ギャルとの遭遇

「オールしよ!」


 現在深夜。


 深夜テンションの紫乃は、このまま寝ずにオールしようと言い出す。


 ワガママしかない。


 深夜に至るまでは、子供の頃の写真を見たいと言い、それに付き合い、その後

は幼稚園、小学生、中学生の卒業アルバムを細かく見たりと、オレは紫乃がした

いことに従い続けた。


 別に嫌々付き合っている訳ではない。紫乃と一緒の時間は何でも楽しいし、気

軽で居れるから良い気分だ。


 しかし、オールに関しては余裕を持って即答できない。


 既に部活の疲労がドスっと肩にもたれかかっている。今すぐにでも、ベッドに

飛び込みたい。


 でも、ワガママを聞くと決めたからには、成し遂げなければならなかった。


「そうだな。もし寝たら罰ゲームでもしようぜ」


 寝落ちする確率はオレの方が高いのに、不利な条件を口にした。


「いいね。どんな罰ゲームにする?」


 紫乃もノリ気だ。


「うーん、身体的なのは嫌だからな。質問何でもできるっていうのはどうだ?」


「ノった! 賛成、賛成」


「嘘吐いて、それがバレたら、酷いお仕置きが待ってるからな」


「何で私が負けて嘘吐いてる前提なの。私負けないよ」


「ほう。じゃあいい勝負になりそうだな」


 お泊まりでオールしようと言って、オールする確率は、かなり少ない。オール

する確率は、おそらく初心者がスリーを決めるくらいだろう。


 だから、結果どちらかが寝落ちして、罰ゲームを喰らうと見ている。


 それがどちらかになるかはまだ分からない。


「よし、ホラー映画見るか」


 ホラー映画なら怖くて眠くならないだろう。 


 しかし、これもオレの罠である。ホラー映画を見ると言って、部屋を暗くする

ことによって眠気を誘うのだ。自分もその誘いを喰らうことになるが、そこは何

とかして耐えたい。


「私怖いのいやだよ」


 そう答えるのも想定済みだ。


 が、中学生の頃はこう言えば大体見る。


「腕しがみ付いていいから、それならいいだろ」


「それなら良いよ」


 怖いと言って暗くなっていた顔は、今はパァっと明るくなっている。これが安

心感から来るものなのかは良く分からないが、そう言っておけば大丈夫というこ

とが分かっているので、それ以上は気にならない。


 そうして、オレたちはホラー映画を見ていたのだが、想像以上に怖くて、オレ

たち2人はお互い抱きしめ合う形が続いていた。


「うわっ!」


「ふにゃぁあああ!」


 オレは普通に驚いて紫乃に抱きつき、紫乃は怯え、恐怖の混じった声音で、一

驚し、震駭しんがいしながらオレに抱きついてくる。


 側から見たら、オレたちは蹲(うずくま)って抱きついてるように見えるが、その

中で手や口が震えている。


「うぅぅぅ…………」 


 チラ、チラッと怖いシーンでもテレビが気になる紫乃は、オレに抱きつきながら

顔を動かす。


 オレもチラッと見るが、怖くて一瞬で首を引っ込めた。


「……怖すぎないか」


「ゆうくんがこれ選んだんじゃんっ!」


「マジごめん、マジ」


「こわいぃぃ」


 プルプルとまだ震えている。


「紫乃、もう大丈夫そうだぞ」


 オレは嘘を吐く。


「本当……?」


 嘘。


 今、絶対怖いの来る! って所だ。オレは悪巧みをしている最中である。性格

悪いな。


「ああ、本当だ」


「はぁ……良かった──うわぁぁああああ──」


 安心した間際、再び雄叫びに近しいくらいの声をあげた。


「ゆうぐんん……。意地わるぅ……」


 クスクスと思わず笑ってしまった。オレも紫乃の驚きの声に驚いたが、怖いの

が出てくる所は見ていなかったのでダメージが少ない。笑えるだけの体力は残っ

ていた。


「嫌い、嫌い嫌い嫌い、嫌い嫌い嫌い!」


 オレの胸をポスポスと弱くて可愛らしい力で叩いてくる。


 だが、数分経つと、オレの胸に埋まっている紫乃から、力が弱まっているのを

体感した。 


「紫乃?」


 オレは肩を掴み、顔を窺うと、トロントした目で口を少し開いている紫乃がい

た。


「寝たのかよ」


 ダラーんと肩を持っていても力が抜けている紫乃は、既に寝ているのだと分か

る。


「ちと、やりすぎたな」


 オレはそう反省しながらも、この勝負は勝ったので、オレもとりあえず寝るこ

とにした。


 小さい頃、泣いた後はすぐ寝るとはこういうことだろう。


 紫乃は今日、結構泣いていたからな。


 そうして、2人して子供のように抱き合っているオレたちは深い眠りについ

た。


 この幼馴染2人の仲睦ましい眠りの光景は、絵になるような、思い出の大切な一枚になるような、気づいたらアルバムに載っているような、そんな2人は今日も、何かに向かって進み続ける。


 それが死に向かってなのか、その途中の通過点の、“結婚”がもしかしたらあるのか、目標を定めないまま、幼馴染は変わらず残っていた。


 幼馴染という関係ははいつまで経っても変わらないから無敵だ。


***


「朝だぞ。おーい」


「もうちょっと……」 


「ダメだッ」


 オレはいち早く起き、朝食の準備をしてから紫乃を起こす。


 毛布を引ッぺがし、目を覚ましてもらう。


「うわぁっ」


「ほら、ご飯できたから」


「んー……」


 起き上がる事はできたが、眠気は覚めず、目を擦っている。服もだらんと半分の

肩が見えていて、思わずどきりとしたが、オレは朝飯を机に運んだ。


「顔洗ってこい」


「うんー……」


 元気のない声が返ってきたが、何とか立ち上がって洗面所に向かった。


 そうして、オレたちは朝ご飯を食べ、昼までゴロゴロしてから、紫乃が口を開いた。


「どこか行かない?」


「確かにそうだな」


「ゆうくんもせっかくの休みだし、何かしたい」


「行きたいとことか、したいことあるか?」


 オレがそう言うと、少し不満そうな顔をオレに向けてくる。


「ゆうくんが選ぶんだよ。私だけ選ぶのじゃ嫌だよ」


「そっか……」


 紫乃は、ゆうくんがしたいことを私がしたい、と言い目をオレに向けてくる。


 したいことか。あまり考えていなかったからすぐには思いつかない。


 そして、数分の時が流れた頃、思いついた案をオレは口にする。


「映画とかどうだ?」


 もう1年は見ていない。


 高校1年生の頃は行く暇のなく、1回も行っていなかった。それに最近、クラ

スでもチラホラと、面白い映画があると言うのを耳にすることが多い。


 それを紫乃と見てみたいなと思った。


「よし、じゃあ行こう!」


 紫乃は、そうオレに言い残し、着替えに行った。 


 その間、オレも着替えを終え──ギャルと連絡をとっていた。


『起きてる?』


『うん。何か用?』


『めちゃくそ暇なんですけど』


『知らねぇよ』


 既読が秒でつく会話をする。


『てか、お泊まりって誰としてんの』


『古い中の友達』


 少し間があく。送っていいか悩んでいるような時間だ。


『男? 女?』


『女』


 また間があく。


『2人?』


『うん』


 そこで、既読は付いたものの、連絡は途切れた。


 と、同時に、着替え終えた紫乃が戻ってきた。化粧もして、美貌が目立ってい

る。


「その服似合ってるな」


 季節は夏。


 今はもう6月に入っているので、かなり暖かい季節だ。 


 そして、夏らしい真っ白なワンピース、雪色の綺麗な肌が、またもや、美貌を引

き立てる。


「……ありがとう」


 紫乃は、少し照れ顔をして、モジモジし始めた。


「準備できたし行くか」


 映画館は電車で数分の所にある。


 映画の上映時間も調べ終えたオレたちは、予定通りに家を出た。


 久しぶりの、この幼馴染との空間を身に染みつけながら、向かっていく。


 オレたちは誰にも分からないような仲だ。


 友達、親友以上に、絆が深いのが幼馴染。ずっと前から一緒に思い出を作り、

今もなお、思い出を作っている。


 小さい頃は、幼馴染という関係に深く考えていなかったが、高校生にもなる

と、幼馴染ってすごいな、と誰もが実感するだろう。


 そんな事を考えながら、オレたちは映画館に到着した。


「カップル多いね」


「それな」


 オレたちが見る映画が恋愛もので、女子受けが良いからか、カップルの比率が

高い。彼女さんが見に行きたいと言って、着いていってるタイプだろう。


「私たちもカップルっぽくしようよ」


「恥ずいから嫌だわ」


「即答じゃん。悲しい」


「ガキの頃だったらそういうのやるのも良いけど、もう紫乃も大人だし恥ずかしい

だろ」


「まあそうだけどー」


 ふんっと拗ねたように見せたが、すぐ笑顔になる。


「早く見よ!」


「席取りしに行くか」


 そして、オレたちはかなり良い席が空いていたので、2人分のチケットで埋め

た。


 そうして──


「面白かったぁ」


「期待以上だったな」


 どうだったと訊かれたら、感動したの一言に尽きる。言葉では語れることので

きない程の悲劇さ、残酷さ、そして面白さ、感動が混じっていて、とても満足の

いく作品だった。


 紫乃も満足しているようだ。涙で擦って赤くなった目が見えるが、口元は満面

の笑みだ。


「2回見たくなるな、これ」


 2回、3回、それほど続けて見たいと思える映画だった。


「また行くしかないね」


「だな」


 数分経つたびに、驚かされる映画であり、何度見ても飽きない映画。だから世

間からも、年齢層的に若い年齢の人を狙っているこの作品も、受けが良いのだろ

うと分かる。


「あの人って──」


 そうして、オレたちは感想を言い合う。


 が──そこで思わぬ人物と遭遇してしまった。


 オレだけが知って、紫乃が知らない人物。それはアイツしか思い当たらない。


 オレの目の前でそいつは固まる。


「ゆう……や……?」


 人混みが少しあったから、手を繋いでいただけなのだが、オレの目の前に現れ

た1人のギャルは目を見開くほど驚いて呆然としていたた。


 そして、ギャルは目を細め強めな口調で放つ。


「あんな誰」


「え、私?」


「あんたよ」


「ちょ、ちょっとゆうくん? この人は?」


 急に知らない人から、あんた誰と言われればそう言われるのも不思議ではな

い。


「ちょっと人多いからとりあえずこっち行こう」


 オレは人気のない所に誘導した。


 ──何故──オレは焦っているのか。


 ──その感情は自分でも良く分からない。


 ──美雨に、紫乃という近しい存在がいたのを知られたからか。


 ──紫乃に、ギャルという存在の女子がいるのをバレたからか。


 ──それとも、この2人を合わせてしまったことに焦っていたのか。


 とにかく、オレは焦っていた。


 人気のない所に誘導してどうしようというのか。


 それは考えるほど頭に余裕はなかった。


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レビュー、コメント等よろしくお願いします😁


 

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