女の涙に弱いのは男の特権だ

これは一体どういうことだ?


 俺の目の前でこの国の悪行を広めて欲しいと頭を下げてきたメイドさん。うん?どういうことだ?


「取り敢えず、顔を上げてください」

 頭を下げられたままでは話をするのも難しいので。メイドさんにそう頼むが、メイドさんは。


「お願いです。この国の悪行を広めてください」

 の、一点張り。しょうがないのでどうしてそんな事を言うのか詳しく聞くことにした。


「分かりました。でも、どうしてですか?理由を教えてください」

 そしたら、ようやくメイドさんは顔を上げて話し出した。


「それは、復讐です。勇者様は知らないと思いますが。勇者召喚には恐ろしいほどの魔力が必要です。それこそ、優秀な魔導士が1万人集まり全魔力を捧げてようやく一人召喚出来るか、出来ないかぐらい魔力が必要です。そのせい勇者召喚はほとんど行われていませんでした。しかし、ある時この国にやってきた、一人の魔導士が人間を生贄にして魔力を生み出す禁術を生み出しました。

 そして、それに目を付けた、国王が奴隷や他国から人を攫ったり豊富な魔力を持つ人間を生贄にするよりも多くの魔力を生み出すエルフを捕まえたりして。勇者召喚を行いました。その中には。エルフである私の妹がいました。とある事故がきっかけで、ずっと音信不通で行方を捜していたのですが、たまたま。この国で働いていた時に生贄の話を聞き、あのすぐに人を信じてしまう妹の事を考え、嫌な予感がしてメイドとなり城に侵入したら、妹がいました。すぐさま助けようとしましたが、硬い牢獄と結界に阻まれ、何とか助けようと策を練っているうちに、勇者召喚が行われて妹は、妹は、う、ううう」


 そう、言い終えるとメイドさんは泣き出した。クソッタレ、胸くそ悪くなる話だ。

 ただでさえキナ臭いのにここまでだとは思わなかった。


 それで、この国の悪行を広めてくださいか、なるほどね。確かに、他の国がこの国の行った恐ろしい事実を知れば憤るだろう。特にあるかは分からないけどエルフの国なんかは、それこそ戦争すら起こすレベルで怒ると思う。そうなれば、きっと他の国も協力をするだろう。なんせ、この国は人間を生贄して、恐ろしい戦闘能力を持つ勇者を多数召喚した。恐ろしい国なんだから。


 もちろん、魔王がいて、他の国は戦闘能力の高い勇者を歓迎する場合もあるだろう。だけど、その勇者の管理は誰がする?召喚したこの腐った国か?いや、この国は我が国が全員の勇者を管理するというだろうけど、他の国からしてみれば我が国の人を攫っただろ。人間を生贄にするなど邪道だ。エルフを何だと思ってやがる、等々の意見が出て、とやかく理由を付けて勇者の管理を巡り争いが生まれるだろう。


 そうなれば、一番困るのはこの国だ。ようは、この国の悪行を広めれば、確実にこの国は危機に陥る。なるほど、そう考えるとただのメイドが言うよりも異世界から召喚されたと称号にある勇者の俺が言った方が説得力はあるな。


 でもな、大きな問題があるな、俺がこの国から無事に逃げられるかっていう大きな問題が。

 もちろん、最初っから逃げる気ではいたけど、このメイドさんの話を聞いて、何かこうあれだ、巻き込まれしって言う弱い設定だと冗談抜きで殺される気がしてきた。想像以上にこの国腐ってたし。かといって、一般的な数値に能力を変えてみて、乗り切ろうとしても、魅了にかかってないのがバレたら詰み、下手したら、処刑もしくは隷属の指輪的な物を嵌めさせられると。


 ・・・・・・・・・・・

 うん、キツ、難易度鬼かよ。せめて、この城の地図とか警備の巡回経路があれば逃げれそうなんだけどな。


「どうしたのですか、ご主人様、険しい顔をして何かあるならお手伝いしますよ」


 俺がひたすらに悩んでいたら。イトがそう言って来た。

 その瞬間とある考えが思い浮かんだ。イトに情報を持ってきてもらうという素晴らしい考えが。

 情報をそれもこの国の悪事が書かれた情報を、この国は恐るべき悪事を働いているという情報が国民ひいては他の国に知れ渡ればさっきの生贄問題も合わさりかなりの問題にはなるだろう。広め方なんてのはメイドさんに頼むなりそういうスキルを獲得すればいい、例えば扇動とか噂話とか。そうなれば多少なりともメイドさんが救われるだろうし。それに上手くいけば反乱や戦争を起こし混乱に乗じて城から逃げ出せるかもしれない。


 もしくは、普通に城の地図と警備の巡回経路とか持って来て貰えば、一人で早めにサクサクっと逃げることが出来るかもしれない。

 それにイトならば隠密行動と気配感知のスキルを持ってるし、それなりに強いし身体も小さい、普通は入れない場所だって楽々と入れる。きっと俺に足りていない情報をこの国から盗んでくれるだろう。最悪バレても、イトを全力で逃げさせれば、逃げ切れそうだしね。よし、それでいこう。それとついでだし、いくつか武器とか魔道具みたいなのも盗んでもらうか。その方が何かと便利そうだし。やっぱりきちんとした武器とか合った方がいいしね。


「イトお願いがあるんだけど、この国の悪事の証拠書類とかこの城の地図に警備の巡回経路と、この国に置いてある強そうな武器ないし魔道具的な物を持って来てくれないか?」


「分かりました、ご主人様では行ってきます」


「さてと、ではメイドさん私がこの国から無事脱出、出来たらこの国の悪行を他の国に広めることを改めて約束します」


 俺は死んだ妹のことを思い。泣いているメイドさんにそう約束した後にメイドさんの顔を見て、何故かはわからないけど心の底からメイドさんをいや彼女を守ってあげたい。そして、心の底から愛らしい、美しいと思った。それこそ俺の全てを捧げてもいいくらいに。

 いや、何を考えているんだ、俺らしくない。確かにあの姫もとい魅了女よりかは好みだが、俺がこんな感情を抱くなんて。いや、止めよう、忘れよう、落ち着こう。今これを考え出したら泥沼に嵌る。


「本当ですか。ありがとうございます。それと、勇者様、さっき勇者様がお創りにになったボーンナイトっぽいものはどうしましたか?」

 俺のその言葉を聞き泣き止んだ後、メイドさんは不思議そうな顔をして俺にそう問いかけてきた。


「えっ、メイドさんさっきの話聞いてなかったのですか?」


「話って何ですか?」

 あっ、多分眷族との会話は俺にしか聞こえてないのかな?


「いや、何でもありません」


 説明するのが面倒いや、メイドさんに余計な事を教えて心配をかけたくなかったから。適当に誤魔化した。


 その後、俺は少しでも脱出確率を上げるために朝になるまでひたすらにスキルを覚えてレベルを上げていった。ただ、どうしても、ふとメイドさんを見ると、物凄く愛しく感じ、抱きしめたい抱きしめられたいという不思議な欲求にかられるのを必死に抑え、無心というスキルを獲得してレベルが5まで上がったのは俺だけの秘密である。

 ――――――――――

 補足

 主人公のスキルじゃあノーマルスキルやレベルの低いエクストラスキル・ユニークスキルの状態異常は防げますけど。レベルの高いエクストラスキルやユニークスキルは防げません。もちろん。それらのスキルの上を行くゴットスキルとかも出すつもりですので、そういったスキルも防げません。

 つまるところ、露骨なフラグです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る