特別ってなに……

「おかえり〜」


「ただいま」


 家族のような愛のこもっていない挨拶奥から聞こえる。


「楽しかったですかー」


 興味ありませんけど、といった口調を漂わせながら言ってきた。


「向こうの親と会うのは久しぶりだったかな。楽しかった」


「あっそ」


 冷たいな。最近オレに冷たくなってきたなと実感しているが、何が原因なのかさっぱり分からない。 


 ただただオレが嫌いなのか、わざと冷たい対応をしているのか。後者だったらただのかまちょなのだが、そこも良く分からない。


 どうして最近冷たいのか、オレは放置して聞くことを辞めていたが、率直に聞いてみることにする。


「どうして最近冷たいんだ?」


 美雨の体がピクッと動く。気のせいかもしれないといったレベルだ。


「どうしてだろーね」


 明らかに何か思う所があるような言い草だ。


 そして美雨は、足をベッドの上でバタバタする。ちらりと、ミニスカの中からパンツが見えそうになるが、少しだけ目を凝らす。


「んー分からん」


「考えてないでしょ」


 パンツに夢中になっていた。 


 意識を逸らすようにして、天井を見る。


「どうせ考えても答えてくれなそうだしな」


「ど・う・せ言っても意味ないし」


 オレの言葉に被せるようにアクセントを強くして言ってきた。どうせとはなんだ、どうせとは。


 バカだとでも言われているような気分だ。


「意味あるかもしれないだろ」


 オレは言わせる方向にシフトする。別に言ってもらわなくても結構だが、美雨がどんな事を思っているのか少し知りたい。


「意味あったらもう、とっくのとうに言ってるわよ」


 まあ、確かに。オレに思っている事を伝えなかったのは、それが原因か。


「言わないならオレはいつも通りでいくぞ」


「いいし、別に」


 あまりオレが優しくならなかったからか、ヘタ腐れている。口調だけで分かるようになったのは、かなりの時間を共に過ごしているからだろう。


 が、つい聞きたくて仕方がなかったのか、沈黙が続いてから美雨が口を開いた。


「ねぇ、あたしって特別じゃないの?」


「特別?」


 不満そうな口調から、これが原因だと考えられる。

 美雨はこちらを向いていないが、オレはその背中を真剣に見つめた。


「そう、特別。紫乃ちゃんは特別なんでしょ」


「そりゃ普通の人とは全く違う関係だからな。特別だろ」


「だったらっ……。だったらあたしも特別じゃないの?」


「何でそうなる。全く違うだろ」


「どうしてよ」


 イラッときたのか、眉間にシワがよっている。


 オレからしたら、美雨の何が特別なのか良く分からない。美雨から見て、紫乃の事を特別扱いしているのは見てわかるのだろうが、それは当たり前だ。何年一緒にいると思っている。


 美雨はまだ半年も経っていない。それが何故特別になるのかが分からなかった。


「まず、お前との出会いは運命的なものじゃないから特別じゃない。それに、お前とはまだ半年もいない。それだったら部活仲間の方がずっと一緒にいる」


 ジリジリと歯と歯を鳴らせながら聞いている。


「お前にしかやらないような事はないし、お前だからやるような事もない。──これのどこが特別なんだ?」


 紫乃だから──こう、紫乃にしか──やらない。そのような事が美雨にはな

い。


 まだ不満があるような事をしているが、言い返せないのが事実だ。美雨も腑に落ちる事があったのだろう──と考えていた時だった。鼓膜が破れるかと思うほどの声が部屋を震えさせる。


「──あたしは裕也の特別な女なのっ!」


 びっくりする暇を与えずに、続けて口を開く。


「あたしっ……! あたしの中で裕也は特別なのっ! だから裕也もあたしの事


特別って思わなきゃイヤだっ! あたし何かおかしいこと言ってる⁈」


 ──理不尽だ。


 美雨がオレの事を特別だと思っているから、オレも美雨を特別と思わなきゃいけない。それは理不尽だ。


 ──見ていて可哀想だ──理由は──


「ねぇ、答えてよ!」


 理由は──


「泣くなよ、そんなすぐに」


 泣いているから。

 長いこと接して話しているから分かる、親子関係。 


 大体は把握している。だが、やはりその話題を出すことができない。美雨も心配させたくないからか、自分の親子関係についての話題を一切してこない。


 だから今まで美雨は──特別にされた事なんか無かった。

それが今、何かの感情から芽生えたのか、オレが接する紫乃への態度が頭から、心から──全身から羨やましさが込み上げてきているのか。


 そして今、全身から溢れ出して耐える事ができなかった美雨の感情がおっしこ

のように溢れているのだろう。


「泣いてないっ! そんなことより……とくっ──。えっ」


 またもう1回、特別じゃないの、なんて言わせないよう、口を塞ぐためにオレは安心させるため──抱きつく。


 素っ頓狂な声を漏らしたが、オレは思っている事を口にした。


「美雨はオレを特別だと思っているけど、オレはそう思ってない」


「うん……」


 正直に、素直に述べていく。


「でも、同中だった奴、今の学校の奴含めて、紫乃の次に大事なのは、って訊か

れたら──迷わず美雨の名前を言う」


「……2番……」


「別に一番が特別って訳じゃないだろ。特別っていうのが、美雨からしたらこだわりある事なんだろうけど、オレからしたら、紫乃と美雨が危険な目に合っていたら、どっちも助けるって答える。それは美雨の言う特別? だからかもしれない。お前達は五十歩百歩だ」 


「紫乃ちゃんとあたしに変わりはない……ってこと?」


「そういうことだ」


「そっ……」


「少し泣き止んできたな」


 オレは脱力していた美雨を体から離す。


「お前ほんっとにん泣き虫だよな。見た目ギャルなんだからもっと耐えろよ」


「ギャルでも泣き虫くらい、いるわよ」


「そうだろうけどよぉ」


「あたしってば良く泣いちゃうし、心配性なとこあんだよね」


「見れば分かる」


 これで何回目だ。レ○プされている時から数えると、2桁はいくか? いや、それは盛りすぎか。


 それに心配性の部分もしっくりくる。最初の頃、オレの帰りが遅かっただけで、お母さんのように連絡をしつこく入れてきた。『大丈夫? なんかあった』と。


 今では部活の事もあって帰るが遅くなっても連絡をしてこなくなったが、とにかく最初の頃は心配性が目立っていたのを思い出す。


「こんなんでも、よろしくね」


「おう、よろしく」


 何回慰めなければいけないのか分からないが、美雨に何かがあったらオレは手を差し出すし、抱くこともする。


 まあ、オレが慰めなければいけないような事をしなければいいのだが、自分でも、美雨が何でそんな泣くことになっているのかイマイチ理解していない部分がある。


 恋愛感情? かもしれないとも思った。しかし、そう思った矢先で冷たい態度や、適当な返事をよこしてくるので良く分からないのである。


 そして、


「寝るわよ! ハイッ!」


 ベッドに押し倒され、少し他愛のない会話をしながら、オレらは眠りについた。

 

 体育祭は刻一刻と迫っている。


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