第79話 宇宙の目

 宇宙の目は時の流れを見ていた。

 138億年前、ビッグバンが発生し、宇宙は開闢した。そのときすでに宇宙の目は存在し、宇宙の歴史を見ていた。

 最初、宇宙は超高温で超高エネルギーの点だった。

 点は広がり、三次元の空間と一次元の時間が生まれた。

 四次元の時空間の中で、陽子と電子と中性子が生まれ、それが組み合わさって原子が形成され、さらには分子が生まれた。

 宇宙の目は時の流れを見ていた。

 分子の塵が集まって星が誕生し、大きな星は恒星となり、小さな星は惑星や衛星になった。恒星を中心に惑星が公転し、恒星系を形成した。

 宇宙は光の速さで膨張していった。

 たくさんの恒星系が集まって銀河を形成し、多数の銀河が集まって銀河団を形作った。

 宇宙はひたすら巨大化し、その中に無数の銀河団が形成された。

 宇宙の目は時の流れを見ていた。

 普通の恒星は燃え尽きたとき、自重で押し潰れ、爆発する。塵を宇宙に撒き散らして、新しい星が生まれる原料を提供する。

 大質量の恒星は燃え尽きたとき、潰れてブラックホールに変化する。そこからは宇宙最速の光も脱出できない。

 惑星の表面で生物が発生することがある。

 生物は進化し、単純なものから複雑なものへと変化する。

 巨大隕石が衝突したり、赤色巨星に飲み込まれたりといった大事件に惑星が遭遇すると、生物は絶滅する。

 宇宙の目は時の流れを見ていた。

 ある惑星で二足歩行する知的生物が生まれた。

 知的生物は道具を使い、火を利用し、言葉を発明した。文明を進歩させ、自らを人類と呼ぶようになり、万物の霊長だと誇った。

 人類は惑星から宇宙船を飛ばし、衛星に到達した。

 宇宙の目はそれを見て、微かに不快に感じた。

 人類は宇宙船を自らの恒星系の他惑星に飛ばし、さらにはそこからも飛び出して、他の恒星系にまで進出し、居住可能惑星に移住するようになった。

 他の銀河系にも旅して、銀河団に満ちるようになった。

 ついには他の銀河団にもなだれ込んで、宇宙中に存在するようになった。人類は自らを宇宙の支配者と呼んだ。

 宇宙の目はそれを見て、はっきりと不快を感じた。

 宇宙が汚されたと感じ、人類を憎んだ。

 こんな人類がいる宇宙なんていらない。

 宇宙の目はまばたきし、宇宙に干渉して、超巨大ブラックホールを生んだ。

 超巨大ブラックホールの事象の地平面は宇宙そのものよりも大きく、宇宙全体を飲み込んで、人類を滅ぼした。

 宇宙の目は満足したが、やがて自分自身も超巨大ブラックホールに捕らわれて、自由を失っていることに気づいた。

 宇宙の目は時の流れを見ることができなくなった。

 見えるのは暗黒だけだった。

 宇宙の目はブラックホールから脱出しようと足掻いた。

 超巨大ブラックホールは宇宙の目の引力で急速に縮小し、点と化した。

 そのとき、ビッグバンが発生し、新しい宇宙が開闢した。

 宇宙の目は存在していた。時の流れを見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る