3.困惑‐棗side

 クラスメイトとの楽しい時間。でも、そこに李織がいるともっと楽しい。

 映画が終わり、今はエンドロールが流れている。トイレに行くと、言って席を立った李織。棗は静かに映画ルームから出て李織を探しだす。


(まさか、迷ったのか?)


 でも、李織ならありえそうだ。棗はため息を付きながら、李織に教えたトイレに向かう。そして、その途中にある、プールの中が見える部屋にいる李織を見つけた。

 1人でいたなら、声をかけてた。でも、そこにいたのは、李織と棗の姉である奏。そして、奏はプールの中にいる。


(なんで、姉さんがそこにいて、李織と……キス、してるんだよ……)


 その場面を見てしまい、動けなくなってしまった。ガラス越しにキスをしている李織と奏。そして、それを見てしまった自分。いたたまれなくなってしまいその場から静かに離れた。

 本来なら、李織に声をかけている。


“こんなところで何してるんだ?”

“悪いな、見るつもりはなかった”

“李織と兄弟になるのもいいな”


 でも、そんな風に軽く声をかけられない理由が棗にはあった。


“自分の姉である奏に恋をしている”


 だから、今の棗の感情は真っ黒いモノが渦巻いていて、李織と普通に喋れない。絶対、余計な事を言ってしまう自信がある。だから、棗は落ち着くためにトイレに向かう。


(一旦、落ち着こう……)


 深呼吸をなんどかしていると、クラスメイトの佳衣≪よしえ≫と亮≪あきら≫の声が聞こえてきた。


(アイツら、探しに来てくれたのか……)

「おー、いたいた」

「探したんだよ、李織君」

「あー悪い。……迷った」


 トイレの中からでは聞こえにくいが声でわかる。李織がウソをついているのが。


「やっぱり……。あのさ、棗知らない?」

(俺の事も探しに来てくれたのか)

「棗君なら大丈夫でしょう、自分の家なんだから」

「それもそうか」


 笑いあう声が聞こえる。でも、李織と会うのが気まずい。棗は李織、佳衣、亮がそこから離れてから、映画ルームに戻ることにした。


(気まずい……)


 棗は深いため息をついていた。

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