第145話 悪魔聖書

 なにもなかった。 


 最初に意識が生じた。

 意識は自らを悪魔と呼ぶことにした。


 闇あれ、と悪魔は言った。

 すると闇があった。

 薄暮あれ、と次に悪魔は言った。

 もちろん薄暮が生まれた。

 つづいて悪魔は、天と地、殺す者、殺される者をつくった。

 天地は殺す者が殺される者を殺す阿鼻叫喚の巷となった。

 それが世界である。


 悪魔は殺す者の種類を増やすことにした。

 それが人、虎、狼などである。

 殺される者の種類も増やすことにした。

 それが羊、豚、牛などである。


 悪魔は人、虎、狼、羊、豚、牛などを雌と雄に分けた。

 雌と雄の交わりにより、殺す者と殺される者は増殖する。

  

 悪魔は殺す者と殺される者に感情を与えた。

 それが喜怒哀楽である。


 雌と雄、喜怒哀楽が生まれて世界は混沌となり、殺す者が他の殺す者を殺す現象が生じた。


 創造を終えた悪魔は、自らにも形を与えた。

 人の雌になった悪魔は、世界を歩き始めた。

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