4.気持ちだけは自由‐棗side

 李織から隠れて何度目かのため息をついている。このままではいけないのはよくわかっている。李織とは学校もクラスも同じ。そして、棗にとって、一番大切な友達。このままでいいわけがない。棗は李織に全てを話す覚悟を決めて、放課後に学校の屋上に呼び出すことにした。

 そして、その日の放課後、棗は李織と共に、屋上へ向かう。


(俺、ちゃんと言えるかな?)


 不安になりながらも、棗は覚悟を決めた。そして、屋上につくと、初夏だというのに暑かった。


「暑っ……」

「あぁ……」


 屋上に日陰はあまりないが、日陰に向かい、棗は李織に向き直る。


「李織……」


 そこまで言って、言葉がつまる。大切な友達だから嫌われたくない。でも、李織と気まずいままなのはイヤだ。


「あの日から、今日まで、ずっと素っ気ない態度で悪かった。ゴメン……」


 そう言って、頭を下げる棗。


「いいよ、オレも同じよなもんだったし……、ゴメン」


 お互いが謝る。でも、本当に伝えたいことはまだ伝えられてない。でも、それは普通の音量で言うには言いにくいことだった。


「ちょっと、耳を貸してくれないか、李織……」


 棗は覚悟を決めて自分の事を伝えるために、口を開く。


「俺さ、姉さんの事が好きなんだ……。だから、あの日、李織と姉さんが──」

「えっ……」


 棗の言葉に驚いた様子で、李織が棗を見つめてくる。


「うらやましい……」

「えっ……?」


 思ってた反応と違う。李織は目をキラキラさせて、李織に「好きってどんな感じなの?」と興味津々な様子で聞いてくる。その様子はまるで子供だ。だから、棗も素直に答えてしまっていた。そして、李織は最後にこう言ってきた。


「興奮してゴメン。オレ、まだ恋とかよくわかんなくて……。だから、恋してる棗がうらやましい」

「自分の姉さんだぞ……」

「それでもうらやましい。だって、誰かを好きになるってスゴい事だろ! しかもそれが姉って奇跡じゃないか?」


 そして、李織は棗を見つめて、こう付け加えてきた。


「好きな人とずっと一緒にいられるなんて幸せじゃないか」


 李織の言葉を聞いて、力が抜けた棗。その棗の瞳からは、涙が出ていた。


「なんで泣くんだよ」

「李織の言葉に力が抜けた」


 その場にしゃがみこむ。なんだか、今まで悩んでいたのがバカらしくなってきた。


「俺さ、李織に嫌われるかもしれないって思ってた……」

「そんなことで嫌うわけないだろ!」


 李織の笑顔が眩しくて見られない。そして、李織は棗と同じ様にしゃがみこみ、こう言う。


「ただ、姉に恋をしてるだけなんだろう?」


 その問いかけに素直に頷く。


「なら、それでいいじゃないか」


 そして、棗の耳元でこう言った。


「でも、いろいろしたくなるのが、思春期の男の性、だけどな」


 そう言って、ニカッと笑顔になる李織。それを見て、棗は「確かに……」と口にしていた。そして、より、力が抜けた。


(ただ、恋をしているダケ。確かにその通りだ……)


 気がついたときには自分の姉──奏に恋をしていた。そして、初めての恋にテンパり、自分の姉という存在に恋をしているという罪悪感に押し潰されそうになっていた。


「恋をしているなら、相手が誰であろうと、関係ないから気にすんなよ、棗。恋してる気持ちを自分だけで楽しめばいいだろう」


 李織以外には決して言えないこの気持ち。確かにその通りだ。この気持ちを楽しむだけなら、自分にも出来そうだと思えてきた。

 李織の言葉、態度に救われた。


(李織と友達になれて良かった……。友達でいてくれて、ありがとう。李織)


 棗は無言で手を李織に差し出す。


「何、この手?」

「握手だよ、握手。仲直りの握手……」

「オレ達、ケンカしてたか?」

「……してないけど、握手」


 そう言って、握手をかわす棗と李織。


(李織と友達になれて本当に良かった)


 心底、そう思う棗だった。そして、立ち上がった李織は棗にこう言う。


「あっ、今日の帰り、アイス買えよな! 棗のおごりな」


 そう言って、満面の笑みの李織を見て、棗は頷いていた。


(ありがとう、李織……)





 そして、棗と李織は帰り道にあるコンビニで仲良く、同じアイスを買い、暑さをしのぎながら、それぞれの家へ帰っていった。


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