第97話 遠い国のことだと思っていた

 小学校から帰ってきたら、お家がなくなっていました。

 焼け焦げた木材やがれきの山になっていて、その前で妹がわんわんと泣き崩れていました。

 大きな金属の破片も落ちていました。後で知ったのですが、それはミサイルのかけらでした。

 近所のおじさんやおばさんが壊れた家を見て、しっかりするんだよ、気を落とさないでね、とかぼくに声をかけてくるのですが、何も考えられませんでした。

 泣いている小さな妹の横に座りました。

「お母さんが見つからないの」と妹が言いました。

 消防や救急の人たちが、もとはぼくたちの家だったがれきの山をかき分けていました。

「見つかったぞ!」という叫び声がして、救助の人たちがその声がしたところに集まりました。

 ぼくはお母さんが助かったのだと思ってほっとしました。でもちがいました。救急隊の人がぼくと妹のそばにやってきて、口籠もってから苦しそうに言いました。

「お気の毒ですが、お母さんはお亡くなりになりました……」

 うわーんと妹がますます激しく泣きわめきました。

 ぼくはどう受け止めればいいのかわからなくて、涙も出ません。お母さんのところへ駆け寄ろうとしたら、救急隊員が止めました。

「見ない方がいい……」

 信じられない出来事でした。ある日学校から帰ってきたら、家が壊れていて、その中にいたお母さんが死んでいたのです。

 やがてお父さんが職場から帰ってきて、泣きながらぼくと妹を抱きしめました。

「被害があったのは、うちだけじゃないんだ。戦争が始まったんだよ……」とお父さんが言いました。

 戦争なんて、遠い国のことだと思っていました。

 数日後、お父さんはお母さんの仇を取るんだと言って、志願兵になりました。

「お父さん、行かないで!」と妹は言ったけれど、お父さんの決意は変わりませんでした。

 戦火は国中に広がり、お父さんはいつまで待っても帰ってきませんでした。

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