第33話 人面蛇
海辺を歩いていたら、人面蛇を見た。
人の顔をした海蛇が波打ち際でにょろにょろと這っていた。目が合い、10秒ほど睨み合った。
体長は2メートルほどだった。青地に黄色い縞のある派手な蛇だった。毒蛇かもしれない。しかし顔が人間みたいなことが何よりも驚きだ。
僕が近寄ると、人面蛇は海に逃げてしまった。
僕は海辺の散歩を習慣にした。またあの蛇を見たくて、高校帰りに遠回りをして海辺を歩いて帰宅した。ゆっくり歩き、波打ち際から目をそらさなかった。
2週間後に、河口で魚を食べている人面蛇を見つけた。
「やぁ」と僕は言った。
蛇は魚を飲み込み、「やぁ」と答えた。
「魚は美味しいかい?」
「美味いとも。儂に話しかけるとは、貴様ただの人間ではないな?」
「いや、ふつうの人間だよ。ただの高校生さ」
「高校で学んでいるのだろう。学者ではないか」
「日本の多くの子どもが高校に進学するよ」
「なんてこった。儂の知識は古くなっておったか」
「きみは何歳なの?」
「はっきりとは数えておらんが、200歳は下るまい」
よく見ると、蛇の顔には深いしわが何本も刻まれていた。そうか、200年以上生きているのか。
「長老だね」
「いかにも、儂は海の長老じゃ、少年」
僕は人面蛇と親しくなり、何度も河口で会い、語り合うようになった。
「長老」と僕は呼び、「少年」と蛇は言った。
ある日、僕は妹を連れて河口へ行った。僕が長老と話しているのを、妹は驚愕の表情で見ていた。
「お化け」と妹は言った。
長老は哀しげな顔をして、「少年、儂はこれでも繊細な心を持っておるのじゃ。傷ついた」と言った。
長老は海に帰った。それ以来、僕は人面蛇を見ていない。
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