第96話 第3の性

 人類は中性と女性と男性の3つの性から成っている。

 太郎は男性で、花子は女性だ。

 ふたりは家が隣同士の幼馴染で、小学生時代、よく近くの公園や河原で遊んだものだった。

 思春期である中学生時代は妙に意識してしまって縁遠くなったが、高校1年生のとき、太郎は花子への恋心を自覚し、思い切って告白した。

 花子も太郎のことを愛しいと想っていた。ふたりはつきあうことになった。

「さて、中性の恋人をつくりたいよね」

「そうよね。3人揃ってこそのカップルだものね」

「誰か好きな中性はいる?」

「うーん。太郎くんほど好きな人はいないけれど、サチさんは好きかも」

「サチか。いいかも」

 太郎と花子は早速サチを校舎裏へ呼び出した。

 サチは、頭部にトサカがあるという中性特有の特徴を持っている。中性にアピールするためには、求愛のダンスを踊らなければならない。

 太郎と花子はサチの前でダンスを踊った。一生懸命に腰を振り、手足を振り回した。

「花子さんのダンスは好きだけれど、太郎くんのダンスはあんまり……。花子さんが別の踊りが上手な男性を連れてきてくれたら、つきあってもいい」とサチは言った。

 太郎はうなだれた。

「太郎くん以外の男性は考えられないわ」

「じゃあ、つきあえないね」

 サチは去った。

「おれ、ダンスの練習をするよ」

「わたしも協力するわ」

 太郎と花子はダンスの猛練習をした。しかし太郎に踊りのセンスはなく、なかなか上達しなかった。

 ふたりはネオ、テテ、タキなどにも求愛のダンスを見せたが、やはり太郎のダンスが劣っているという理由で、つきあってはもらえなかった。

「花子、おれとは別れた方がいい。もっとダンスが上手な恋人を見つけてくれ」

「太郎くん、そんなことを言わないで。もっとがんばろうよ!」

「うん。わかった。ありがとう」

 ふたりはさらに求愛ダンスの練習に励んだ。

 高校2年生のとき、太郎と花子はムーンの前で踊った。

「太郎くんのダンスが大好き!」とムーンは言った。

「やった! おれたちとつきあってくれるかい?」

「花子さんのダンスが好きじゃない。上手すぎる。私は太郎くんの不器用な踊りが好き」

 うまくいかないものだった。ムーンともつきあえなかった。

 太郎と花子はくじけなかった。雨の日も風の日もダンスの練習をした。勉強がおろそかになったが、恋愛の方が大事だった。

 高校3年生のとき、サチがふたりの前にやってきた。

「ねえ、ずいぶんと練習をしているみたいだね。もう1度、私にダンスを見せてくれない?」

 太郎と花子は顔を見合わせた。そしてうなずき合い、渾身の力を出して、求愛のダンスを踊った。そのダンスは息がぴったりと合っていた。

 サチのピンクのトサカが真っ赤になった。

「いまさらと怒られるかもしれないけれど、太郎くんと花子さんとつきあいたい……」

 太郎と花子は微笑んだ。

「怒るものか。おれたちとつきあってくれ」

「わたしたち、恋人になりましょう」

 こうして太郎と花子とサチはカップルになった。

 サチは大学に現役で合格したが、あまり勉強をしてこなかった太郎と花子は浪人生活を送り、1年遅れてサチが通っている大学に揃って合格した。

 サチは校門に立ち、笑顔でふたりを迎えた。サチを真ん中にして、太郎と花子は手をつなぎ、キャンパスへと足を踏み入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る