ギャルの悩み

「あの、どういう事ですか!」


「だから、飲酒だよ、飲酒。彼女未成年だから」


「お酒……?」


「それに今何時だと思っているんだい。深夜の2時だよ。まだ高校生らしいし、

補導の時間だから」


「ああ……」


 少し安心だ。もっと悪さをしているもんかと。


「それよりも、君は誰なんだい」


「この子の父です」


「そお、保護者か。ならこの子をそのまま家まで返してね」


「はい、分かりました」


 咄嗟の判断で嘘を吐いたが、美雨もお父さんに怒られるといった感じで、肩をシュンと丸めているのが警察を騙せた理由だろう。


 今日は紫乃がオレの家に泊まっている日。そんな夜中に急に美雨から警察に捕まったと連絡が来てびっくりした。


 紫乃を置いてそのまま外に駆け出してしまったが、帰ってから事情を説明する必要がありそうだ。


 まあ、そんなことよりも、今は美雨の事だな。何で外に出てお酒を飲んでいたのか。もしかしたらストレスを抱えているかもしれない。何にせよ、事情を聞か

なければならないが──


「だいぶ酔ってんな、お前」


「……ふぁ? 何で裕也がいんの……?」


「お前が急に警察に捕まったとか言ってきたからだろ」


 覚えていないのか。数分前のことだぞ。


「……嘘つかないで。あたしは警察なんかにお世話にならないわ……」


 オレが肩を組まないと歩けないくらい酔っているのによくそんな事を言えるも

んだ。


「ちょっと水ないの? 頭痛いんだけど……」


「はあ……。じゃあここで大人しく座って待ってろよ」


 雑用みたいになっているが、酔いを早く覚まして美雨の口から聞きたいことが

たくさんある。


 美雨には座れそうな所に腰を下ろさせて、自販機に向かう。


 腰を下ろして壁にもたれ掛かろうとした時、酔っ払っているからか、頭をゴン

とぶつけていたが、良く自分でもぶつかった事が分かっていなさそうだったので

無視した。


「水買ってきたぞ」


「あ、どうも」


 適当にお礼を言い、水をごくごくと喉に通していく。


 金髪の髪をかきあげている美雨は、良く表情が見えやすい。だから、顔が赤く

なっているのもしっかりとオレの目に映る。


 上を向いて飲んでいるので。夜の道にある街灯に照らされている。


 純白な白色の綺麗な肌は、赤く染まっていて、目を瞑っているその様(さま)は、

キスを誘っているような顔をしていた。


「キスしたいの?」


 オレが美雨の事を見ていると、美雨は飲み終わったのか、目を開いた。


 まさかオレはそんな顔をしていたのか。それとも酔っていて誘ってきているの

か。


「いいよ、あたしは」


「そういうのは酔ってない時だな」


 ギャルのこういう所は嫌いだ。


 他の男は、こんな誘いに断らずにいられるだろうか。それに、今は酔ってい

る。今襲われたら、気づけば朝だったというパターンだ。


 美雨は危機感がない。


 危機感を持たす為には、今ここで襲えば早いのだが、あまり望ましくない。深

夜ってこともあって、警察が彷徨いている。


 自分で成長して欲しい所だが……。


「ふん、この童貞」


「ハイハイ」


 これだけ飲んでいれば、オレに迎えにこられたことも、この会話も一才覚えて

いないだろう。


 と、考えていた時、


「わわっ」


 美雨がフラついた。もうおんぶで帰らないといけないレベルまできている。


「どんなけ飲んでんだよ」


 オレはそう呟きながら、力の抜け切った軽い体をおぶる。


 美雨はオレの胸辺りで腕を絡ませ、右肩に顔を乗っける。


「わぁ、あたしおんぶされてるんですけどー」


「黙ってろ」


 通りかかる人は少ないが、これもこれで恥ずかしいんだ。黙っておんぶされて

いれば良いのに、余計な事を言ってくる。


「うわぁ……お尻がぁぁぁ。はっず」


「降ろすぞ」


 お尻を支えておんぶしているのだから、お尻に触れるのは当たり前だ。マジで

降ろしたくなってきた。


「あーあ、何であたしってこんなに人生つまんないんだろう」


 それは、日頃、毎日思っているような事を口にしたような感じだった。


 お酒が頭に回っていて、脳が働かない中、いつも思っているような事が口に漏

れてしまったのだろう。


 しかし、美雨は「でも」と言い、


「裕也がずっといれば楽しいのになぁ〜」


 そんなことも口に漏らした。 


 美雨も今、そんな事を言っているの事に気づいていないようだ。 


 ふにゃふにゃと、オレの肩の上で眠そうにしている。


 やはり酔いって怖いな。


 お酒は飲んだことはないが、美雨の前では絶対に飲まないことにしよう。何を

口走ってしまうか分からない。 


 飲むとしたら紫乃と、だな。


「その内、あたしたち別れる時があるし……。つまんなくなるんだろーなー」


 お別れがある。人生、ずっと一緒にいるような人はいない。例え親でも早いうちに別れが来る。


 社会に出たら親とは会うことはなくなるし、友達なんか周りには誰にもいなく

なるのが当たり前。


 紫乃とのお別れもあるし、美雨とのお別れもある。


 しかし、そのお別れが人生を帰るものもあるのも事実だ。


 美雨が言うように、オレと別れが来たら、おそらく美雨は人生を捨てたような

ものだろう。


 美雨がオレにどう思っているのかは知らないが、オレと別れが来れば、帰る家

を失い、守ってくれる人もいなくなる。


 オレはあの時、ヒーローのように犯されている美雨を助けてしまったから、美

雨にとってオレは大事な存在になってしまった。


 お別れには人生を変える効果もあり、人の人生を壊すこともある。


 ──それをオレは認識しなければならない。


「どうせあたしは捨てられる……。邪魔だし、魅力ないし、可愛くないし」


 ポロポロと口から溢れ出てくる言葉。


 どれも反対だと伝えたいが、オレは口を挟まない。邪魔ではないし、魅力はた

くさんある。それに可愛いし、実は言うと胸も大きい。


 もっと自分に自信を持っていい、とオレは思う。


「どうしたらいいの……どうしたらずっと一緒にいられるの……どうしたらあた

しを抱いてくれるの……どうしたらあたしのこと好…………」


 寝たな。


 だんだんと弱くなる美雨の声。願い事を言うかのように言葉にする美雨。


 弱まっていく美雨の声からは、夢のような、あり得ないと思っているような口

調が感じ取れる。


 口調と声音だけで人の感情が分かる。


 紫乃が、美雨との言い合いで中学の頃の口調と声音に戻った時も、紫乃は怒っ

ているなと分かったように、今の美雨の状態からも読み取ることができた。


 オレは少しづつ下がっていく美雨の体を、上に押し上げて元にも戻す。


 むにゅっと柔らかい美雨のお尻を、手の平で堪能しながら、オレは無言で進ん

でいく。


 帰る途中、休憩がてら美雨を降ろしても起きず、降ろしている時に頬を突いても

起きない。


 ギャルはどうしてだろう。


 目を瞑っているだけで誘われている気分になる。寝ている時は、背中を向けて

いたから寝顔を見ることはなかった。しかし、こうマジマジと見ると、美雨を違

った目で見てしまいそうになりそうだ。


「許されるか」


 キスをしても──。


 オレのファーストキスはおそらく紫乃。


 ギャルのファーストキスは、分からないが、オレが見た限りでは前のオッサン。


 キスを誘ってきたしいいか。


 ただ勘違いして欲しくないのは好意を抱いているからキスをしたいという訳で

はない。ただ、キスをしたい。


 お菓子が食べたい、みたいな感覚だ。 


 そうしてオレは──


 真夜中の暗黒に包まれた公園のベンチの真ん中──


 紅色に染まる薄っすら開かれたギャルの唇──


 そこにオレの口を近づけ──


 ——唇が重なる寸前で止めた。

  

 急に美雨の顔色が悪くなった。ちょうど夢を見始めた頃か。とても辛そうな顔をしている。


 人生辛いことしかないギャルをどうにか幸せにしてくれる人はいないだ

ろうか。


 このギャル、美雨の人生を変えれるような、幸福にさせてやれるような人。そ

んな人と出会って欲しい。


 ──オレにはできない。財力も、力もないオレには。


 コイツはまだ女子高生。身も心も子供。そんな女子高生が人生つまんないと言葉にしているこの状況。

 


 どうか、このギャルを拾ってやってくれ。


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