第78話 変な名前オフ会

 布団田二度寝ふとんだにどねは変な名前をつけた両親を恨んでいた。

 高校二年生になり、好きな女の子に告白したが、断わられた。

 後日「布団田くんって、顔はそう悪くないんだけど、名前がねえ。変な名前すぎて彼氏にはちょっと無理」と彼女が言っていたという話が耳に入って、いっそう親を恨んだ。

「この名前のせいで、いろいろと生きるのが大変なんだよ」と両親に文句を言ったが、父親の布団田寝夜宇ふとんだねようは「いい名前だと思うけどなあ」と言い、母親の布団田ころりは「かわいい名前よ」と言って取り合わなかった。ついでに「二度寝って名づけたのはおばあちゃんだからね」ところりは付け足した。

 祖母の名前は雑魚寝座子ざこねざこだった。

 ちなみの父方の祖母の名前は布団田寝美ふとんだねみだ。

 布団田二度寝はSNSで変な名前のことを愚痴った。日本には変な名前の人が他にもたくさんいて、仲間ができた。二度寝が気の毒に思うほどの名前を持つ人が大勢いた。

 高井金利たかいかなりは「高利貸し」という理不尽なあだ名をつけられて、いじめられているという。中学生の女の子らしい。かなり気の毒だ。

 綺羅龍綺羅男きらりゅうきらおは自分のキラキラネームが大嫌いで、「綺羅龍」と名字を呼ばれるだけで落ち込むという。気の毒だ。

 失意失恋子しついしつれんこは親が何を考えてこんな名前をつけたのか悩みつづけて、訊くことすらできないという。その名前のせいで恋をする気にもなれないらしい。信じられないほど気の毒だ。

 ハンブルグ美味雄びみおの父親はドイツ出身で、ハンバーガーが大好きだという。美味雄は名付けた父親をぶん殴って、不良になったそうだ。気の毒だ。

 涙涙子なみだるいこは変な名前だと嘆いているが、SNSの変な名前仲間から「涙さんはマシだよ」と言われ、慰められているという。布団田二度寝もそう思っている。恵まれている方だ。

 他にもたくさんの変な名前仲間がいるのだが、上記の人たちは首都圏に住んでいるということがわかって、ノリでオフ会をやろうということになった。とある日曜日の午前11時、渋谷のハチ公で待ち合わせをした。

 涙涙子が少し遅刻して、11時15分に全員集合した。

 お手軽なファミレスに入り、昼食にしようということになった。

 高井金利は小柄で黒髪ロングの可愛らしい中二の女の子だった。

 綺羅龍綺羅男はお腹の出た中年男性だったが、貫禄があった。

 失意失恋子は大学三年生の女性で、ブランド物らしいおしゃれな服を着ていた。ミニスカートで脚線美に目が吸い寄せられた。茶髪ボブヘアできれいな顔の人だった。

 ハンブルグ美味雄は二度寝と同じ高校二年生だった。中肉中背で平凡な顔立ちだった。目付きが少し悪かったが、不良としてはあまり迫力がなかった。

 涙涙子は27歳のOLで、肩までの長さの髪を金色に染めていた。すごい美人だった。右目に泣きぼくろがあって、色っぽい。

「みんな若いね。おれが奢るよ」と綺羅龍が言った。

「綺羅龍さん、割り勘にしましょうよ」と涙子が言い、みんながそれに賛同して、割り勘になった。

「おれのことは龍、と呼んでほしい」

「はい、龍さん。ではみなさん、わたしのことはるい、と呼んでください」

「じゃあじゃあ、あたしはカナって呼んでください」と高井金利が言い、

「私のことはレンで」と失意失恋子が言い、

「俺のことはハーくんと呼んでくれや、夜露死苦」とハンブルグ美味雄が言い、

「あ、僕は布団田でいいです。フルネームで呼ばれなければ、それでいいんで」と二度寝は言った。

 ブーイングの嵐が巻き起こった。

「ブー、布団田くんは恵まれているよ」

「ブーブー、布団田くん、ずるい」

「ブーブーブー、布団田二度寝さんって呼ばせてもらいますぅ」

「ブーブーブーブー、布団田二度寝くん、三度寝すればいいわ」

「ブーブーブーブーブー、布団田二度寝くんよお、おめえの名前には可愛げがあんだよお。たいして変な名前じゃねえ」

「いや、十分変な名前だよ!」

 オフ会は盛り上がり、二度寝はかなり楽しんだ。

 二次会はカラオケに行き、夕方まで変な名前仲間で遊んだ。また会おうということになって、解散した。

 僕は確かにあの人たちよりは恵まれているのかもしれないな、と二度寝は思うことができた。

 変な名前仲間の付き合いは長くつづいた。

 一年後、涙涙子がSNSで報告してきた。

『わたし、結婚しました。真珠涙子になったので、変な名前仲間は脱退しますね。悪しからず。旧姓涙涙子』

 やっぱりあの人は恵まれていた、と二度寝は歯噛みした。

 涙子を除くメンバーでオフ会をやり、悪口を言って、大いに盛り上がった。

 ちくしょう、しあわせになれよ!

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