サシャさんのお仕事……気にしない方がいいかもしれない

私の名前は サシャ 。名も無い開拓地で生まれたヒューマンで、物心が付いた頃に両親が行方不明なってしまい、誰も私の引き取り手が居なかったのでスラムの孤児になってしまった。

路地裏でその日の食べ物を探すのが当たり前だった私に声を掛けてくれたのが、殺しを専門とした闇ギルドだった。普通なら断っている誘いだが、当時の私は今の生活から脱せれば何でもやると思い、闇ギルドに入って暗殺者の職に就いた。

頑張って魔物を倒して暗殺者のレベルを上げて、初仕事をボスから貰ったまでは良かった。

目的地へ向かう途中に魔物に襲われてしまい、深傷を負ってしまった。もうここで死んでしまうんだろうなぁ。と思っているところにバルグ様に拾われて命を救われ、その恩返しに仕えているのだ。

そして現在、メイド長としての地位まで上り詰めたのだが、何とその旦那様が亡くなってしまった。と言う知らせを受けた。


「旦那様が……嘘ですよね?」


「いいえ。冒険者達を逃す為に、自ら囮になられたようです」


私はその言葉に悲しみを感じて、その場に崩れ落ちてしまった。


「私が……私が付いて行けば……こんな、こんなことには……」


「しっかりして、サシャ!」


「そうよ! 今アナタが悲しんだら、奥様が大変なことになってしまわれます!」


ハッ⁉︎ そうだ! このまま落ち込んではいられないんだった!


他のメイド達の言葉を受け、立ち直ったサシャは改めて冒険者ギルドの職員の女性に顔を向ける。


「失礼致しました。奥様には私から伝えます。なので、このままお帰り頂いても構いません」


「……はい。私は、冒険者ギルドに戻ります」


「わざわざここまで来て頂き、有り難うございました」


ギルド職員の女性は申し訳なさそうな顔で屋敷を出て行くのを見送ると、奥様の元へ行き、旦那様が亡くなったことを伝えたら、私以上に泣いていらっしゃいました。

その姿を見て、旦那様が大切にしていたものを、私が守ろうと改めて決意をしたのだったが……。


「旦那様が生きていらっしゃったぁっ!⁉︎」


「はい! 今、布団に包まった女性と共に屋敷に向かっているそうです!」


どう言う事? 女性? 布団に包まったって……まさか!


「旦那様が、奥様に黙って合い挽きをして……」


「イヤイヤイヤイヤッ⁉︎ その人がバルグさんを助けた張本人らしいです!」


「そうなのですか?」


「はい、何でも濡れた服を乾かす為、焚き火の側で服を干したら燃え移ったみたいで……」


にわかに信じられない話と思えてしまう。まぁ、こっちに来ていらっしゃるのでしたら、お出迎えするのが筋。なので、使用人達に言い聞かせて来客の準備をさせるが、みんな旦那様が生きていた事に感激しているのか、泣きながら仕事をしている。なので旦那様が着くまでに、涙目を何とかするようにも言っておいた。

そして旦那様が黒髪でブラウンの瞳の女性と共にお帰りになられた。


思っていたよりも、可愛い顔をしていますね。それにワンちゃんを引き連れているとは……。


私がそんなことを思っていると奥様が2階から降りて来て、いつものお帰りの挨拶をした。私達は慣れているから平気だが、お客様である黒髪の女性には刺激的なものだったらしく、顔を赤らめていた。ホント、こればかりはお客様の前でやらないで貰いたい。

……っと! 話が逸れてしまいましたが、私達は黒髪の女性を見て、この女性が何処か他の国、または商会から来たスパイ。最悪の場合、暗殺者かもしれんないと考えながら警戒していた。因みに、そのワンちゃんがフェンリルの幼体だった事に、表情には出していないが使用人のほとんどが驚いていた。

そんなこんなで、旦那様が私に向かって声を掛けて来た。


「まぁまぁ、細かい事は後で私から話すよ。それよりもサシャ、彼女にお召し物を渡してあげて下さい」


これは! 相手を見定める千載一遇のチャンスッ‼︎


私はカイリと言う名の女性に向かって殺気を放ちながら近付き、布団に手を掛けて引っ張った!


……ん?


普通の暗殺者とかスパイなら、私の行動に気付いて避けたりするところだが、彼女は全く避けなかった。それどころか、私の行動に驚いている。


もしや、これも演技?


その後も、お風呂場に連れて行き、背後に回ってブラのホックを取ったり、身体を洗っている時に手刀の真似をしてみたのだが、全く反応しなかった。

因みに、パンツに手を掛けるのは流石にやり過ぎと思ったので、やった本人を後で叱りました


……カイリ様なら心配はしなくていいかもしれない。


そんな気持ちで監視を続けてみたら、驚くような行動を見せた。


指輪が形を変えた! やはりあの指輪は装飾化武装だった! あの持っている物は何なのかしら? 見たことがないわ。


その後も、アイテムボックスから手紙を取り出し、何かぶつぶつと話した後、アイテムを取り出した。


薬草とぉ……水でしょうか? アイテムボックスを持っている事は、聞いていたのですが、彼女はあの2つを使って何をする気なのでしょうか?


疑問に思っていると、カイリ様の掛け声と共に部屋の中が輝き出し、輝きが収まると、緑色の液体が入った瓶が現れた。


「これが……ポーション」


「……ポーション?」


一瞬でポーションを作ったと言うのですか? 私が知ってるのは、薬草を潰して鍋に煮詰め……考えるよりも、確かめた方がよさそうですね。


私は屋敷の警備を装い、カイリ様が作ったと思わしきポーションを回収して、改めてカイリ様が作ったポーションを見つめる。


「ムゥ〜……ホント、これは中々の品物ですね」


店で売られているポーションは、作り手によって変わるものだから、瓶の形が不揃いで、回復効果もバラ付きもある。しかも、練金術ギルドや薬剤ギルドが認可していない物になると、水増しした粗悪品を掴まされる可能性があるのだ。

その粗悪品のポーションを見分ける方法については、基本的に色合いで見分けられる。色が濃ければ間違いないが、飲もうものなら苦くて青臭い。それだけじゃなく、傷口にポーションを掛けると、凄く滲みて泣き叫びたくなるほど痛い思いをする。

逆に水増ししているものなら、色が薄くて回復効果も薄まる。


色がキレイで薬草の粉が舞ってない。しかもあの光は魔法……つまり、彼女は魔法で作ったって事ですよね? 彼女は一体何者なのでしょうか?


カイリに対して不信感を感じている中、背後に気配を感じ取ったので振り返る。


「いい反応ですね! メイド長!」


「マナ。悪戯は止めて下さいと、言ったではありませんか」


私の目の前で耳をピョコピョコさせる発育のいい猫人族の女性は、私の直属の部下でもあるマナで、屋敷の掃除屋兼諜報員である。


「ねぇねぇ、メイド長が持ってるのってポーションだよね? 倉庫から盗んだの?」


「何をバカな事を仰っているのですか。アナタも見ていたんでしょう。カイリ様の様子を」


「アハハッ⁉︎ バレてたんね! あの子凄いよねぇ! ピカッと光らせて、一瞬でポーションを作るんだから!」


やっぱり、見てたのですね。この性格が何とかなれば、メイドとして完璧なんですけど……。


「ハァ〜…………」


私が深くため息を吐いている間、手に持っているポーションをジロジロ見つめて来る。


「カイリちゃんが作ったポーションは、品質がよさそぉ〜!」


「カイリ様が作ったかどうかは、判断出来ませんよ」


「どうして?」


「外に出していた薬草と水を、ライトの魔法で光り輝かせている間にアイテムボックスの中へ戻してポーションを外に出した。その可能性が……」


「ないと思うよ」


口の聞き方にイラッと感じてしまうが、ここは堪える。


「こんなにいいポーションは、中々手に入らないと思うし、何よりもここでそんなことするメリットはないよ。

持ってるなら、もう既にご主人様に見せてるよ」


「確かに……それは言えてますね」


「って言うか報告なんだけど……ここに向かっている虫が3匹いるから、駆除の準備した方がいいよ」


「ッ⁉︎ それを先に言いなさいっ‼︎」


私がそう言うと、マナは一歩下がった。


「そんな怒らなくてもいいでしょぉ〜。それに追加なんだけど、その3人はご主人様を見捨てた張本人だよ」


「……本当ですか?」


「本当だよ。多分、腹いせに旦那様の元に来たんだろうね…………こうなったのは自分達のせいなのに」


メルの声に怒気を感じさせる。このまま私が行けと言ったら、即座にその人達の元へ行くでしょう。


「まぁ落ち着きなさい。他の者を呼んで、準備を整えなさい。いい、いつも通り旦那様達が起きる前に、庭園の手入れをするのですよ……マナ」


「かしこまりましたぁっ‼︎」


マナが目の前から消えたのを確認すると、私もポケットから手袋を取り出して準備に取り掛かる。


「さて……屋敷に来る虫を歓迎をしましょうかぁ」


こうして、真夜中にノコノコと屋敷にやって来た虫を私達は駆除をした……声が聞こえた? 何を仰っておられるのですか、虫が声を出す訳ありませんよ。

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