第15話 河口湖の上空をドラゴンが飛び、秋葉原を魔法使いたちが占拠する。
富士山の裾野が勇者や魔法使いやドラゴンがいる異世界とつながってしまった。やつらがどんどん日本に入ってくるのが当たり前になった。
僕は河口湖の畔に住んでいる中学二年生だ。父は釣具店を経営し、母はレストランのシェフである。
趣味はルアーフィッシング。河口湖でブラックバスを狙っている。
空にはドラゴンが飛んでいる。もう見慣れた風景だ。ドラゴンはめったに人を襲わない。気にしなくていい。
バスを釣った。エルフの女の子が僕と魚を見ていた。すでに旧知の仲で、名をアルクレシアという。可愛らしいエルフだよ。
「それ、美味しいの」
「まぁまぁ旨いよ」
僕は母から料理の仕方を習っている。自宅にアルクレシアを招き、ブラックバスの香草焼きを振る舞った。
「ハムハム。本当だ。美味しいや」
「河口湖のバスは霞ヶ浦のバスより旨い。水が綺麗だからね」
食後、僕ら二人はテレビを見た。テレビは異世界にはないもので、アルクレシアは番組に夢中だ。
「臨時ニュースを申し上げます。本日、バーム魔法王国が秋葉原を占領し、アキバを我が領土とすると表明しました。相当な異世界戦力が秋葉原に集結しているもようです。高位の魔法使いを含む魔法軍団と翼竜騎兵隊をバーム魔法王国のバルバリ王子が率いているとの情報が入っております」
大変なことになっているみたいだ。アルクレシアは目を丸くしている。彼女もバーム魔法王国人である。
「首相は戒厳令を発令し、自衛隊にバーム魔法王国軍の排除を命じました。しかし秋葉原には多くの民間人がいて、実質的な人質になっています」
自衛隊と異世界軍が対峙している映像を見て、僕もアルクレシアも興奮してしまった。
「どうなるの」
「戦争だよ」
「アキバは異世界でも大人気だから」
「それが占領の理由だね」
夜になって、戦闘が始まった。自衛隊は夜目の効かない翼竜を全滅させたが、魔法で反撃され、多数の負傷者を出し、撤退を余儀なくされた。
僕とアルクレシアは眠らずにテレビを見ていた。父と母もだ。
日本はバーム魔法王国に宣戦布告した。しかしなぜか富士の裾野は異世界人にしか通行不能で、こちらから攻め入ることはできないのである。
翌日、裾野から敵勢力の増援部隊がやってきた。勇者、魔法使い、エルフ、ドワーフ、オークの混成部隊だった。
秋葉原と裾野が同時に戦場になった。
河口湖もきな臭くなってきた。ドラゴンが火を吐き、誰も戸外へ出なくなった。僕の中学校は休校になった。
警察官が家にやってきて、この辺でエルフを見たという情報があるのだが、と言った。僕ら家族はしらを切り、アルクレシアをかくまった。彼女は子どものエルフで、軍隊とは関係ない。
魔法は侮れない威力を持つ。爆裂魔法は戦車の装甲を撃ち抜くし、雷魔法は人間を失神させる。
自衛隊は苦戦した。秋葉原は奪還できず、裾野ではゲリラ戦法に手を焼いて、ついに戦死者を出してしまった。
日本政府は苦境に立たされた。
「アルクレシア、日本を救ってよ」と僕はお願いした。
彼女はエルフの魔法少女だ。睡眠魔法の名手で、数万人を同時にスヤァとさせることができる。
僕とアルクレシアは父の運転する車で秋葉原へ向かった。
アルクレシアは秋葉原で睡眠魔法を発動した。隣にいた僕はすぐに眠ってしまった。
戦争は終わった。昏倒したバーム魔法王国の軍人を自衛隊がすべて拘束した。
アルクレシアは裏切り者となり、バーム魔法王国に帰れなくなった。なので、今は僕の家に寄宿している。
彼女は日本の救世主だ。僕の中学校に転入し、すぐに人気者になった。
ある日、また臨時ニュースが流れた。
「ニルム迷宮王国のドワーフたちが金銀財宝を大量に持ち込んで、渋谷の土地建物を買い占めています。このままでは、渋谷区は実質的にニルム迷宮王国のものとなってしまうもようです」
これにはアルクレシアの睡眠魔法も無効だ。
大変な時代になってしまった。
でも僕は内心ワクワクしている。
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