第32話 禁酒法下の人造少女隊
麻薬取締法にエチルアルコールが追加されて、酒造メーカーと愛飲家はパニックになった。アルコールが健康を害することは明白なため、世界的に禁止される傾向があったとはいえ、日本では全面禁止はまだ先と見られていた。
しかし米国で新大統領の強い意向により、ほとんどの州で禁酒法が施行されるにおよび、急遽日本でも禁止が決定された。大手酒造メーカーにすら根回しがされていなかったようだ。アメリカに配慮した政府与党の断行であった。
多くの酒造メーカーが業種転換に失敗し、倒産した。愛飲家たちはデモ行進をしたが、アルコール復活には至らなかった。世界的な流れには抗しえなかったのだ。
そして10年が過ぎた。アルコール禁止は当然のこととして世間に定着した。
しかし麻薬を使用する者がいなくならないように、アルコールを飲む者が皆無になることもなかった。
わたしも飲んでいる。
わたしは人気沸騰中のアイドルユニット「人造少女隊」に属し、水晶凛鈴というキラキラ過ぎる芸名を持っている。
人造少女隊のメンバーは5人で、リーダーの金剛乱蘭の恋人は所属事務所と関係の深い反社会的団体の幹部だ。その恋人が乱蘭に密造酒を渡している。人造少女隊のメンバーは乱蘭の住むマンションの部屋でよく秘密の飲み会をやっている。
わたしは密造酒なんか少しも美味しいとは思わないし、どうやらアルコールに強い体質らしくてあまり酔うこともないのだが、付き合いで飲んでいる。他のメンバーはアルコール中毒みたいになっていて、飲まずにはいられないようだ。わたしひとりだけ飲まないと感じが悪いから飲む。
反社会的団体の幹部も乱蘭の部屋にやってきて、一緒に飲むことが多い。この40歳ぐらいの男はかなり金回りがいいらしくて、乱蘭のマンションの賃借料も支払っている。
わたしはコンサートとかテレビ出演とかの仕事は大好きで、人造少女隊をやめたくないのだが、メンバーとの付き合いは苦痛だ。仕方なくやっている。
乱蘭の恋人は仲間の男たちを連れてくることがあり、彼らは酔っ払うとわたしたちを抱く。嫌で嫌で仕方がないが、彼らの暴力は怖いし、反社会的団体の代表とわたしたちの事務所の社長はぐだぐだの金銭関係で繋がっていて、逆らえない。
金剛乱蘭は恋人以外にも抱かれたりしてそれが平気なようだし、銀貨新心は清純派に見せていて実は淫乱だし、銅山環艦はワイルドな男が好きでこの環境を喜んでいる。翡翠祥翔は本当はレズビアンなのだが、わたしと同じで人造少女隊を続けたくて我慢している。
わたしはなんとかこの飲み会をやめたいと思っているが、すでに共犯者なのでずるずると続けている。わたしを愛人にしようとしている別の幹部もいて、本気で逃げ出したいのだが、今夜も飲んでしまっている。
人造少女隊は本当に顔も身体も美しい女の子ばかりで編成されていて、尖った曲を歌っていて、カリスマ的な人気を誇っている。しかしその実態はアルコール漬けにされた反社会的団体の男たちの慰み者だ。哀れ。
その夜は最悪だった。わたし以外のメンバーと乱蘭の恋人が完全に酔っ払ったタイミングで警察官たちが立ち入り、わたしたちは一網打尽にされた。
金剛乱蘭は主犯格で、恋人の幹部と共に実刑判決を受けた。わたしを含む他のメンバーは執行猶予がついた。しかしマスコミはわたしたちの裏の姿を報道しまくり、わたしの芸能活動は終わりを告げた。
わたしは執行猶予期間が終わったら、なんらかの形で芸能人として復活したいと願っているが、その目途はまったくない。
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