オレの幼馴染の昔話

──予選当日。


「今日はまあまあ強いとこだな」


「アイツが上手いらしい」


「オレが付くか」


「任せた」


 今日の相手はビデオを見る限り、普通のチームよりは強いと言う。


 オレにとっては負ける気のしない試合だが、バスケットボールは油断できない。


 能ある鷹は爪を隠すように、バスケットにもそれが通じる。オレが最初の予選であまり激しい動きをしなかったように、実力を隠して分析をさせないのも実力

のうちと言える。


「今日、桃栗来てるらいしじゃん」


「オレの応援だけどな」


「俺はないのかよ」


「お前なんた見ちゃいねぇよ」


「ちっ」


 桃栗は、バスケ部の中では、可愛いとして名を知られている。他の部活でも、

桃栗可愛くね、といった会話で盛り上がっているかもしれないが、少なくともバ

スケ部では可愛い女子として人気だ。


 まあ、良く試合の応援に来てくれるということで認知されていることが原因

で、男子に目をつけられた形になる。


「すごいよな、毎回。流石幼馴染って感じだわ」


「自慢の幼馴染だな」


「誇っていいぞ、本当。俺の親なんて絶対来ないから」


「そりゃドンマイ」


 まあ、オレの親も全国レベルの試合にならかきゃ、見に来ない。そういう親な

のだ。


 と、そこで試合会場を彷徨いている紫乃の姿を見つける。


「あ、ちょっと紫乃のとこ行ってくるわ」


「はいよっ」


 そうしてオレは紫乃の元へ向かった。


「紫乃」


「あ、ゆうくん」


 そこで、オレは何で紫乃の元へ向かったのか、分からなく、話題を振れなかっ

た。


「?」


 紫乃もポツンとした顔をしていて、どうしたの、と顔で訴えてくる。


「少し話さないか」


 オレはただ、話すためだけに紫乃の所へ向かったのだと理解した。


「いいよ」


 紫乃もニコッと笑い、歩きながら話すことにした。


 この2人でいる時間が、オレの中では1番落ち着く。ギャルより何十倍も良

い。


 そしてオレから話題を振る。


「子供の頃──オレたちってどんなことしてたっけ」


「むむ、急だね」


「何か昔話したくてな」


「昔話ねー」


 そう言って、考え込む。記憶を辿っているのだろう。


 ちなみに、オレは記憶力があまりないので、ほとんど覚えていない。


 だから勉強もできないのだろう。


 しかし、覚えているものはハッキリと覚えている。中3の頃の会話とか。


 そして、思い出した紫乃が口を開く。


「ゆうくんは覚えていないと思うけど、一緒にお風呂入ってたよ」


「え⁉︎」


「嘘じゃないからね。でも小学生くらいの頃だけど」


「マジか……オレそんなことしてたのか」


「あと〜、バーベキュー行ったりー、お泊まりも良くしたよ」


「あぁ、お泊まりは覚えてるわ」


 オレと、紫乃の家が隣り合わせだった頃、良く家に行って、そのまま親に許可

を貰って泊まっていたのを思い出す。


 あの頃の紫乃は、今思えばガキだった。


 物をとればポスポスと叩いてきたり、遊ばなかったもういいっ、と言って拗ね

たり──すぐ泣く子だった。


 良くするお泊まりでも、先に寝ようとしたら絶対に起こしてきたり、トランプ

で遊んで負けが続いたらトランプを投げてきたりと、今の紫乃を見ると、想像で

きないほどガキだったのを思い出す。


「いやぁ、懐かしいな」


「どうせ私のことガキって思ってるんでしょ。分かるんだからね」


「バレたバレた」


「う……。嫌い」


「ハハッ。まあまあ小学生の頃なんてそんなもんだろ」


 オレもその頃はガキと言われてもおかしくはなかったしな。


「そうだけど……今考えると恥ずかしい」


「裸の中だろ?」


「うわぁ」


 オレが冗談混じりでそう言うと、眉間に皺を寄せ、引き気味の表情をオレに見

せてきた。


「そんな顔すんなよ。傷つくだろ」


「ハイハイ」


 今は絶対にお風呂も一緒に入ることはないだろう。


 小学生、中学生の頃とは見間違えるほど、大きくなった胸。化粧で美容を覚えた

可愛くて、美しい顔。そして変わった雰囲気。


 紫乃は変わった。


「紫乃って変わったよな、だいぶ」


「そうかな?」


 そう言っているが、本当に疑問に思っているような顔は、横から見てもしてい

ない。


 何年間一緒にいると思っているんだ。


「恋する乙女は何にでもなれるんだよ」


 不意に、そんな事を言う。


 紫乃が恋する乙女だからということなのか、ただ、適当に言った言葉なのか。

表情からは判断できない。長年の付き合いでも分からなかった。 


 すると、遠くでオレたちに手を振っている部活仲間を目にした。


 その時──


「今度さ、子供の頃みたいにお泊まりしてみない?」


 ほんの少し聞くのに怯えや緊張があったのか、声が震えいてる。


 そして、オレは「そうだな」とだけ返して、アップの準備のため、部活仲間の

元へ向かった。


 子供の頃みたいにとは、一緒にお風呂入るのだろうか。少し深掘りしすぎたオレだった。


 そして、試合の結果は勝利を告げた。


————————————————————————————————————

SS(ショートストーリー)

”紫乃目線”


 裕也は変わった。私はそう思う。


 私はしっかり覚えてる。お風呂を一緒に入ったことがあるのも、子供だけどお泊まりをしたことがあることも。私は覚えている。

 

 他にも、をしているのも、ゆうくんには言わないけど、頭の中に残ってる。


「紫乃って変わったよな、ほんと」

 

 そう言うゆうくんこそ変わってるのに。


 でも、自分自身変わっていることは実感している。実感というより、私を変えたのは私。実感していない方がおかしい。


 あの、一緒の高校に行くことが決まって、はしゃぎまくっていた頃、まだ私が変わっていない頃。

 

 入学式を備えていた頃にゆうくんが言った言葉。


”付き合うなら清楚”

 

 この言葉で私は変わった。変わろうと決めた。

 

 最初は何お前って言われるかもしれないと思いながらも、決意した私は清楚キャラを諦めずに通した。


 だから、もう一度、今の状態で、子供の頃のような事をしたい。

 

 わたしは——


「今度さ、子供の頃みたいにお泊まりしてみない?」

 

 覚悟を決めてそう言った。

 

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