第二章・主観と客観(二)


 貴族の戦士のアルドナ


 「雪の夜の火」という旅館は有名で、遥か遠くのスルツクに住んでおるわたくしも知っておる。この豪華な旅館は五階建てで、地上階が三階で、地下階が二階じゃ。美しい庭もある。雪の夜の火特製の焼き肉、ボルシチ、パンは大公国で一番美味しいという噂がある。もし半年前に予約しなかったら、冬にこの旅館には泊まれないようじゃ。


 大公と彼に仕えた官員たちは、毎回ヴィテブスクへ巡視に来た時にここに泊まる。この旅館には彼ら専用の五つの上級部屋が用意してある。大公に好まれているおかげで、ここの宿泊費は他の旅館の二倍以上でも、客は絶えず、皆ここに泊まって贅沢さを体験したがる。


 「こんばんは。わたくしは市長が開く宴会に参加します。これはわたくしの招待状ですじゃ。」


 「はい、私と一緒に二階に来てください。」


 私が旅館に入った後、給仕人は私を宴会ホールがある二階に案内した。このフロアには町と国の紋章が描かれている羊毛のブランケットが敷かれてある。壁に掛けてある灯篭は多彩な宝石が付いて穏やかな光を放っている。旅館というより貴族の宮殿じゃ。たとえ常に暴風雪と魔獣に囲まれても、この帝国の辺境地に位置するこの町は、想像できないほど繁栄しておる。


 「宴会ホールの側に男性と女性の更衣室があります。宴会にご参加になる前に、あちらで少し化粧してもかまいません。もしご用があれば、ご遠慮なく呼んでください。」


 「はい、ありがとうございます。」


 宴会が始まるまでまだ半時間あるから、わたくしは先ず更衣室に行ってみよう。どなたかと会うかもしれん。


 更衣室ではもう幾人の女性がお喋りをしておった。わたくしが入ると、彼女たちは手を振って挨拶してきた。


 「ドルツカ様、市長の宴会へご参加くださってありがとうございます。」


 ラヨスの秘書のアシカはわたくしにお辞儀をした。この女は襟が分かれておるドレスを着て濃い化粧をしておるから、昨日より艶めかしいと感じた。


 「他の賓客を紹介させていただきます。こちらはラヨス市長の奥様、この市で有名な黒髪の美人であるネフリタ様です。こちらはコニチ当主の二人のご令嬢、美少女姉妹のダグマラ様とダヌシャ様です。こちらは毛皮工房の経営者のクンジア様です。最後に、こちらは雪の夜の火の将来のオーナー、親切な笑顔をお持ちのチェシア様です。」


 「皆さんとお会いできてうれしいですじゃ。わたくしはスルツクから来たアルドナ・ドルツカですじゃ。」


 わたくしは彼女全員と握手した時、ラヨスの奥さんの表情が冷たいことに気付いた。アシカがわざわざ彼女の機嫌を取ろうとしても、彼女はちっとも嬉しくなさそうじゃ。ダグマラとダヌシャ姉妹は表情が堅い…堅いと冷たいはちょっと違う。この姉妹はわたくしに敵意を抱いていると感じた。彼女たちはラヨスから何を聞いたのか?クンジアとチェシアは、わたくしと握手した時微笑んでいたから、特におかしいという気はしない。


 「服を着替えますから、ちょっと待っておってください。」とわたくしは彼女たちにお辞儀をした後、部屋の端に行って礼服に着替えた。


 今日の礼服はスルツクで着た服装より露出度が低くて、肩と少しの谷間が見えるだけじゃ。美貌も情報を得る大切な手段の一つじゃが、ラヨスのやつときたら、色気を売るのは彼の秘書の役だと考えたのじゃろう。


 ヴワデクは順調に商館に潜入できたのかのう?



 感動的な三拍の舞曲が響き、美味しい食べ物の香りも溢れておった。宴会の参加者は食べ物を堪能しながら、楽しくしゃべっておる。みんなの心には幸福感と快楽感が満ちておる。


 ラヨス市長は浪漫の雰囲気を作るために、わざわざ五人の弦楽器バンドを呼んで舞曲を演奏させた。この舞曲は帝国の東部で有名な「出会いの舞曲」で、吸血鬼の少女は月が明るい夜に渓岸で妖精の少年と出会うという物語を述べるものじゃ。


 自分はこの時機を利用して、意図が見透かされないまま情報を聞くべきだと分かっておる。


 先ずは誰に聞いたほうがいいかのう?と考えた時に、ラヨス市長が宴会の来賓と次回の選挙についての話の中で、彼らに支援を求めたいという内容が耳に入った。


 「議員の同僚たち、今度の市長選挙もお願いします。私は市にもっと富をもたらして、もっと職人を市に移住させますから!」


 「今はラヨスさんだけが議員たちの紛争を解決したり、全ての職業に経済発展の利益を与えたりできますので、もちろん応援していますよ!」


 とある議員は答えた後、みんなで上等なワインが入っているグラスを持ち上げて、乾杯した。


 ラヨスのやつがわけもなく宴会を開いたのは一体どういう目的なのか…と考えてすぐ分かった。なるほど、自分が市長を再任できるように道を開きたいからじゃのう――市長は市議員たちがお互いに選んで決めた官職なので、お金と苦労をかけねば、他の議員から支援を得ることはできぬのじゃ。


 ちょっと待って…ラヨスはお金持ちに違いないが、彼はコニチ家族にも多くの政治献金をもらったのか?


 「ダグマラお嬢様とダヌシャお嬢様、お父様が宴会に出席できなくて本当に残念ですね。次の選挙で彼の支援を得られれば幸いに存じます。」


 「父にそう伝えます。私たちは力になれるなら協力し続けたいです。市長様。」


 おう、わたくしは重要な情報を聞いた。なるほど、コニチ家族の当主は議員なのじゃ!それならば、彼には町の政策の方向を決めるのは勿論容易いことだ。


 「はい、二人のお嬢様は健康を保ち、日々美しさを磨かれますように。」


 「ご祝福ありがとうございます。」


 美しいと言えば、コニチ家族の二人の令嬢は、まだ若くて小さいが、既に一流の美女の魅力を持っておる。彼女の体は既にメリハリがあるようになった。まだ成長している腰には健康的な感じがする上に、余分な肉がない。膨らんだばかりの豊かな胸は、風船のようにボリューム感と張りがあって、全然重力に従わぬ。


 このような美少女は将来、きっと沢山の男性たちに性欲の火を点けて、彼らに多くのお金と花束を捧げさせて、求愛を得ることができるじゃろう。有力な貴族の嫁にも困難なく行けるほどじゃ。


勿論、わたくしもそんな自信を持っておる。今でも未来でも、わたくしのスタイルと美貌は、この二人のお嬢さんに負けるはずがない。でもね、若い頃に自分に相応しい貴族と結婚する気はない。それより、完全にわたくしに服従して、わたくしの権力を追求する夢を支持してくれる男を見つけたほうが良いと思う。


 わたくしの下僕になりたくない男は、わたくしと付き合う資格がない。


 次は誰と話せばいいのかのう?あの毛皮の商人のクンジアは、一人の男性と話し終えたようじゃから、彼女と話してみよう。


 わたくしが向かうのを見たクンジアは挨拶してくれた。


 「アルドナ保安官、宴会はいかがですか?食べ物と飲み物はお口に合いますか?」


 「みんなが言った通り、雪の夜の火は高級旅館なので、泊まらなくてもここで食事はするべきじゃ。」


 クンジアのセクシードレスの仕立てと生地から見れば、彼女は多分お金持ちじゃろう。Ⅴネックのドレスは首から胸の下まで開いておる。彼女の前に突き出した巨乳は、服をきつくして、まるで発射寸前の大砲のようじゃ。ミア姉様と一戦できる巨乳じゃと思う。


 「旅館の若い女将チェシアはうちの友達ですので、そう褒めてくれると、うちも嬉しいですね!」


 「ここの雉肉の煮えと香辛料の鹿肉ケバブは一流の食べ物なのじゃです!黒ルーシでも赤ルーシでもこんな美食を食べられることは少ないぞ。」


 「あら、わたくしたちのお客さんは食べ物が好きでしょうか?この中で、二つの料理はわたくしが創作したばかりのものですよ!褒めてくださってありがとうございます。」


 傍を通ったチェシアはわたくしたちの対話を聞くと、声をかけてきた。彼女はとても元気な女性のようじゃ。ミア姉様より少し年上かのう。


 「もし他の貴族の友人がこの町に来たいならば、彼たちの身分に相応しいこの旅館をお勧めしますわ。」


 「ありがとうございます。実は、わたくしは一軒の旅館の経営だけに留まりたくないのです。今は分店を建てる資金を貯めているのですよ。もっとお客さんに来ていただければい幸いです。」


 「もし二軒目の旅館を建てたいなら、旅館のフロントにうち専用の空間を作って、毛皮商品を販売させてね!」


 「貴女のような美女がお客さんを惹き付けてくれれば、千客万来になるでしょ!」


 二人は笑い出した。クンジアの私より豊かな胸は彼女の笑い声に伴って揺れて、まるで自己意識を持っておるようじゃ。女性であるわたくしすら目を奪われるのじゃから、勿論男性もそうじゃろう。


 貴族にとってこんな宴会は伴侶を探す良い機会じゃ。したがって、男性も女性も自分が格好良くて美しい一面を表現しようと思っておる。


 「アルドナ様がヴィテブスクへ捜査に来たと聞きました。そうでしょう?若い頃保安官を務めるのは本当に容易くない仕事ですね!」


 「そうですね。でも、幸いな事に、親戚はよくわたくしを世話してくれております。」


 この時、ある中年の男性がわたくし三人に声をかけてきた。


 「クンジア様、チェシア様、遠くから来られたドルツカ様、こんばんは。わしは議員のカロルで、次回の市長の候補者の一人です。」


 カロルはちょっと太っておる妖精で、気立てが良さそうな丸い顔をしておる。彼はわたくしと握手する時、わざわざ両手でわたくしの手を包んで自分の誠意を示した。


 「すみません。次回の選挙の候補者は何人いますか?」


 「わしとラヨス様だけです。今、みんなはラヨス様が勝つと予測しています。でもね、わしは徐々に彼の支持率を超えていきますから、ご支援お願いします。」


 市長は市民が直接選べぬのじゃが、市民たちは投票と寄付で、誰が市長になればいいか議員に進言することができる。したがって、このカロルはできるだけ腰を低くして、全ての賓客に支持を求めておる。政客は政客じゃのう~


 カロルは私に微笑んで、礼服の裏ポケットから広告チラシを出して見せた。


 「ヴィテブスクは毎年の夏に辺境商品の博覧会を開催しています。白ルーシから赤ルーシまでの商会は申し込めます。今年、わしは担当者の一人ですから、もしドルツカ様がスルツクの商人を博覧会に参加させたければ、わしは申し込みの手続きを省略できます。」


 「おう、それならば、感謝しますね。」


 「何着か美しいジュパンとベルトを贈ってくださるなら、申し込みをすぐ許可しますよ。」


 こういう取引の方法はもう公然賄賂を要求することと同然じゃろう。それでも、わたしくは興味を持つ振りをして質問し続けた。


 「大公に属する商会も、一般的な民間商会と連合して博覧会に出てもかまいませんか?」


 「勿論です。充分な報酬をいただければ、一番良いところの屋台をご推薦された商人に提供しますから。」


 「それならば助かります。わたくしが戻った後、城主様と話し合いますね。わたくしたちはマーケットが発展することを望んでおりますぞ!」


 カロルのやつも貪欲な男じゃから、彼は既に釣られたようだ。


 「もし博覧会が大成功ならば、選挙におけるカロル様の声望も高められるじゃろうね?」


 「はい、ですから、各地から優秀な商会を募集するのが今の最も重要な仕事です。この後、連絡をくださりたいなら、わしの家に手紙を送ってもいいです。」


 カロルは私に名刺を渡した。名刺に琥珀で作られたインクで彼の職位と住所が書いてある。


 「じゃ、お互いに連絡を保ちましょうね。選挙が順調に進みますように。」


 私とカロルの話が終わるとすぐに、向こうにいるラヨスはベルを鳴らして、賓客たちに彼が伝えたいことがあるのを示した。


 「お客様、お話が盛り上がっているところをお邪魔して申し訳ありません。吾はこの市がこれからすぐ実行する建設計画を発表いたしますので、ご清聴お願いいたします。」


 ラヨスは話が終わった後、お辞儀をしてから宴会場の中央に向かった。コニチ家族の姉妹も彼に付いて行った。

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