第二章 体育祭

——青春

 ──体育祭。


 それは、汗水垂らして必死に競技に挑む祭りである。


 水も滴るいい男たちが目立ち、モテ期を自分で作り出す場でもある。


 ある者は全力で一位を目指し、ある者はサボって友達も戯れている。


どっちかというと、全力で必死に競技に挑んでいる人の方がモテるだろう。


 勘違いしている人が多いが、スカしている男子はマジでモテない。陰で女子か

ら色々言われているタイプだ。


 血と涙と汗が女子を惹きつける。


「はい、それでは出たい競技とかありますかー」


 ちなみに、オレは体育祭実行委員。体育会系は運動部がやれという先生の押し

付けにより、オレになってしまった。


 相方の女子は紫乃で良かったと思う。


「決まりそうにないんで、やりたい競技に自分の名札黒板に貼ってくださーい」


 黒板に、今回体育祭でやる競技を綴る。


 やりたい競技に自分の名札を貼らせれば効率もいいだろう。多かった所はジャ

ンケンでもさせれば公平にいける。


 オレはやりたい事がないので、余った競技をやることにする。


 そして、ゾロゾロと皆は席を立ち上がり、自分の名前を貼り始めた。友達と同

じ競技をする人も中にはいる。


 二人三脚なんかは仲の良い友達とやった方がいいだろう。内気な人はまだ席に

座っていて、オレとは別でやりたい競技はあるが立ち上がれない状況だ。


 そんな生徒に、相方の紫乃が行動を見せた。


 席に座っている人たちに優しく話しかけ、相談に乗ってあげている。あんな優

しく話しかけられたら惚れてしまうだろうに。


 ほら、見ろ。その男の子顔赤くなっているじゃないか。


 そうして、


「大体決まったんで、多かった所ジャンケンしてください」


 それぞれ様々な競技に名札が貼られている。


 そして、誰1人入れていない競技があった。


「ジャンケン負けた人は、3000メートルの長距離走ってもらいまーす」


 1年の頃も人気がなかったこの競技。なくなるんじゃないかと思っていたが、

まだ生き残っていたか。


 そうしてジャンケンをした結果、オレが400メートルと800メートルリレ

ー埋める事になった。


 1人が2つの競技を出るのはあまりいないが、出る人も中にはいる。


 長距離を出なかった理由は、オレと同じクラスの男子が入ってくれたからだ。


 試合も近いし、ということで、優しい部活仲間が入ってくれた。感謝しかない

な。


 紫乃は、二人三脚をやるようだ。子供の頃は結構ヤンチャだったので、運動神

経に関しては心配はない。手堅く1位をとってくるだろう。


 そうして、とりあえずは出る競技は決める事ができた。


 しかし、他にも色々面倒臭い事を決めないといけない。


 ──応援団の存在だ。


 各色毎に、衣装や歌を駆使して、場を盛り上げる仕事。支持を得た色には得点

も与えられて、手を抜けないポイントではある。


 と、そこで授業終わりのチャイムが鳴ってしまった。


 端っこで様子を見ていた先生が、「今日はここで終わり」と場を締め括り、ま

た次の日に決める事になった。


 ちなみに、バスケ部は何故か応援団には入れという決まりがある。


 監督が言うからには、カッコいいから、だそうだ。


 そうして、オレと紫乃の体育祭実行委員は、体育祭に向けて取り組んでいく。


***



「応援団どうしよっか」


「陽気な人たちがまとめてくれそうじゃね」


「確かにそうかもね。いつの間にか応援団集まってそう」


「オレたちは静かにしてても大丈夫そうだな」


「じゃあ──二人三脚の練習しよっか」


「おっす」


 まあ、オレは二人三脚に出るわけではない。


 一応補欠に入っているから出る可能性もあるが、紫乃の練習に付き合うのが目

的だ。


 昼休みにでもなれば、練習をするクラスがたくさんいる。


 夏という太陽に照らされる暑さでクラクラする中、学年種目の練習を励むクラ

ス、個人種目の練習を励むクラスがある。


っちいな、今日も」


「汗かきたくないなー」


「そこは気にしてもしょうがないな」


「まあね」


 そうして、オレたちは二人三脚の練習をしていると、1人の女の子がオレに声

をかけてきた。


 話したことはないような気がするが、見たことはある気がする顔だ。


 おそらく知らないうちに関係があったような感覚がする。


「あ、あのぉ〜、あなたは八咲さん、でしょうか……?」


 綺麗な声だな。話しかけられて最初に思ったことはそれだった。


 透き通った声音をしている。


「知り合い?」


「いや、知らないな」


 紫乃も見覚えのない人のようだ。


「オレは八咲だけど、オレになんか用か?」


 オレに何か用があって話しかけてきたのだろう。あまり女子から話しかけられ

る事はないので、少し嬉しいなんて思ったり。


「い、いえ。あなたが八咲さんだって分かれば大丈夫です……。で、では

っ……」


 そう言って、サラーっとオレの元から離れていった。


「なんだったんだろうね」


「それな」


 名前も名乗らないでどっか行ってしまった。名前くらい知りたかったが、また

話しかけられた時に聞けばいいか。


「ゆうくんモテモテじゃーん」


「それはないだろ。彼女いないし」


「彼女いないのは恋愛禁止だからでしょ」


「恋愛禁止じゃなくてもいないだろうな」


 恋愛禁止でも付き合っている人は部活の中で何人かいる。その中でも彼女がい

ないオレは、ただただモテていなだけ。でも、モテたい。


「もしかしたらあの子──」


「あの子?」


 何故か気になる所で口をつむんだ。


「ううん、何でもない。練習しよっ」


「あ、ああ。絶対勝つぞ」


 良く分からないが、上手く誤魔化された気がする。


 まあ、そんなことを気にしても意味がない。とりあえず体育祭のために練習あ

るのみ。


 もしかしたら体育祭で活躍したらモテるかもしれないしな。割と本気でいう

と、モテる奴はもっと誇っていいと思う。


 女子にモテるというのは、高校生の青春を謳歌する時期にとって運命を決める

ほど大事な事だ。


 モテていれば女子の中で噂になり、男子からは羨ましがられる。いろんな女子

から話しかけられ、運動神経抜群、頭脳明晰となれば、きゃーと騒がれる。


 これがオレの中での青春だ。


 付き合っているのが青春ではない。このモテてる時期が青春。


 付き合ってしまえば、そこで青春は終わりを告げる。モテてる時は、ずっと青

春が続いているという認識でオレはいる。


 だから、モテたい。


 こんな平凡なオレでも、それだけは思う。高校生のうちに経験しておきたいオ

レの青春。


「ニヤニヤしてるー」


「おっと、顔に出てたか。悪(わ)りぃな」


 そんなオレの中での青春が──オレに近づいていた。


 ──モテてる時期が一番誇れて楽しいだろ? それが青春なんだ。


***

 

 青春の価値観は人それぞれだ。


 中学3年生の終わりは、放課後の教室で女の子と喋るのようなオレンジ色の青春を想像する者、お昼ご飯を女の子と屋上で食べるような水色の青春を想像する者など、そういったようにそれぞれ価値観が違う。


「お前は青春って何だと思う?」


 聞いても意味がないだろうが、家にいる美雨に訊いてみる。


「青春? そんなの……そんなの?」


「そんなの?」


「なんだろう、青春って」


「それを聞いてるんだよ」


 そうして、顎に手を当て悩ませながら、


「彼氏とエッチなことすること」


「ファイナルアンサー?」


「イエス」


 どうやら、美雨にとっての青春はエチエチなことをする事だそうだ。


 的外れな青春だが、これも青春と言えるだろう。


 オレだって、高校になったら童貞を卒業できると思ってた。


 オレの言う楽しさを青春とするなら、エッチなことをするのも楽しさの一環で

もある。


「まあ、あたし高校なんて行ってないから青春なんて聞かれてもちゃんとした事

言えないわよ」


「知ってる、知ってる」


 美雨がこの前人生つまんないと言っていたように、美雨にとって、青春は遠い

存在だ。


「裕也はどう思うの?」


「オレは高校でモテることが青春だな」


「モテてないの?」


 不思議、といった表情を向けてくる。


「ああ」


「へー、絶対モテモテなんだろーなって思ってた」


「偏見だな」


「偏見だった」


 バスケ部は恋愛禁止と有名だしな。高校生活でモテ期は訪れないだろう。


 でも、密かにオレのファンクラブとかあれば一番嬉しいのだが、そんなの夢の

また夢だ。


 そして、「不思議、不思議ー」とずっと呟いている美雨にまた青春について問

う。


「オレに青春来ると思うか?」


「来るんじゃなーい。来んな、来んな」


「なんでだよ」


 美雨が思うに、オレには青春が来るらしい。でも、美雨にはオレに青春が来て

ほしくないらしい。


「あ、そういえば聞いてなかった」


「何が?」


 うっかり聞くのを忘れていた。


「お前、なんでこの前酒飲んでたんだよ」


「げっ」


「何だよ、その触れんなよみたいな卑しい顔」


「何だっけー、あたしあんま覚えてないわー」


「分かりやすすぎだろ」


 あたし覚えてませーんみたいな顔をしているが、嘘が下手すぎる。あまり人と

関わることが少ないからか、弱い部分が出たな。


「話したくないなら別にいいけど、なんかあんなら言ってほしいんだが」


 別に強制はしない。強制させる権利はオレにはない。ただオレは、助けになる

時に動くことしかできない。


「じゃあ言わない」


「あ、そう」


 言ってくれないそうだ。かなり気になる部分だが、これ以上は追及しなかっ

た。


 美雨がお酒を飲んでいようが、オレに迷惑をかけなければ気にしない。


 オレは保護者ではないし、ギャルの自由を制限したくない。


──今の美雨にはだ。


そのためにも、好きにさせてあげたい気持ちはある。


「まあ、美雨の自由だし好きにすればいい」


「いいの?」


 叱ってくると思ったと言いたげな表情を見せる。


「オレに迷惑かけなければな。迷惑かけたらなんか罰は与えるぞ」


「うわぁ、意地悪だ」


 意地悪なのか、これは。全くもって普通の事だと思うが。


 と、オレが説教せずに優しくしている時だ。不満があるのか、プク顔を向けて

きた。


「少しは叱ってほしい気持ちあるかも」


「……叱ってほしいのか?」


「おん、叱ってほしい」


「変わってんな」


「あたしも良く分かんないけど、叱ってほしいの」


 謎だ。叱ってほしいなんて言う人がいるとは。オレは部活で何度も説教をされ

ているから嫌で嫌で仕方がない。


「子供かよ」


「どこがよ。胸もあるし化粧もできるんだけど?」


「精神年齢が子供だって言ってんだよ」


「しんじゃえ」


 美雨は良く子供っぽい所がある。


 親に甘えられない環境だったのか、良くワガママを言ってくるし、甘えてくる

事が多い。


 まだオレの背中でくっついて寝ているし、見た目からは意外な行動を取ること

もあって、ギャップ萌えだなと思う時も幾度とある。


 こうやって冷たい言動をとる時もあるけど、どうせ甘えてくる。


 あ、そんなことより、言いたい事があったんだった。


「そういや、再来週くらいに体育祭があるんだけど、来るか?」


「え、行くっ!」


 モテたいと、青春したいと思っているオレは、美雨を体育祭に誘うことを決意

した。


 本当はバスケ部ということもあって、本音では目立ちたくない部分もある。し

かし、せっかくの体育祭。先生も女子と話していても許してくれるだろう。


 そんな甘い考えが、部活の輪を乱すような事になるのだが、こればっかしは許

してもらいたい。


 そうして、オレもワガママな所あるなと思いながらも、美雨と一緒のオレたち

は深い眠りについた。


 最近になって、寝る時に当たってくる胸が気になるようになった。


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