ポッキーゲームのポッキーは手作りに限る

田村サブロウ

掌編小説

 お嬢様学校の寮の一室での出来事。


 ルームメイトのムギコとアマミが過ごす夜が、今回、少しいつもとは違う様相を見せていた。


「アマミお姉様、ポッキーゲームをしましょう!」


 ポッキーをふんだんに入れたコップを構えながらムギコは言った。


「ムギコ。たしかに今日はあんたの誕生日で、それを忘れた私は約束したプレゼントを用意できなかった。その件は私が悪い」


「ええ、存じております。わたくし、気にしていないと言ったらウソになってしまいますわ」


「だからその落とし前として、私は自分のできることならなんでも1つだけ言うことを聞くとは言った。けど」


 ムギコの持つコップからポッキーを1つ取りながら、アマミは続ける。


「なんでポッキーゲームをしよって話にしたの? 別にもっと他のことでも良かったんじゃないの?」


「それはもちろんこのわたくしが、ゲームにかこつけてアマミお姉さまに熱いベーゼを」


「却下!」


「そんなぁ~!」


「はぁ。ムギコが正直で良かったわ」


 ベッドの枕に顔を沈めて落ち込むムギコを、アマミは頭をなでて慰める。


「お姉さまぁ」


「……ポッキーゲームをすること自体はOK。ただし、わざと唇を重ねないという条件もセットで。それが私の妥協できる最低ライン」


 代替案を提示するアマミに、ムギコは顔を上げた。


 瞳を涙でウルウルさせながら、それでも嬉しそうに口をほころばせている。


 どうやらムギコはアマミの条件を呑むようだ。


「それじゃあ、お姉さま! さっそく……あむっ」


 涙目が一転、いつもの調子に戻ったムギコがポッキーの片側を咥える。


「現金ね、ムギコ……あむっ」


 ポッキーのもう一方の片側を、アマミが口で咥える。


 これでアマミとムギコは、互いに1つのポッキーを咥えて共有した状態となった。




 ポッキーゲーム開始だ。


 ――さくさくさく、ぽろっ。


 開始2秒で終了だ。


 ポッキーがベッドの上に落ちてしまった。




「あ、あら? 意外に難しいんですのね……」


 イメージ通りの展開を描けなかったムギコは、眉をひそめる。


 その一方でアマミは、ポッキーゲームの別のところに着目していた。


「……このポッキー、美味しい」


 気を良くしたアマミはベッドの上に落ちたポッキーを食べた。


「まぁ! アマミお姉さま、意地汚いですわよ」


「だって本当に美味しいんだもん。ねぇムギコ、このポッキーどこで買ったの?」


「買ってませんわ。わたくしの手作りですの」


「手作り!?」


 ムギコがポッキーを自作した事実にアマミは仰天した。


「最近のネットのレシピは侮れませんのよ? ポッキーの作り方も、検索したら普通に見つかりますもの。せっかくアマミお姉さまがなんでも言うことを聞いてくれるんですから、わたくしとしても失礼の無いよう入念な下準備を――」


 ムギコの言葉は途中で中断された。


 がしっと、アマミがムギコの顔を両手で掴んだからだ。


「あ、アマミお姉さま?」


「払いすぎよ、ムギコ。私からもを払わせてもらうわ」


 そう言って、アマミはムギコの額にキスをした。


 唇を通じて、アマミは額の感触を感じとる。


 ムギコがいまどんな表情をしているか、アマミからは見えない。


 ただムギコの性格から考えて、驚いてくれていることは確かだとアマミは思った。


「……ムギコが今日のためにそこまでしてくれたなんて、知らなかった」


 唇をムギコの額から離したアマミは、ムギコに言う。


「だから今のは、特別中の特別。本来なら、今日はムギコが祝われる側なんだからね」


 心の中になにか熱いものを感じながら、アマミは言い切った。


 ムギコはアマミを見ながら硬直している。


 微動だにせず、表情が少しも動かず凍りついている。


「ムギコ?」


 アマミが心配する声を出した、直後。


 バタリと、ムギコはベッドに倒れてしまった。


「ムギコ? ねぇ、ムギコ!?」


「うへへへへぇへぇへへ、アマミお姉さまああぁぁ、うへへ」


「あ、これ大丈夫なやつだわ」


 ムギコが嬉しさで意識を失っていると知ったアマミは、なんの憂いなくムギコ手製のポッキーに舌鼓を打つのだった。


「うん。やっぱりこのポッキー、美味しい。さすがムギコ!」

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ポッキーゲームのポッキーは手作りに限る 田村サブロウ @Shuchan_KKYM

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