第54話 みにくいうどんの子
校庭ではたくさんの白いうどんの子たちが遊んでいました。
ドッジボールや追いかけっこやサッカーなんかをして、楽しそうです。
黒っぽいうどんの子がいて、その子は誰にも遊んでもらえませんでした。
みんなから「みにくい」と言われて嫌われていたのです。
みにくいうどんの子は鉄棒でさかあがりをしたり、ジャングルジムに登ったりして、ひとりで遊びました。
からだを鍛えて、りっぱなうどんになって、美味しく人間に食べてもらうのが夢でした。
他の白いうどんの子たちも、人間に食べてもらうために、学校で勉強したり、遊んだりしています。
黒っぽいみにくいうどんの子は、負けるもんか、と思ってがんばっていました。
白いうどんの子たちはすくすくと成長し、太くて腰のあるりっばなうどんに育っていきました。
みにくいうどんの子も育ってはいましたが、細長くて、なかなか太くなりません。
他のうどんの子たちから細いのをバカにされて、「やっぱりみにくい」と言われました。
みにくいうどんの子はマラソンをしたり、腕立て伏せをしたりして自分を鍛えました。
腰のあるうどんになったような気がします。
でも細長いままで、太くはなれませんでした。
さぬきうどんの子たちは特にりっばなうどんに成長していました。
太くて腰のあるうどんに成長していて、貫禄がありました。
みにくいうどんの子はぼくだって美味しいはずだと思っていましたが、さぬきうどんには負けるかな、と弱気になりました。
それ以外のうどんの子にも負けてしまうような気がしてきました。
黒っぽくて細くて、どう見てもりっぱなうどんではありません。
みにくいうどんの子はそれでもめげずに、走ったり、筋トレをしたりして、ひとり黙々とがんばり続けました。
みにくいうどんの子は、細いながらもたくましく成長しました。
学校を卒業する日が来ました。
卒業したら、お店に行って、人間に食べてもらうのです。
卒業式で「仰げば尊し」を歌いました。
他の白いうどんたちとともに、みにくいうどんもお店に行きました。
もううどんの子ではありません。大人のうどんなのです。
白いうどんが茹でてもらい、人間に食べてもらっていました。
「美味しい」と人間が言っています。
美味しく食べてもらうことは、うどんにとって最高のしあわせです。
さぬきうどんが食べられていました。
「こいつはうまい。さすがさぬきうどんだ」と人間がうなっていました。
さぬきうどんは食べられながら、しあわせそうに笑っていました。
ついにみにくいうどんの番がやってきました。
黒っぽくて細いうどんが茹でられていきます。
ざるに入れられ、冷水で洗われました。
どうやら自分は冷やしうどんとして食べられるようでした。
みにくい冷やしうどんは人間に食べられました。
ひと口食べられて、人間が言いました。
「これは最高だ! 美味しい!」
そう言ってもらえて、みにくいうどんはうれしくなりました。しあわせです。
さらに人間に食べられていきました。
「うまい、うまい」と人間が言います。
みにくいうどんは至福のときを味わって、天にも昇る気持ちになりました。
「これは最高のそばだ! こんなに美味しいそばを食べるのは初めてだ!」と人間が言いました。
それを聞いて、みにくいうどんは自分が学校をまちがえていたことに気づきました。
自分はそばだったのです。そばの学校へ入学すべきだったのです。
しかしみにくいうどん改め美味しいそばは後悔してはいませんでした。
誰よりも努力し、からだを鍛えて、美味しいそばに成長することができました。
人間に「美味しい」と言ってもらえたばかりか、「最高のそばだ」とまで言ってもらえたのです。
悔いがあるはずがありません。
みにくいうどんの子は幸福な一生を終えました。
「ごちそうさま。美味しかった」
最後にそんな声が聞こえました。
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