第64話 中学生小説 微人類の侵略

 宇宙を飛来する比較的大きな隕石。

 その石の中に知的微生物の群れが存在していた。

「寒いな」

「宇宙空間は寒い」

 彼らは彼らの言語で話していた。正確に言うと、テレパシーで情報を共有し合っていた。

 隕石は銀河系辺縁の太陽系を飛んでいた。

 第3惑星の近くをかすめ、その引力に捕らえられた。

 隕石は日本国東京都奥多摩と呼ばれる地域に落下した。

 燃え尽きることなく地上に到達し、とある山で小さな爆発を起こした。

 彼らの多くは死んだが、一部は隕石の中で生き残った。

「ここは外でも生きられる」

「我らよりさらに小さな食べられる植物性の微生物がいる。栄養を得て、増殖できる」

「森林の空気が我らに適している」

 彼らは喜んだ。

 彼らは極小微生物を食べ、増殖した。すさまじい速度で増殖し、広がっていった。

 彼らは自分たちのことを微人類と呼んでいた。


 微人類はやがて、この星に巨人類が満ちていることを知った。

 奥多摩から多摩、そして東京23区に増殖して、それを知った。

 東京23区には巨人類が密集していた。そこは食べられる極小微生物が少なく、空気も汚染されていた。

 微人類はその環境を嫌った。

 この星の人類、巨人類が自然を破壊していることも知った。

 微人類は世界中に広がり、どこでも同じように巨人類による自然破壊が進んでいることを知った。

 巨人類はこの星の自然を破壊し尽くしてしまうだろう。

 微人類はそう考えるようになった。

 テレパシーでその考えを共有した。

「巨人類がこの星を滅ぼす」

「自然を滅ぼす」

「滅ぼされる前に巨人類を滅ぼさなければならない」

「どうやって?」

「巨人類の弱点を探せ」

 微人類は巨人類の体内に侵入し、その弱点を探した。


    ◇


 微人類は巨人類の体内を調べた。

「全身の血管が集まっている器官がある」

「心臓だ。我ら微人類にもある。巨大な心臓だ」

「心臓が停止すれば我らは死ぬ。巨人類もおそらく」

 微人類は心臓に集結し、その小さな手を使って、カリカリと巨人類の心臓を搔きむしった。

 微人類1体だけならどうということはなかっただろう。

 しかし1万体が同時攻撃した。

 巨人類は心不全を起こして死んだ。


「殺せる」

「1万体の同時心臓攻撃で殺せる」

「巨人類を殺せる」


 この星を原住人類は地球と呼んでいた。

 地球人類の間に奇妙な心不全が広がり、多くの人間が死ぬようになった。

 若く健康だった人間も死ぬ。

 地球全体で人々がバタバタと死んでいった。

 医師たちがこの心不全を調査した結果、死亡者の心臓から未知の微生物が多数発見された。

 ある医師がこの微生物をクラストオプシスと名づけた。

 病名はクラストオプシス寄生病。

 クラストオプシスはなぜか心臓に集まり、心臓に打撃を与えるのだ。

 少し寄生されたぐらいなら心不全を起こすことはないが、1万個体以上に寄生されると死亡する。

 その数に寄生されると、致死率はほぼ100パーセント。

 ウイルスでも細菌でもない。

 ワクチンもなく、有効な薬もない。

 クラストオプシスを電子顕微鏡で見ると、奇妙なぐらい人体に似ていた。


 微人類の増殖スピードはすさまじい。

 極小微生物を食べて成長し、体積が2倍になると分裂して増える。

 1日1回分裂できる。

 1体が2体に、2体が4体に、4体が8体に増える。

 奥多摩への隕石落下から365日後、微人類は地球全体に拡散し、その数を1000兆体に増やしていた。

 巨人類への攻撃をつづけた。

 巨人類はマスクをつけるなどして抵抗したが、微人類は耳の穴からも侵入した。

 それに巨人類は水を飲んだり、食事をしたりするときにはマスクをはずす。

 そのときに口や鼻から侵入できる。

 微人類は知性を持っている。

 彼らは巨人類を調べ尽くし、その生態を把握し、弱点である心臓を集中攻撃した。

 最後の1個体まで。

 隕石が落下して、地球が太陽の周囲を2回まわったころ、巨人類は滅亡していた。


 地球は微人類の星となった。

「ここは我らの星」

「我らはこの星の自然を破壊しない」

「我らはこの星の自然を守る」

「極小微生物を食い尽くすこともない」

「適正数しか食べない」

「我らは異常な増殖はしない」

 地球人類の根絶という目標を達成し、微人類は増殖を停止し、減少へと転じた。

 1兆体が適正人口であると判断し、その数を維持した。

 その後、地球環境は良好なまま推移した。 

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