第11話 VS GONOKUNI ROUND1


「『TEENAGE STRUGGLE』最終予選。壱ノ国 VS 伍ノ国!ここに開幕です!!」

「「「うおおおおお!!!」」」


この試合で決勝のカードが決まるとあり、観客のボルテージは既に最高潮だ。

今回の会場は、一つの「街」であるため、観客は別の場所に集められ、巨大モニターで観戦を行う手筈となっている。


「えー。今回は解説者が二人います」

「卓男でござる」

「オクターでごわす」


似たような声が、試合会場及び観戦会場に届く。


「え!?卓男くんがふたり!?」

「・・そうだ。あいつは人間を超越したんだ」


驚く真夏に、李空は思考を放棄したように答えた。


さて、壱ノ国代表の一行であるが、街の外れにある倉庫の中にいた。

ここまで案内してくれたコーヤ曰く、街の東と西にこのような倉庫が一つずつあり、相対する二つの国にそれぞれ振り分けられているらしい。


「それでは今回の試合形式『WAR』について、説明を行いたいと思います」


倉庫にはスピーカーが設置されており、そこから放送ブースの声が聞こえるのだった。


「現在、選手の皆さんに待機していただいている倉庫の中に『才具』と呼ばれる武器と防具一式を、人数分用意しております」


なるほど、倉庫の中央には、それらしいモノが載った机があった。

防具と思われるモノは、服の上から着込み、主に胴部を守ろうといった、皆同じ見た目をしているが、武器はそれぞれ違った形をしている。


「えー、『WAR』 の人数や武器のタイプは毎年様々ですが、今年の人数は7人。それに合わせて、今回は7種の武器が用意されています」


言われて、李空は天板の上を見張る。

そこにある武器は『斧』『狙撃銃』『片手銃』『鉄球』『槍』『弓』『剣』の7つであった。


「これらの『才具』には特殊な能力が付与されており、身に付けていただく防具は、それらの武器によるダメージしか受け付けません。武器によってダメージ量は様々ですが、防具が破壊された時点でその選手は脱落。全選手が脱落した時点で、その国の敗北となります」


つまり、武器によるダメージを与え、相手の防具を破壊すればいいわけだ。


「範囲は街全域。時間は無制限。どちらかの選手が全滅するまでのデスマッチとなります!」

「武器の心得は勿論のこと。連携や戦術も重要となる。国の結束力が試される闘いというわけでごわすな」

「そ、そうでござるな」


オクターが的確な解説を入れ、卓男が慌てて相槌を打つ。


「解説ありがとうございます。試合開始は30分後。その間に、各選手は防具の着用及び武器の選定をお願いします」


アナウンスが途切れ、剛堂が皆に目を配る。


「聞いた通りだ。まずは先日の修行から各々自分にあった武器を───」

「邪魔するでのう」


剛堂の言葉を遮るように発せられたその声は、倉庫の入り口付近から聞こえてきた。


一行の視線が、その一点に集中する。


「その声は・・」

「久しぶりじゃの。剛堂の小僧」


壱ノ国代表最年長の剛堂に向けてそう言うのは、伍ノ国代表将。バッカーサであった。


「まあそう構えるな。試合前に挨拶にきただけじゃ」


敵国の将が突然現れたとあって、臨戦態勢をとる壱ノ国代表の選手たちを見回し、バッカーサが手を振りながら言う。


「皆、落ち着け。この人は裏表のない人だ。挨拶にきただけというのは本当だろう」


剛堂の言葉を受け、張り詰めていた緊張が緩む。

その様子を眺め、バッカーサは笑った。


「ふむふむ。どうやら、ここまで残ったのはまぐれではないようじゃな。皆、いい目をしておる。剛堂。よく育て上げたの」

「俺は何もしてませんよ。こいつら一人一人の努力の成果です」

「ほう。あくまで選手のおかげと申すか。どうやら、選手としてだけでなく監督の才もあったようじゃな」


バッカーサは心底楽しそうな顔で、剛堂を見据えた。


「バッカーサ!はやりここだったか!」


そこに、女性の怒号が飛んだ。


「もう見つかってしもうたか」

「勝手な行動は慎むようにと言っているだろ!戻るぞ!」

「まあそう怒るでない。キャスタはおっかないのう」


バッカーサを追いかけてきたらしい金髪の女性が、バッカーサのたくましい腕を引く。


「壱ノ国の諸君。うちの将が失礼した」

「それじゃあの。よき戦にしようぞ」


倉庫から出るや否や、バッカーサは人間離れした跳躍でその場を離れた。

キャスタにしても、特殊なゲートのようなモノを開き、その中に消えた。


「・・・相変わらず、嵐みたいなジジイやな」


二人が消えた方に目を向け、平吉がポツリと漏らす。


「お前ら、あんなジジイに・・って、言うまでもないみたいやな」


バッカーサの挨拶という名の牽制に、皆の士気が下がることを危惧した平吉であったが、その心配は無用だったようだ。


「剛堂だけでうちの将に挨拶なしとは、いい度胸でありんす」

「軒坂さん!あんなやつヤっちゃいましょう!」

「年寄りに負けるわけにはいかないえ〜る!」

「ボコボコのギッタンギッタンあ〜る!」

「俺は俺の仕事を全うするまでだ」


架純、太一、みちる、滝壺が口々に頼もしいことを発する。


「京夜。俺たちもやるか」

「当たり前だ」


李空と京夜も闘う姿勢はばっちりのようだ。


決勝の舞台への出場権利をかけた大一番。


『TEENAGE STRUGGLE』最終予選。開幕である。




「それでは『TEENAGE STRUGGLE』最終予選。スタートです!!!」


実況者ミトの声に合わせ、試合会場となる街の中央で一際存在感を放つ時計台の鐘が鳴る。


「それにしても、零ノ国って本当にあったんすね」

「そうだな」


そんな会話を交わすのは、太一と滝壺である。


試合前の待機時間を利用して、壱ノ国代表の選手は4手に分かれた。

機動性や敵との遭遇率など、諸々を考慮した結果の判断である。


また、手にした武器の種類などから、滝壺と太一、平吉と李空、京夜とみちる、架純単独の組み合わせとなった。


「地下なのにやけに明るいし、こんな立派な街が試合会場とは。『TEENAGE STRUGGLE』とやらは、何もかも規格外だな」

「そっすね。街なのに人もいないし、どうなってるんすかね」


街と呼ぶには少し小さい気もするが、見た目は立派な建物ばかりである。

この全てが試合会場など、表のサイストラグルでは考えられないことであった。


「まあ、考えても仕方がない。国の代表を任された以上、勝利に貢献するだけだ」

「それもそうっすね」


思考を勝負に切り替え、敵を見つけるべく街中を進む。

しばらくすると小川に突き当たり、それと並行して真っ直ぐに伸びる直道に出た。


「・・太一。何か聞こえてこないか?」


滝壺が僅かに眉をひそめ、太一に問いかける。

言われて耳を澄ましてみると、たしかに音がした。


人間のそれとは明らかに違う、リズミカルな足音のようである。

さらに、その音はこちらに近づいているようであった。


「・・・滝壺さん。あれ」


そう呟く、太一の視線の先。

そこには、直動をこちらに向かって勢いよく駆ける、二つの大きな影。


「「ヒヒイイイイイイン!!」」


炎と氷の鎧をそれぞれ纏った、二頭の馬の姿があった。




その頃。

平吉と李空の2人は「来るなら来い」といった態度で、街中を堂々と歩いていた。


「この間はすまんかったな」

「何のことです?」

「妹さんのことや」


平吉が言っているのは、先日の参ノ国戦のことである。

限りなく勝率の高い闘いであったとはいえ、才を授かったばかりの女の子を巻き込んでしまったことを、平吉は少なからず気にかけていたのだった。


「いえ、最終的には七菜が自分で決めたことですし。それに・・」

「それに?」

「久しぶりに七菜の本音が聞けたので」

「・・・そうか」


そう語る李空は、どこか嬉しそうであった。


七菜は兄である李空のことを特別慕っているが、その大きすぎる尊敬の念からか、自分の素を語ることはあまり無い。

それに加え、李空が家を出た5年前から、兄妹は軽い疎遠状態になってしまっていた。


そんな中、七菜の『TEENAGE STRUGGLE』参戦は、結果として彼女の本心を引き出し、時間と心の溝を埋めてくれた。

初めは運命を呪ったが、今では感謝しているくらいであった。


「そういえば、今日も来とったな」

「はい。一度首を突っ込んだ以上、最後まで見届けたいらしいです。迷惑でしたか?」

「そんなことあらへんで。妹さんは、もう仲間の一人やからな」


爽やかな笑みを浮かべる平吉。

その言葉は、李空にとって非常に嬉しいものであった。


「兄としてカッコ悪いとこは見せられへんな」

「そうっすね」


倉庫で試合を観戦しているはずの七菜の顔を思い浮かべ、李空も優しい笑みを浮かべた。


さて、そんな平和な会話を交わす平吉と李空であったが、今は戦争中である。

二人の足が軽く開けた土地まできた時、二つの人影が迫った。


「李空!」

「はい!」


いち早く危機を察した平吉が、声を上げる。

それに李空も反応し、二人は右と左にそれぞれ跳んだ。


二人が元いた場所に石の壁がせり上がり、李空と平吉が二分される。


「軒坂平吉だな?」

「せや。そういうお前はキャスタやな?」

「いかにも」


左手。平吉と向き合うのは、伍ノ国の参謀。

金髪碧眼のキャスタであった。


一方、右手。


「お兄ちゃんがアーチヤのてき?」

「これは、やりづらいな・・・」


李空と向き合うのは、伍ノ国の癒し。

白髪幼女のアーチヤであった。




こちらは滝壺と太一。

二人の元には、ニ頭の馬が迫っていた。


「ファイアウォール!」


たまらず太一が才を発動。

滝壺と太一の前に、炎の壁が出現する。


しかし、


「「ヒヒイイイイイイン!!!」」


炎と氷を纏った二頭の馬は、その壁を無視して突っ込んできた。

炎馬の方は何事もなかったように、氷馬の方は抜けた穴が凍りついている。


「そんなのありかよ!」

「ここは分が悪い。移動するぞ」


滝壺が呼びかけ、二人は細い路地に入った。

図体のデカい馬たちでは追ってこれないだろうとの判断だったが、甘かった。


「滝壺さん!あいつら追って来てます!」

「くっ・・・」


二人は揃ってを見上げた。


二頭の馬は炎と氷の羽をそれぞれ生やし、空を駆けたのだ。


馬たちは細道の上空を飛び、やがて滝壺と太一を追い越した。

細道はさほど長くなかったようで、正方形の形をした広場へと、二人が躍り出る。


「闘うしかないみたいっすね」

「まあ、直道よりはマシだろう」


この地形であれば、馬の横から攻撃を仕掛けることもできる。

滝壺と太一。二人の才の能力を鑑みても、条件は悪くないといえるだろう。


優雅に着地して振り返り、こちらに目を向ける二頭の馬を見据え、滝壺と太一は臨戦姿勢をとる。


「チャッカッカ!弟よ。どうやら俺たちは貧乏くじを引いたようだな!」

「チンカッカ!そうみたいだな兄者。どちらも見たことない顔だ!」


馬に跨る二人の青年は、滝壺と太一を見下ろし、独特な声で笑う。


「ムム!なんと!二人とも我らと同じ武器ではないか!」

「これはこれは。実力の差が浮き彫りになってしまうな!」


滝壺と太一を格下と判断した二人の青年は、構える才具を見てまた笑う。


滝壺が7つの才具から選んだのは『鉄球』。太一が選んだのは『槍』であった。

して、炎馬に跨る青年も『鉄球』を。氷馬の方は『槍』をそれぞれ携えている。


偶然にも、同じ才具の組み合わせが揃ったのだった。


「なんだよ!ちょっと黙ってりゃ、好き勝手言いやがって!」

「炎と氷の馬。どうやら、能力まで似ているようだな」


太一が怒り、滝壺が冷静に分析する。


「チャッカッカ!白の国を駆ける異色の暴れ馬とは我らのことよ!」

「ライ・ラン兄弟の恐ろしさ!身をもって体感するといい!」


炎馬のライ。氷馬のラン。


屈強な肉体を持つ二人の青年を乗せた馬が、滝壺と太一めがけて突進。

ライは鉄球を、ランは槍を振り回しながら、それぞれ迫る。


「やるぞ。太一」

「おっす!」


それに、滝壺と太一も応戦する。


火水の乱。開戦である。




こちらは平吉と李空。


突如出現した石壁によって二分された二人。

左手の平吉と対峙するは、伍ノ国の参謀。金髪碧眼のキャスタである。


「開口一番ワイの名前を尋ねたいうことは、ワイを狙ってきたいうことやんな?」

「いかにも。頭から叩くのは戦の基本だ」

「さすがは参謀役といったところやな。そっちも頭いうわけや」

「頭脳という意味ではそうなるな」


キャスタはふっと笑った。


将という意味での頭はバッカーサであるわけだが、彼の頭は戦でいっぱいである。

伍ノ国の頭脳という意味での頭は、間違いなくキャスタであろう。


「ほな、無駄話もほどほどにといこうか」


そう言うと、平吉は腰に携えていた『片手銃』を引き抜いた。

平吉は7つの才具の内、この『片手銃』を選んだのだ。


「やはりそれか。考えることは同じのようだな」


同じくキャスタも才具を構える。

その手に握られていたのは、平吉と同じ『片手銃』であった。


同時に銃声が鳴り響く。


しかし、二人が装着する防具は、お互い無傷であった。


「才に頼らずにその身のこなし。流石だな」

「そっちこそ。ほんま器用やな」


平吉が無傷の理由は、単純明快。銃弾を躱したからだ。

銃口の向きからその方向を予測。発砲と共に、すばやく身を移した。


して、キャスタが無傷の理由だが。李空と京夜を二分したのと同じ、石の壁であった。


彼女が扱うこの石壁であるが、才の能力ではない。

いや、才といえば才なのだが、その正体は「サイアイテム」である。


キャスタは無数のサイアイテムを自由自在に扱い、闘うのだ。


サイアイテムは、付加された才の力の大きさによって、扱いやすさが変わってくる。


七菜が身につけるカチューシャ型の『サイノメ』などは、あくまでサポートがメインであるため慣れれば誰でも使えるが、戦闘に用いるようなモノとなるとそうはいかない。


キャスタは『永遠の18歳』と呼ばれる己の才によって、肉体は全盛期の状態を保ち、培った経験値を以って、無数のサイアイテムをまるで自分の才のように扱うのだ。


ちなみに、キャスタに年齢の話はNGである。


「サイアイテムのおかげで、中距離戦はそっちに分がある。詰めさせてもらうで」

「ふむ。実に懸命な判断だ」


冷静な状況判断により、平吉はキャスタの懐に飛び込んだ。




一方、こちらは火水の乱。


滝壺と太一の二人は、二頭の馬の猛攻に苦戦を強いられていた。


「チャッカッカ!どうした!こんなものか?」

「チンカッカ!張り合いがないな!」


吠える相手、ライとランの居場所は馬の背上である。

歩兵である滝壺と太一が、才具の『鉄球』や『槍』を当てるのは難しいものがあり、敵の攻撃を避けることで精一杯であった。


「太一。アレを頼む」

「俺も同じこと考えてました!いきます!」


太一は『槍』を一度手放すと、地面に両手をつけた。


「『ファイアラビリンス』発動!」との掛け声に合わせ、広場に炎の壁が無数に出現した。

その形はさながら迷路であり、二頭の馬はそこに閉じ込められる形となる。


「チャッカッカ!また炎壁か?」

「チンカッカ!何枚築こうが同じことよ!」


しかし、迷路のルールをまるで無視し、ライとランは炎の壁を突っ込んでくる。


一枚、二枚と破り、滝壺と太一がいたはずの場所までやってきたライ・ラン兄弟。

しかし、そこに滝壺と太一の姿はない。


「ええい!どこに隠れよった!」

「時間の無駄だ!さっさと出てこい!」


ライ・ラン兄弟が声を荒げる。


「まあ、そう慌てるな」


嘲りの混じった冷徹なその声は、ライ・ラン兄弟の横から聞こえてきた。


馬の真横に位置する炎壁の一枚がスライドし、滝壺と太一の姿が露わになる。


「ちょこざいな小細工などしよって!・・・なんだそれは?」


そのスライドした壁というのは、ライが乗る炎馬の方で。

ライは、滝壺と太一の中央にできたそれを目にして、疑問を口にした。


「これは、炎と水のエネルギーを融合したものだ」

「『ファイア』と『ウォーター』の球。その名も『ファイターボール』だ!」


なるほど、滝壺と太一の眼前には、以前李空と京夜の修行相手を務めた時に見せた、2色の大きな球体が出来上がっていた。


いや、その時よりも巨大であろうか。

バチバチと抑えきれないエネルギーが、表面で弾けている。


「「くらえ!!!!」」


滝壺と太一の元を離れた『ファイターボール』は、ライが乗る炎馬を襲った。


「ヒヒイイイイイン!!!」


ファイアウォールで制限された地形プラス至近距離からの巨大な攻撃により、『ファイターボール』は見事炎馬に命中。

が、致命傷とまではいかず、炎馬はなんとか立っている。


「兄者!大丈夫か!」

「問題ない!助太刀は無用だ、弟よ!」


背後から聞こえる弟の声に、ライは身を震わしながら答える。


「よくも愛馬を傷つけてくれたな!炎馬よ!その痛み、倍にして返すぞ!」

「ヒヒイイイイン!」


自らを奮い立たせるように鳴き、器用に向きを90度変え、再び迫る炎馬。


「来ますよ!滝壺さん!」

「ああ。わかってる」


しかし、ターゲットである滝壺らは動かない。


それどころか、滝壺は含みのある笑みを溢していた。

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