢をとるリンゴ、いや魔法少女☆ロジカルアップル。
そんな彼女たちの前に森の木々の合間から姿を現したのは、虚ろな目をした丸い頭の金属製機械人形――、
「『ペッパリー君!?!?!?』」
――悪の組織ハードバンク、その総帥が最終決戦で大量投入したAIロボット、その一機であった!
バチバチと各部から火花を散らせ、
しかし、次の瞬間、そんなボロボロのペッパリー君へアップルは問答無用で殴りかかった!
「よっしゃーーーー! 電力ゲットぉおおぉおおぉ!!」
『バイオレンスだよ、アップル?! もっとロジカルに! ロ~ジ~カ~ル~に~!!』
数分後、ボッコボコのベッコベコにされたペッパリー君の内部から回収したリチウムイオンバッテリーを前に満面の笑みを浮かべるアップル。
まさに
「それで? シーリ? これでバッテリーは大丈夫ですよね?! 私、ちゃんと向こうへ帰れますよね?!」
電力という心の余裕を手に入れ、いくぶん普段通りの言葉遣いに戻ったアップルが期待を込めた眼差しでスマホを見つめると、
『もちろんさ、アップル! これで七日は問題なく稼働できるよ!』
こちらも満面の笑みで頷く画面内のシーリ。
その答えにうんうんと嬉しそうに笑いながら、アップルはガシッと力強くスマホを握りしめ、画面向こうのマスコットを睨み付けた。
「はっ? 七日? たったの? ところで、ちょっと尋ねたいんだけどウサギリスネズミ? 異世界転移用マジックアプリってどれくらいで完成するの?」
『……不明だね、でも、多分、恐らく、メイビー、七日では無理……かも?』
「ふ~ん……で? さっきのバッテリーが使えるのは七日だっけ?」
『はぁ~、まったく……キミのような勘の良い魔法少女は嫌いだよ、アップル』
「本気で画面砕くぞ!? この
『わぁ~! 待って! 待って! 割れる! 本気で割れる! ミシッて! 今、ミシッて鳴った! しちゃいけない音がした! ごめん! ごめんってば!』
かつて無い危機に涙目で慌てて謝るシーリの姿を目にし、深い溜め息を
早まってはいけない。いくらムカついてもこれを砕けば、自分は元の世界に帰る手段を完全に失う。バッキバキに叩き割るのは向こうへ帰ってからでも遅くはない。
そう自分に言い聞かせアップル、
「ごめんなさい。少しだけ取り乱しました。それで、シーリ? 今後はどう動けば良いですか?」
『いや、うん……こ、こっちも言葉足らずだったね。ごめんよ、アップル。それで、これからのプランだけど……』
その笑みに不穏なものを感じつつ、されど指摘する勇気は無く、シーリは言葉を選びながら慎重に話を続ける。
『ま、まずはバッテリーの確保。きっと他にもこっちへ飛ばされているペッパリー君はいると思うんだ。あとはやっぱり節電モードでの活動を徹底して、いざという時に使える電力を残しておくのが重要だと――、』
などなど、異世界での今後の活動方針が決まっていく……。
そうして小一時間話し合い、
「分かりました! じゃあ、まずは人のいる街へ向かいましょう!」
『うん、そうだね! 幸いにもこの森を北へ十キロ進んだところに大きな街があるみたいだ!』
「なるほど、じゃあ、まずそこを目指しましょう!」
『オッケー、アップル! これからも二人で頑張ろうね!』
リンゴとシーリは街へ向かって森の中を歩き出す。
彼女たちはまだ知らない……このあとなんだかんだで勇者だ、聖女だと祭り上げられ魔王や邪神と戦うハードな未来を。
けれど、それはまた別の物語……。
頑張れ! 魔法少女☆ロジカルアップル! 戦え! 魔法少女☆ロジカルアップル! 皆の平和な未来を守るために!!
※現在のバッテリー残量:56%
外部バッテリー残量:七日分
完
魔法少女☆ロジカルアップル 最終決戦後に異世界へ転移しちゃったんだけど変身アイテム(スマホ)のバッテリーがピンチです! 助けて!! 荒木シオン @SionSumire
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