第14話 VS GONOKUNI ROUND4


「『TEENAGE STRUGGLE』最終予選。怒涛の展開が続いています!」


実況者ミトの声が、スピーカー越しに倉庫に響く。


「『WAR』も折り返しに入ったといったところですが、現在の戦況は如何でしょうか?」

「そうでごわすな。両国の生存選手は5名。脱落者の才具も同じであるため、戦況は均衡しているといえるでごわす」

「そうですね。これからの展開、卓男さんはどう考えますか?」

「え、えーと・・・」

「やはり、特殊な才具である『狙撃銃』の使い手の生存が、戦局を大きく左右すると思われるでごわす」

「なるほど。借倉架純選手とシン選手の動きに注目というわけですね」


口ごもる卓男に変わり、解説を入れるオクター。

ぐっと親指を立てる本物の解説者を前に、卓男は苦笑を浮かべ、俯いた。


そんな放送を聞きながら、壱ノ国側の倉庫にて、スピーカー横に設置されたモニターで試合を見守る6人。


「さすがは伍ノ国。厄介な奴らが揃ってるな」

「ですね」


その内の剛堂と美波が、深刻な面持ちでモニターを見つめながら言葉を交わす。


「それにしても、こういう時の平吉さんは、本当に頼りになりますね」

「だな。俺も現役の時はよく助けられたものだ」


昔のことを思い出すように、剛堂はうんうんと頷いた。


「あっ!りっくんだ!」


次いでモニターに映し出された噴水前の決闘に、真夏が声を上げる。


「くうにいさま。頑張ってください」

「りっくんがんばれー!」


七菜が祈りのポーズを取り、真夏は拳を掲げる。


「李空!負けんなよこら!」

「相手のあの才をどう崩すか。見物だな」


脱落した太一と滝壺も、興味津々といった様子でモニターを食い入るように見ている。


一触即発の空気を纏った街。各戦場に導火線は伸び。

着火の恐れをすぐ側に。闘いの火種は飛び散るのだった。




こちらはキャスタがアジトにしていた場所。

とある建物の2階にあるその部屋で、伍ノ国代表将のバッカーサは、次々と撃ち込まれる弾丸からアーチヤを守っていた。


「いくら撃ってきても無駄じゃぞ!」


バッカーサは何と弾丸を素手で掴み、部屋の隅に放り投げてみせた。

彼の身体能力にかかれば、迫る弾丸を手中に収めることなど、赤子の手を捻るのと同義なのであった。


「・・ん?」


僅かな疑問の声の後、バッカーサは横に跳んだ。


先ほどの銃撃とは逆。

バッカーサが飛び込んできた方の窓から、銃弾が撃ち込まれたのだ。


「キャスタの報告にあった能力か。ちと厄介じゃの」


この部屋であるが、3面がガラス張りとなっている。

狙撃の位置が不確定かつ多数となった今。バッカーサの行動は自然と制限される。


「アーチヤ。後ろに隠れておれ」

「うん」


バッカーサはアーチヤを守るように、部屋の中で唯一安全を確保された面。ガラス張りでない一面を背に陣取った。

このまま、ドアがある部分まで横移動する腹積もりだ。


どうやら、その状態の二人に弾丸を当てられる位置に狙撃手はいないらしく、このままいけば無傷でドアまで辿り着くと思われた。


しかし、


「ばっかじいじ!あぶない!」


アーチヤの叫び声と、乾いた銃声がバッカーサの耳に届いたのは、ほぼ同時であった。


バッカーサは、自分の置かれた状況を把握するのに少しの時間を要した。

というのも、アーチヤの才『コーディネート』によって、バッカーサは立ち位置を強制的に変えられていたのだ。


「アーチヤ!」


アーチヤのその行動の意味を、視線を横に流したバッカーサは知ることになる。


視線の先。アーチヤの背後には見慣れたゲートが。

して、そこから伸びる手には『片手銃』が握られており、銃口からは硝煙が。


その前には、倒れるアーチヤの姿があった。


「ばっかじいじが無事でよかっ・・た・・・」

「アーチヤ!!!」


防具を破壊されたアーチヤは消滅。

バッカーサは涙ながらに嘆いた。


「あわよくば二人まとめて思うたが。ただの子どもやなかったみたいやな」


ゲートから姿を見せたのは、壱ノ国代表将。

軒坂平吉その人であった。


「貴様。なぜキャスタのゲートから・・」

「ああそれな。本人の記憶から盗聴させてもろうたわ」


それは、キャスタと初めて対峙した折。

平吉は『キャッシュポイズニング』の条件を満たした後、キャスタが有効範囲を離れるまでの間に、ゲートの出口として登録してある場所を把握しておいたのだ。


その位置さえ分かれば、キャスタからサイアイテムを奪った平吉は、出口として利用することができるというわけだ。


「架純の射撃は、出口にお前らを誘導するためのものやった、いうわけやな」

「ゆるさん!許さんぞおおお!」


アーチヤを守れなかったばかりか、守られてしまった。

その事実が、バッカーサのリミッターを解除した。


「おっと。ここは危険やな」


怒るバッカーサが振り下ろした『斧』は、建物の2階に当たる床を破壊。

たまらず、平吉は破られていた窓から飛び下りた。


「待たんか!それが一国の将の姿か!」

「阿呆。そっくりそのままお返しするわ」


バッカーサは、逃げる平吉に向かって。

平吉は、怒りで我を失いつつあるバッカーサに向けて。それぞれ言い放った。


崩れる建物からバッカーサも飛び下り、それを確認した平吉はゲートを駆使して逃げる。


こうして、アーチヤの脱落を合図に、将同士の鬼ごっこが始まった。




アーチヤが撃たれた場所の、向かいに当たる建物の3階。


「どうやら半分成功といった具合みたいでありんすね」


スコープ越しにアーチヤの脱落を確認した架純は、場所を変えようと立ち上がった。


「その必要はないぞ」


背後から聞こえた声に振り返るよりも早く。銃声が響いた。

銃弾は防具に命中。架純の姿は消えた。


しかし、その光景に『片手銃』を構えるキャスタは納得がいっていない様子だ。


「ちっ!外れか」


架純は確かに消えた。

が、その消え方は才具の強制転送とは違った。


そう、撃たれた架純は『ハニーポット』による囮だったのだ。


「バッカーサの出現は流石に想定外だったはず。つまり、ここにいたのは本物の狙撃手のはずだが。一歩遅かったか・・」

「そうでありんすな」


その声は、部屋に踏み込んだキャスタの背後から聞こえた。

それと共に銃声が鳴る。


「肉を切らせて骨を断つ。これでおあいこだな」

「自分へのダメージを覚悟の上で、攻撃に転じたわけでありんすか」


響いた銃声は


その一つである架純の『狙撃銃』は、キャスタの防具にダメージを。

もう一つのキャスタの『片手銃』は、架純の防具にダメージを与えた。


狙撃手の背後を取るのは定石。それを逆手にとった架純は、囮を狙うだろうキャスタを背後から狙った。

しかし、そうくるだろうと予測したキャスタは、銃声が鳴ると同時に背後に発砲したのだ。


さらに、キャスタの頭はその次も見越していた。


「これで逃げ場は無くなったぞ」


部屋を囲むように出現した石壁。

これにより、架純はキャスタとの一騎打ちを余儀なくされた。


平吉に逆手にとられ閉じ込められた経験から、建物の一階には出口のゲートを設置済みである。


「ここで狙撃手を撃破すれば、試合を一気に有利にできる。閉じられた空間であれば『狙撃銃』本来の力は出せないだろ」

「なるほど。平ちゃんの評価は伊達じゃなかったみたいでありんすな」


空間を制限された以上、キャスタの『片手銃』の方が扱いやすい。


さらに、石壁は才を通さない効果を持つ。

架純の本体がここから逃げ出すことも不可能というわけだ。


キャスタの眼が怪しく光る。


二種の銃による決闘。女の闘いが今始まった。




噴水前の決闘。


「小細工なしの矢は効かんぞ」


眼前に迫る矢を『剣』で薙ぎ払い、セイは楽しげに笑った。

まるで、李空の次なる攻撃を心待ちにしている様子だ。


李空がセイの「斬像」を利用して一矢報いた後、セイはすぐさま既存のそれらを解除した。

これにより、李空は同じ手をもう使えない。


元より一発限りの奇襲だと考えていた李空は、『オートネゴシエーション』の次の一手が判るまで、とりあえずの時間稼ぎといった様子でセイから距離をとった。


「中距離を保っておけば、お前の攻撃は届かない。こんな風に一方的な攻撃を仕掛けられるってわけだ」


次いで三発ほど矢を連射する。


セイは一度だけ『剣』を振るい、眼前に「斬像」のバリアを設置。それらを防いだ。


「まあそう考えるのが普通だな。だが、才という存在は普通じゃない。特殊だ」


そう言うと、セイは何もない空気中に『剣』を一振り。

そこに透明ではなく、黒の色がついた「斬像」ができた。


「なんだ?」


訝しむ李空をよそに、セイはその黒い「斬像」に『剣』で突きを入れた。

して、その動作がビリヤードのそれであるように。


「斬像」が李空目掛けて、飛んだ。


「っ!」


なんとか反応した李空は、ギリギリでそれを回避。

元居た場所の後ろにあった建物が、「斬像」の衝撃で破損する。


「飛ぶ斬撃か・・」

「よく躱したな。見たところ才は使ってないようだが」

「うちのは中々の半端者でな。必要最小限の能力しか貸してくれないんだよ」


やれやれ、と手を振る動作をしながらも、李空は思考する。


飛ぶ斬撃の像。「飛斬像」とでも呼ぼうこの能力は、李空にとって非常に厄介だ。


セイの『剣』に対し、李空の才具は『弓』である。

至近距離戦となれば、間違いなく『剣』に軍配が上がるだろう。


その分、中距離戦となれば李空に分がある。

はずだったが、この「飛斬像」によってそれも無くなった。


色がついており視認できる分、まだ良かったと思うべきか。

おそらくは「斬像」を飛ばせるようにするための制約だろう。


「頼むぞ。相棒」


自身の才『オートネゴシエーション』は、この状況下でどのような能力をもたらすのか。


疑う余地のない強敵を前に。決して有利といえない窮地を前に。


李空は闘いを楽しむように、笑って見せた。




「もう逃がさんぞ!」

「捕まってもうたか・・」


うっすらと額に汗を浮かべて呟く平吉。


いくつかのゲートを経由して、バッカーサの追跡を振り切ってきた平吉であったが、キャスタから盗んでおいたサイアイテムを、つい先ほど使い果たしてしまった。

仲間と合流できればと思い、ここまでやって来た平吉であったが、その願い虚しく誰とも遭遇することはなかった。


平吉も一国の代表の将である。

こうなれば腹をくくるしかない。


「もう逃げるのはしまいや」


挨拶代わりに平吉は『片手銃』を一発発砲。

バッカーサはそれを片手で掴み、そのまま握りつぶした。


「まったく。戦争っちゅうのは人間様が行う愚かな行為やで。化け物がするんは、そりゃ蹂躙や」


平吉がこれまで積んできたトレーニング量は並ではない。

その平吉が額に汗を掻き、僅かながら息を切らしているにも関わらず、平吉がゲートで移動した分も走ってきたはずのバッカーサは、息一つ乱してはいない。


平吉が化け物呼ばわりしたくなるのも無理はなかった。


「それは一理あるの。力の差がありすぎる争いは、一方的でつまらんものじゃ!」


大きな『斧』を片手で軽々と持ち上げて、猪突猛進という言葉がぴったりな様で、バッカーサが迫る。

平吉は、振り下ろされるバッカーサの腕の外側をなぞるように、体を回転させながらそれを避ける。


「小癪な!」

「なっ!」


バッカーサは一振りの途中で『斧』を右手から左手に持ち替え、そのまま平吉の防具を襲った。

人間離れした曲芸に、平吉は必要以上に距離をとる。


「ふむ。あと一発といったところかのう」


ヒビが入った平吉の防具を眺め、バッカーサが満足気に頷く。


「・・この化け物が。せやけど代償に見合った対価はもろうたで」


そう言って、平吉は目を閉じる。

そう、一撃を食らいながらも、平吉はバッカーサに触れていたのだ。


「貴様。舐めておるのか」


挑発ともとれるその行動に、バッカーサは肩を震わせ、こめかみをひくつかせる。

暫し待つも平吉の返事はなく、バッカーサは無防備に見える平吉に向かって迫った。


しかし、


「・・・なんじゃ」


その途中で、バッカーサの動きが明らかに鈍った。


「毒が回ったみたいやな。ご老体」


平吉が目を開き、ふっと笑う。


今回、平吉が『キャッシュポイズニング』によって仕込んだ毒は、バッカーサ自身の記憶のコピーであった。


バッカーサはその年齢の分、若者よりも多くの記憶を持つ。

平吉はそれをコピーしてペースト。2倍の容量にしたのだ。


突如大容量の記憶(データ)を注入されたバッカーサの脳はパンク寸前。

これにより、体に誤作動を起こさせたのだ。


「名付けて『バッファオーバーフロー』。まったく、歳はとるもんやないな」

「戯言を・・若造が・・・」


先ほどまでの動きが嘘であるように、ゆっくりとした足取りで近づくバッカーサ。


「無理すんなや。すぐに楽にしてやるさかい」


『片手銃』の引き金を引き、まずは二発の銃弾がバッカーサの防具に命中。

二発ずつしか連射できない『片手銃』の性質上。僅かな待ち時間の後に、今一度構え直す。


「これでしまいや」


これで勝負ありと、平吉が引き金に手をかける。


が、乾いたの銃声音の後。


地面に倒れたのは平吉の方であった。




とある建物の3階。


石壁に四方を囲まれたこの部屋では、架純とキャスタによる女の闘いが繰り広げられていた。


「ほう。まだ残っていたか」

「残念やけど、今はこれが限界でありんす」


キャスタの目前には、三人の架純の姿があった。


架純は情報収拾と多方向からの狙撃のため、街中の至る所に囮を配置している。

して、現在架純の本体がいるこの部屋には、才の効果を通さない石壁のバリケードが築かれてしまったため、それらを戻すことは叶わない。


そのため、この決闘に使える囮の数は限られているのだった。


「「「さて、どのあちきを狙うでありんす?」」」


三人の架純が、それぞれ『狙撃銃』をキャスタに向けて問いかける。


「なるほど。本体を選び撃たねば、こちらが撃たれるというわけか」

「そういうわけでありんす」


『狙撃銃』は一発毎にリロード動作が必要となる。

相手が偽物を選び、銃弾を外した後の致命的な隙を突こうという魂胆だろう。


『片手銃』を構えたキャスタは、一体目、二体目、三体目と順に銃口を向け。


パンッ!パンッ!


三体のどれでもない。

いうなれば、位置的に四体目に当たる。虚空のはずの空間に向かって発砲した。


「・・・どうして分かったでありんす」


その空間から新しく架純が出現。代わりに三体目の架純が消えた。

どうやら今現れたのが本物の架純。三体目に当たる囮は、本体を庇って被弾。その衝撃で消滅したようである。


ただ、初弾は本体に当たっていたようで、防具の劣化が進んでいた。

おそらく次の一発が致命傷となるだろう。


「そんなに不思議か?それなら教えてやろう」


キャスタは表情を崩さずに言い放つと、片目を隠していた金髪を掻き上げた。


「その眼は・・・」


そこあったのは、もう片方の碧眼と対をなすように。

怪しく、それでいて燃えるように光る。緋眼であった。


「この緋の眼は真実のみを映す。この眼の前で、囮はなんら意味を成さないというわけだ」


キャスタは戦闘の際、二種類の『サイノメ』を使う。


一つは空間を認識する眼。

もう一つは、である。


碧眼で読み取る空間に、緋眼で捕捉する対象の位置を映し出すのだ。

この双眼を以って、キャスタは架純本体の位置を正確に把握してみせたのだ。


「本体が分かれば迷う必要もない」


続けざまに二発。キャスタが銃弾を撃ち込む。

それらを二体の囮が身を挺して守り、その衝撃を以って消滅した。


「さあ、残すは貴様ひとり。覚悟しな」


ゆっくりと『片手銃』の照準を架純に合わせるキャスタ。

如何にも絶体絶命の状況で、架純はふっと笑みを浮かべ、こう続けた。


「真実を映す眼。その驕りが、虚構の存在を蔑ろにしたみたいでありんすな」

「っ!」


キャスタの背後に現れた、もう一体の架純。

その架純は、キャスタの『片手銃』を持つ手を叩き、不意打の衝撃に、キャスタは思わず手を離してしまった。


振り向き様に肘を入れ、キャスタは囮を撃破。

次いで、床を這う己が才具を追う。


それを拾い、立ち上がった時。


「チェックメイトでありんす」


背中部分を守る防具越しに、冷たい何かの存在を感じとった。


「・・・三体が限界ではなかったのか」

「限界は常に超えるものでありんす」

「ふっ。戯れ言を」


壁際の架純が、内側のキャスタの背に『狙撃銃』を突きつけている構図。

いくら接近戦が苦手といっても、ゼロ距離となれば話は別である。まず外れることはないだろう。


「これで終わりだ」

「ああ。!」


尚も余裕の態度を崩さないキャスタ。

その声が合図であるように、四方の石壁が


して、架純の背後となる壁にはゲートが。

それは、キャスタの眼前のそれと繋がっていた。


「念のためセットしておいた出口が役に立つとは。まあ、そこにピンポイントでお前が来たのはただの偶然だがな」


ゲート越しに『片手銃』を架純の背に突きつけるキャスタ。

互いに背後をとるという、なんとも特異な光景がそこにはあった。


「どちらも次の一撃が致命傷で、互いに外しようのない状況。相撃ち必至というわけでありんすな」

「そうなるな。運も実力の内という。悪く思うなよ」


部屋に響く二発の銃声音。


壱ノ国 借倉架純。伍ノ国 キャスタ。

共に脱落。




「平吉さん!」

「「平吉!!」」


京夜とみちるの二匹の影犬の声が響く。


防具が破壊され、平吉の体が強制転送されようかという頃。

助けるには一歩遅いタイミングで、二人はその場に居合わせたのだった。


「すまんしくじったわ・・ええか、使・・・」


倒れる平吉が居た場所に、『片手銃』だけが虚しく残る。


「ジジイ。今のは危なかったんじゃねえか?」

「・・・阿呆抜かせ・・どうとでもなったわい」


平吉の毒による後遺症が残るバッカーサに、そんな口を利くのはシンであった。


キャスタと共に閉じ込められていたシンは、石壁が消えると同時に次の狙撃ポイントを探していた。

その途中で、平吉にやられそうなバッカーサを見つけたのだ。


平吉が才を発動したことで、シンの才『ターゲット』の対象に。

シンはその眼を以って、平吉にトドメとなる一撃を食らわしたのだった。


「それよりジジイ。タイマンで負けそうになるなんて、どうしちまったんだ?」

「ん?ああそれがの・・あれ、なんじゃったっけ?」


本気でボケた様子に、シンがらしくなくズッコケそうになる。


バッカーサはなんと、2倍にされた記憶をそっくりそのまま忘れてしまったのだ。

加齢によるモノ忘れが役に立った、なんとも稀有なケースであった。


「まさかお前に助けられる日が来るとはのう。時の流れは早いもんじゃ」

「なに普通のジジイみてえなこと言ってんだよ」

「これでタバコを吸うような非行に走らんかったら言う事ないんじゃがの・・」

「よし。それだけ喋れりゃもう大丈夫だな。じゃあ、俺はいくぞ」


『狙撃銃』を抱え、シンは別の場所に駆けていった。


その様子を眺めていた京夜が、一瞬の思考時間の後、口を開く。


「みちる。あいつを追ってくれ」

「京夜。ひとりで大丈夫え〜る?」

「ああ。問題ない」

「わかったあ〜る!」


力強く頷き、みちるはシンを追う。


「行かせて良いのか?二人掛かりでも構わんのじゃぞ」

「問題ない。老人の介護は一人で十分だ」

「・・小僧が。後悔しても知らんぞ」


バッカーサが『斧』を構え、京夜は『剣』を握る。


壱ノ国代表将、軒坂平吉脱落。

残り生存選手、両国共に三名。

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