幼馴染とお泊まり
刻一刻と予選が終結を迫っている中、生活でいろんなことが起こっていた。
なんと、オレたちに休みができたのである。監督が試合の審判をやるらしく、オレたちは休みを得ることができた。
「今週の土曜泊まれるぞ」
「え、ほんと?」
「ああ」
前に紫乃が泊まりたいと言っていたので、オレは報告する。紫乃に予定がなけ
ればこのまま泊まりという形で成立するだろう。
返答は──
「泊まりたい!」
とびっきりの嬉しそうな顔で言ってきた。
「よし、じゃあ今週な」
「うん!」
そんな喜んでいる紫乃に、質問をする。
「泊まりは、オレん家か? それとも紫乃ん家?」
子供の頃だったら、大体がオレの家だったが、美雨のこともある。なるべく追
い出したくはないので、紫乃ん家で泊まれればなと期待を抱いて質問した。
そして、紫乃は一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに答える。
「どっちでもいいよ」
「そうか、じゃあ紫乃ん家でいいか?」
「うん! お泊まりできればいいから」
「ありがとな。助かる」
「それじゃ、また連絡してね」
「おっす」
紫乃はこの学校の中で、一番気軽に話せるし、オレの事を理解している。
いつもはオレの家なのに、今日はどうしてと思っているのだろうが、理由を聞
いてこない。部活仲間の人とかだったら、何でだよとか普通に言ってくるのだろ
う。
そういった部分で、紫乃がオレの中で一番近しい存在なのは間違いがない。
そうして、オレは紫乃とお泊まりが決まったその夜。
美雨との会話──
「オレ金曜の夜から土曜いないから夜ご飯とか作んなくていいぞ」
「えぇ、あたし1人になんの?」
「そうなるな」
「つまんなー」
オレのベッドの上でゴロゴロしながら口にする。
最近帰ってくると、バイトをしていて疲れているのか、ベッドの上にいること
が多くなった。
美雨も住む家が必要で必死なのだろうから何も言わないが、最近ダラしなさが
目立ってきている。
ギャルっぽい生活に戻ってきているのだろうか。
ダボっとした服と、ミニパンツ。オレの目を気にしていないような、そのギャル
らしい格好にオレは少し気になっていた。
「お風呂入ってくるわ」
「はーい」
服が収納されているボックスには、美雨の服が増えた。
日払いのバイトもしているらしく、溜まったお金で服を買い始めたのだ。
元から、服を持ち歩いていなかったので、最初はオレの服で我慢していた。し
かし、今はミニパンツなど、部屋着でも使えて便利な物を買い揃えるようになって
いる。
別にこれに関しても指摘はしないが、異性の相手がいるのに、その無防備な格
好はどうかと、思ってしまうのは事実だ。
まあ、別に指摘はしない。
「ふぅ〜……」
湯船に浸かり、自然と口から溢れ出てくる。疲れが取れていくみたいだ。
試合の時期は、疲労をとるために湯船に30分前後浸かるように意識してい
る。湯船の中で腿(もも)や脹脛(ふくらはぎ)をモミモミと揉んだりして、マッサー
ジをする。
「気持ちいなぁ」
オレは身体を休ませると共に、頭ではいろんな事を考えていた。
湯船にゆっくり浸かると考え事をしてしまうのは良くある事だろう。
「紫乃か……」
オレは美雨の事ではなく、紫乃の事を頭に浮かんだ。
「緊張するな」
正直に言うと、あんな平然とお泊まりできると言ったが、心の中では緊張して
いる。
だってそうだろ。
あんなに女の子らしくなった、子供の頃とは違う紫乃とお泊まりをするんだ。
小学生や中学生の頃とは違う。
セックスをする平均年齢が高校生くらいのように、身体共に、精神的な面も変
わってくる。
だから、オレも紫乃の身体的な部分を見て、緊張させられるのである。
ヤリたいかと訊かれたら、例え幼馴染でも、ヤリたいと答えるだろう。幼馴染
だからそういった事をするのはあり得ないだろうけど、ヤリたいといった気持ちは
素直に言うとある。
そして、もちろん美雨もある。
だからあんな無防備な格好は辞めて欲しいのだ。
でも自由だし、美雨のお金だから口出しとかはしない。そんな事を考えている
と、
「裕也ー!」
隣の部屋にも聞こえそうなほどな大きな声が聞こえた。
このワガママを言いそうな声音、かまってー! に近いこの言い方には、次に
どんな言葉が飛んでくるのは想像できる。
「早く寝るわよー!」
そう、美雨はオレの背中じゃないと眠れないのだ。
疲れているのか、いつもより眠るのが早い美雨に、最近オレは合わせることに
なっている。
そうしてオレは、美雨を寝かせるために、湯船から上がり、頭や体を洗い始め
た。
ミニパンツだからか、オレの足の上に足を乗っけてくる時、柔らかくて冷たい
生足がオレの肌と密着してドキドキしていたオレがいた。
***
──お泊まり当日。
「お邪魔します」
「はーい」
オレと同じ、1人暮らしの紫乃の家に上がる。
紫乃も引っ越してまでオレに着いてきた身なので、親元から離れて引っ越して
きている。
そして、紫乃の親が納得したのにも理由がある。
それは──
住んでいる家が、対面のアパートであることだ。
紫乃の親が、オレと同じアパートか、近い所ならいいということで、引っ越し
てきたのである。
だからいつでも会える距離なのだが、どちらも子供の頃のように会って遊ぶと
いうことは無かった。
「こんな構造してんのか。オレの家とは少し違うな」
当たり前の話だが、構造が違う。オレ的には紫乃ん家の方が好みだ。
「この家いいでしょ。引っ越して来なよ」
「距離変わんねーじゃん」
「まあね」
冗談だから軽く返される。
「いやぁ、今日すぐ寝ちゃったらごめん」
一応保険を掛けておいた。
部活が終わってから来たので、少しは疲労がある。思わず寝落ちしてしまう可
能性があった。
「無理矢理起こすから大丈夫だよ」
「おお、それは安心だな」
オレは寝させてもらえないらしい。把握しておこう。
そして荷物を置いて落ち着いてきた時──
「じゃあ──お風呂一緒に入ろ」
思ってもいなかった言葉が紫乃の口から出てきた。
「は……?」
思わずといった感じで口から漏れる。
「だから、お、お風呂入るの」
「待て待て。オレたちもう高校生だぞ」
「い、いいじゃん」
自分でもこんな事を言っているのが恥ずかしいのか、少し顔がひきつっている。
しかも目がクルクルしているぞ。
「良くねぇって。オレたちはもう大人だし、この歳で異性とお風呂なんて入って
る人いないぞ」
「た、確かにそっか……」
「自分の体見てみろよ」
大きく成長した体。幼馴染でも決して男に見せていいものじゃない。そういう
のはカップルとか、見せてもいい相手にするものだ。
「……」
しかし、紫乃は黙り込んだ。
唇がブルブル震え、今にも泣き出しそうだ。何で泣くんだよっと思ったが、紫
乃は小さい頃から泣き虫。そこだけは変わっていないようで安心した。
自分でも何を言っているのか自覚したのだろう。
「紫乃……とりあえず1人で湯船に浸かってこい。落ち着くだろうし」
「……」
返事はない。が、こくりと頷いて見せる。
──紫乃は泣き虫な子だ。
小さい頃はヤンチャな子でも、良く泣く子だった。後、何も後先考えずに先走
ってしまうことが多々あった。オレはしっかりとそこは覚えている。
まあそれは親から聞いた話だが、紫乃はスキー場のロープウェイに乗りたく
て、1人で乗って、警備員の人に抱っこされながら泣いて帰ってきたり、小さい
頃はオレと結婚するとうるさかったらしい。
何ともガキらしいなと思うが、微笑ましい部分も多い。
だから、今回も何も考えずに言葉にしてしまったのだろう。紫乃自身、久しぶりにオレと遊べて気持ちが昂っているのだと思う。
引っ越してまで着いて来た紫乃に、忙しいという理由であまり遊べないのは申し訳ないと思う所はある。
「今日何かしてあげたらいいな」
もうお風呂に入っていった紫乃に聞こえない声で呟く。
家に来る前は考えていなかった事を、今は考えるようになった。
そうして、お風呂から上がった紫乃は、いつもと同じ表情をしていて安心して
から、オレは口を開いた。
「何かして欲しい事とかあるか?」
今回のお泊まりで、紫乃のワガママを拒否せず聞くことにしたオレだった──
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SS──今回はお休み。
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