第123話 二次元の哲学者

 二次元の哲学者、平面人ベータは三次元について思索していた。

 三次元の実在の可能性はつとに指摘されていた。

 もうひとつの次元があるということ。

 自分たちには想像できない高次元。

 平面ではない世界。

 平面人は三次元の神によって創られた創作物でしかないという仮説があり、それはおそらく正しいのだろうとベータは考えていた。

 この思索すら神によって創られたものなのだろう。

 平面人には面積しかないが、神にはX積があるのだろう。

 そのXは想像することができない。

 二次元には縦と横と時間がある。

 時間は次元ではないと考えられている。

 三次元には縦と横とXと時間がある。

 そのXが想像できない。

 ベータは思索に疲れ、平面を移動して、師と仰ぐアルファと接触した。

「先生、三次元についての思索、進展はありましたか」

「我らの二次元宇宙は無限の縦と横の広がりだ」

 アルファが話し始めたので、ベータは傾聴した。

「無限の二次元宇宙を無限に折り畳むことによって、三次元宇宙が生まれるのではないかと考えた」

「無限に折り畳む?」

「さよう、折り畳む」

「そんなことをすれば、二次元の生き物は全部死んでしまいます」

「そうなるであろうな。新たなる次元の宇宙が生まれるとき、古い次元の宇宙は滅びる」

 ベータはそれについて考えた。

「三次元宇宙が生まれるのなら、私は死んでもかまいません」

「うむ。問題は、二次元を折り畳むためには、三次元の力が必要だということだ」

「新たな次元を生むために、新たな次元が必要とは。先生、畏れながら、思考実験にすぎないと言わざるを得ません」

「であるな」

 アルファは黙り込んだ。

 ベータは愚かな考えだと思い、また平面を移動して、ひとりで思索にふけった。

 おそらく二次元を折り畳んでも、二次元のままだろう。

 三次元は二次元を膨張させることによって、生成されるのではないだろうか。

 縦でも横でもないX方向へ膨張させることによって。

 Xを実感をもって想像することはできない。

 しかし、仮説を立てることはできる。

 一生かかってベータは考えつづけ、Xを高さと命名して死んだ。

 高さとはいかなるものだろう。

 ベータの思索は弟子オメガに受け継がれ、高さについての縦深なる学問、空間学が創設された。

 オメガは一生を空間学の思索に費やしたが、高さの謎を解明することはできなかった。

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