追い詰められるゲス野郎

ブンゼ・ブンドローはバルグの邸宅から逃げるように去った。そしてバルグの邸宅が見えなくなったところで拳を作り握り締めて震わせる。


「クソッ⁉︎ あの小娘がぁ! 調子に乗りやがってぇ‼︎」


ブンゼはそう言いながら他人の家の壁を殴り付けるが、自分の手が痛むだけで何も意味がない。


「〜〜〜ッ⁉︎」


…しかしもう後がない。何とかして今日中にあのフェンリルと妖精を手に入れなければ店を差し押さえられちまう。


そう。ブンゼがこうなってしまったのには理由がある。

ブンゼは商会ギルドに加入してからしばらくの間は真っ当に仕事をしていた。事業が成功し5店舗ほど店を構えられるほどになったところで、自分ならもっと稼げると欲が出てしまい違法じみたことをやり始めてしまった。

しかしその悪事はバレてしまい違約金や謝罪料などを払うハメになった。その為5店舗あった店の内3店舗を手放して何とか自分の店を保つことが出来たのだが、悪い噂が立ってしまった為ブンゼの店に入る者がほぼいない状態になってしまった。

仮に入ったとしても品物が値段に添わない上に、店員がボッタリをしようとして来るので客に逃げられてしまう。そしてその逃げた客が他の人に体験談を話すので客が遠退くという悪循環に陥ってしまっているのがブンゼの店の状況なのだ。


…やはりもう一度行って金を受け取って貰うしか方法がないな。


そう思いバルグ邸へ向かおうとしたところ、足をピタリと止めて顔を青ざめさせてしまう。何故そうなるのか?

その理由は単純明快でブンゼにとって会いたくない人達に会ってしまったからだ。


「ブンゼさん。妖精とフェンリルを受け取りに来たんですが、お店にいらっしゃらなかったので探しましたよ」


「そうそう。今日が引き渡しの予定日だよなぁ?」


そう言って近付いて来る二人組にブンゼはたじろいでしまう。


マズイ⁉︎ こ、この場をどうにかしないと……。


「いや、そのぉ……ちょっと予定外のことが起きてしまいまして…………」


「予定外? 一体どうしたんですか?」


「それがフェンリルと妖精を従魔にしている彼女がやっぱり売るのを止めた。と言われまして、今何とか説得しているところなんですよ」


「あれぇ〜? 俺達にはもう話が済んでるからって言わなかったっけ? お前これで連れて来なかったら借金をどうやって返すつもりなの?」


そう。言わなくれもわかっていると思うがブンゼが経営難に陥ってしまっている。本来なら商会ギルドに加入していれば商会ギルドから金を貸して貰える制度がある。

しかしブンゼの場合は悪事をやっていたペナルティとして貸し出して貰えなかった。

その為か貸金業者。いわゆる闇金に金を借りて何とか経営を維持している状況なのだ。

そしてその貸金業者がブンゼの目の前にいる2人なのだ。


「こうなってしまったら、借金帳消しの話はなかったことにしましょう。」


「そ、それは困ります!」


「困るも何もそれが交わした約束ですし、何よりもお金を借りる契約しましたよね? 契約書をもう一度ご確認致しますか?」


「……うっ⁉︎」


もしも契約書の確認って言ってコイツらに事務所へと連いて行ってしまったら、どんな仕打ちを受けるかわかったものじゃない⁉︎


「お、お願い致します! あの女を説得しますので、どうか…どうかもう少し待って頂けないでしょうかっ‼︎」


ブンゼは額に脂汗を滲ませながら石畳みの上で土下座をした。


「あ〜……もういいよ」


「えっ⁉︎ 待って頂けるのですか!」


そう言って顔を上げるのだが、貸金業者の2人の顔が冷酷と言えるほど怖い顔でブンゼを見下ろしていた。


「いや、そうじゃないよ。俺らはもう事実を知ってるから、頭下げても意味ねぇよって言ってるんだよ」


「じ…事実? 事実ってどうい…ぶふぁあっ⁉︎」


顔を蹴られたブンゼは余りの痛さに顔を抑えて悶絶してしまう。


「惚けんなよタヌキ親父。カイリって女性は最初っからお前に売るつもりがなかったんだろ? しかもちゃんと売らないと拒否していた」


「しかも暗殺者を雇って奪おうとして失敗してよぉ〜。その金は何処にあったんだぁ? あるんなら俺らに渡した方がよかったんじゃねぇのか?」


「しょ、しょれは……」


「俺達に金を借りてから1レザすら返してなかったな。ちょっとでもいいから金を返していれば、お前のことを信用してまってやっていたかもな」


そう言えば期限までに金を集めて一気に返せばいいと考えてたから、1レザも返してなかった。…と言うよりも経営が全く上手くいってないから金を返す余裕すらなかった!


そんなことを思っている中、貸金業者はブンゼの懐が膨らんでいるのに気が付く。


「なんだお前金持ってんじゃねぇか」


貸金業者の1人がそう言うと、ブンゼの懐にある金の入った袋を取り出した。


「…あっ⁉︎ それは!」


ブンゼがそう言って手を伸ばすが2人が睨んで来た。その姿に恐れてしまったブンゼは凍り付いたかのように固まってしまった。

ブンゼが余りの怖さに固まってしまっている間に、2人は中身の確認を済ませる。


「……全部で17万レザか」


「オイオイ…こんな値段で妖精とフェンリルを買おうとしていたのかよ。闇市で売った方が倍以上の値段が付く筈だぜ」


「そうだな。まぁこんなもんしか用意出来ないんじゃ、コイツの店を売りに出す計画を本格的に進めた方がいいかもな」


「だな。もうコイツに返済能力はなさそうだからな」


ふ、ふざけるな! 俺が何とかかき集めた金だぞ! それにお前達にワシの店を渡すものかっ⁉︎


……と言いたいところなのだけれども、金を借りている相手な上に裏社会の人間。ここで癇癪を起こしたら、とてもマズイことが起こるのでブンゼはグッと我慢をする。


「じゃあこの金は俺達が持って行くからな」


「この後話し合いの場を事務所で設けてやるから絶対来ること。じゃなきゃお前後悔することになるぞ」


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


ブンゼはそう言って貸金業者の脚にしがみ付いた。それもその筈、懐にあったお金はカイリに渡して妖精とフェンリルを買う為のもの。だからそのお金を奪われしまったら、フェンリルと妖精を買おうにも買えなくなってしまう!


「どうか…どうか待って下さい! 必ずあの女からフェンリルと妖精を……」


「しつけぇんだよ‼︎」


貸金業者はそう言うと縋り付くブンゼを引っぺがしてから、蹴り飛ばした!


「上の連中も彼女が従魔にしているフェンリルと妖精は、もういらないって言ってるんだよ」


「え? ……い、いらないってどういうことですか?」


「ハァ? お前マジで言ってるの? 頭おかしいんじゃないか?」


「上の連中はお前が妖精とフェンリルの買い付けが出来たって話を信じてたから、借金帳消しの代わりにフェンリルと妖精を貰う。って言ったんだよ」


「だけど実際は買い付けなんてしてなかったじゃねぇか。むしろ俺達を騙してたしな」


「そ、そんなことはありません!」


口ではそう言うが表情は図星を突かれたかのような顔をしているので嘘がバレバレの状態だ。


「ハァ〜……これ以上話してても時間の無駄だな」


「早く帰ってボスに報告しなきゃな」


彼らはそう言って立ち去ろうとするがブンゼが慌てた様子で立ち塞がり、また土下座をした。


「お願いです! どうか待って下さ……」


「…ウザイ」


片方がそう言うとブンゼの脇を通り過ぎて行く。ブンゼはまた蹴られることを恐れ為か、2人を引き止めようともせずただ自分の横を通り過ぎるのを見るしかなかった。

そしてその2人が見えなくなると、ブンゼの心の中に怒りが感情が湧いて出て来た。


「おのれぇ〜……どいつもコイツもワシを馬鹿にしやがってぇ〜! 今に見ていろ〜〜〜‼︎」


ブンゼはそう言うと立ち上がり、自分の店がある方向へ走り出した。

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