最終話 エピローグ

最終話 巡りゆく季節の中で、この恋はきっと~エピローグ~①

「ううー」


「そのパフェ、食べないなら私がもらうわよ」


「駄目―! あたしのスペシャルミックスボンバーパフェー!」


 六花が急いでパフェを食べ始める。


「ボンバーって何よ。そのネーミングだけ納得いかないわ」


「ん? んんーん! んーんん!」


「あー、はいはい。後でゆっくり聞いてあげるから、まずは食事に集中しなさい」


 四季祭が終わって少し経ち、六花と二人で遊びに来ていた。六花の恋は望む形には終わらなかったようだが、そこまで落ち込んでいるようには見えない。


「ううー」


 いや、かなり落ち込んでいる。


「そんなに唸ってたら誰も寄って来なくなるわよ。……これからどうするの?」


「……略奪」


 思わぬ解答に飲んでいたジュースを吹き出しそうになる。


「笑わないでよー。だってそれしかないもんー。諦められないもんー」


「その口調は何よ。キャラがぶれてるわよ」


「だってこれからどんな風にすればいいか分かんないんだもん。今までのあたしは誠に振り向いてもらえなかった」


「本当にそうかしらね。冬風も最後まで悩んでたと思うわよ。じゃないといくら義理でも四季祭を一人一人と回ったりしないわ」


「うー」


 六花はまたテーブルに突っ伏す。


「ちゃんと失恋したのね」


「うん、しっかり失恋した。……このまま誠のことを好きでいていいのかな。誠も奏ちゃんもあたしみたいなのがいると邪魔だよね」


「何言ってるのよ。約束したんでしょ。どんな結末に終わっても、そこで諦める必要なんてないって。誰も邪魔だなんて思うわけないじゃない。六花が一番分かってるでしょ」


「……うん」


「なら元気を出しなさい。そんな顔は六花には似合わないわよ。あんたは崖に向かって笑顔で突っ込むのが似合ってるの」


「それは褒めてないー!」


 拗ねる六花のご機嫌を食べていたケーキで取る。



「あ、ごめん」


 パフェの写真を撮ったままテーブルに置かれていた六花のスマホにメッセージが来たのか、通知音が鳴って、待ち受けが目に入った。


「あら、その写真は何? 見ていい?」


「うん」


 六花からスマホを渡され、写真を見る。写真には冬風、奏ちゃん、霜雪さん、六花の四人が写っていた。


「女子三人は良い笑顔なのに、冬風のこの顔は何? かなり面白い顔してるわよ」


「その写真はね、四季祭の花火の後に撮ったんだ。だから誠と奏ちゃんは付き合ってすぐ、私と真実ちゃんは誠に振られてすぐだから、誠が複雑そうな顔をしてるの」


「なかなか事件が生まれそうな状況での写真ってわけね。……けどいい写真だわ」


「うん、私の宝物。私の青春がこの一枚に詰まってる。ちなみに蘭との写真はホーム画面の壁紙にしてるよ! 蘭との青春も私にとっては宝物だから」


 六花が写真と同じような笑顔を私に向けてくる。相変わらずこの子は真っ直ぐで可愛い。


「……そう」


「なんでそんなに反応が薄いのー。蘭の待ち受けはどんな写真?」


 六花が興味津々に私のスマホを見てくるが、そのまま鞄に収める。


「けちー、私は見せたのにー」


「はいはい。けちでごめんね。今日はこれからどうする?」


「……服を色々見たい。とびきり可愛いの」


 さすがに気分は落ち込み気味でも、略奪する気満々じゃない。まあ、それくらいの猪突猛進さがあれば、いつか冬風に手が届くかもね。


「今日は六花の気が済むまで付き合ってあげるわ」


「やったー!」


 店を出て、めぼしい店を調べるためにスマホを開く。


 私の壁紙はあんたとの写真に決まってるじゃない。そんなあんたがいつまでも恋に走り続けるなら、私はそれを応援するだけ。


「蘭! 今日はいっぱい遊ぼうね!」


 冬風、油断したら駄目よ。この子は止まらない。こんな純情乙女に恋させた責任はちゃんと取りなさい。


 冬風に心の中でそう勝手に忠告して、六花と一緒に歩き始めた。




「え⁉」


「美玖さん? どうかした?」


「髪、切っちゃったんですか?」


 四季祭が終わって少し経って、美玖は四季高校の推薦入試を受けることにしたので、真実さんに相談し、一度面接の練習をしてみようとのことなので、真実さんの家に呼ばれた。そして、真実さんが最寄り駅に迎えに来てくれたのだが、真実さんはこれまでロングの黒髪をポニーテールにしていたのに、今日はミディアムくらいの長さで、髪は下ろしていた。


「ええ、失恋したら髪を切るって聞いたから」


「強制なんかじゃないことは分かってます?」


「さあ、どうかしら?」


 真実さんが無邪気に笑う。出会った時よりも真実さんはよく笑うようになったし、何よりも楽しいという感情を表に出すようになった。


 真実さんの家に向かって歩き出す。


「推薦入試、美玖さんの中学の成績なら十分だし、面接も美玖さんは得意だと思うわ。いざとなったら冬風君の名前を出せば何とかなるだろうし」


「まこ兄って、高校の先生からどんな風に見られてたんですか?」


「生徒会に入ってからはどの先生からも好印象を持たれているはずよ。何か困ったことがあったら、生徒会は冬風君をいつも送り出していたから。学校中に大量に貸しを作っているはず」


「うわー、目安箱委員長って、もしかしてただの便利屋だったんですか?」


「ただの便利屋ってわけではなかったけれど、便利屋ではあったわね。まあ、秋城君が面白半分で仕事を振り分けていたっていうのが真実だけど」


「まこ兄を好き勝手にできるなんて秋城さんはさすがですねー」


「そうね、楽しかったわ」


 真実さんがまた何かを思い出したかのように笑う。


「……その、真実さんはこれからどうするんですか?」


 また余計なことを聞いてしまったかもしれない。けどこのまま美玖が真実さんと一緒にいられるかどうかにも関わってくる。


 必死に頭の中で言い訳を考えていると、真実さんにいつの日かと同じように抱きしめられた。


「どうしようかしらね。恋をしたのは初めてだったし、失恋も初めて。けど前にも言ったように、決して冬風君からは離れたりはしない。もちろん夏野さんと冬風君が付き合ってるのだから、それなりに気は遣うかもしれないけど、私たちは誰も我慢なんてしないって約束もしたの。……そうなると私がやることは一つだけね。冬風君に振り向いてもらえるように頑張る。だからまずは妹である美玖さんから……」


 真実さんが思わず女子でもドキっとしてしまうような顔をしたので、ついびっくりして離れてしまった。


 真実さんがまた笑って歩き出す。


「ていうのは冗談。けど変わるものもあれば変わらないものもある。変わらないものの一つは私たちの友情。だから美玖さんは何も心配しなくてもいいわ」


 どうして真実さんはこんなに強いのだろう。


「どうして私は強いのだろうって思った?」


「え⁉ あ、はい。真実さんは美玖のこと、何でもお見通しですね」


「私は強くなんてないわ。四季祭が終わった日の夜、家でずっと泣いたし、今でも心が不安定になる。けど目の前の真実からは目を逸らさない。私は振られた。冬風君と夏野さんが付き合ってる。これが真実。これに真正面から向き合えば、自分がやるべきことは分かるし、迷わない。……まあ、これが強さだと言われればどうしようもないけど、元々は冬風君の口癖。目の前の真実に向き合って、自分は自分にできることをする。私も冬風君もそれだけよ」


 やっぱり真実さんは強くて、綺麗な人だ。


「真実さん、美玖、四季高校に入学できたら生徒会に入ろうと思います。お母さんもまこ兄も生徒会でかけがえのない仲間に出会って、青春を楽しんだ。美玖も二人の背中を、そして真実さんたちの背中を追いかけたいんです!」


「……そう。美玖さんならきっと素敵な青春が送れるわ。私たちのように……」


 真実さんが遠くを眺めながら呟く。


 その日、真実さんに特別だという写真を見せてもらった。写真には笑顔の真実さん、奏さん、六花さん、そして、なんだか複雑そうな顔をしているまこ兄が写っていた。真実さん曰く、この写真は四季祭三日目の夜に撮ったものらしい。真実さんにとってはいい思い出に思えなかったが、真実さんはそれを否定した。この一枚こそが私たちの青春なのだと。  


 その言葉の意味は美玖にはよく分からなかったし、真実さんも全てを説明してはくれなかった。

 

 けど、その写真のことを話す真実さんは、その日一番楽しそうに笑い、輝いていた。

 



 四季祭が終わって少し経ち、今日は夏野と一緒に出かける約束をしている。

 

 電車に乗って、待ち合わせの場所に向かうと夏野は既に到着していた。


「すまん、早めに着いたつもりだったけど待たせたか?」


「いや、そんなことないよー。というよりあたしは一本早い電車に乗っちゃってただけ。それより、あたしの服装どう?」


「似合ってる」


「まこちゃんはそれしか言わないねー。もっと可愛いとか、綺麗だよとか言ってくれてもいいのにー」


「じゃあ言うぞ。夏に出かけた時に選んだ服を着てくれて嬉しいし、可愛い。そうやって拗ねる所とか、本当は一本どころか何本も早い電車に乗ってきた所もな」


「な⁉」


「真実は全て伝えると、こんな風にパニックを起こす奴がいる。だから伝える言葉はちゃんと自分では選んでいるつもりだ。まあ、夏野が常にこんな風にして欲しいなら期待には沿うぞ。そこらへんの考えは両者の歩み寄りが必要だからな。さあ、どうする? 俺的には照れて赤くなった顔も可愛いからどっちでもいいぞ」


「まこちゃんの馬鹿! 気持ち悪い! 変態!」


「ほら、そんな反応するだろ。これに懲りたら俺にはそういうそつなさを求めないことだな」


「うー」


 拗ねた夏野と一緒に歩き出す。


「さっきはやり過ぎたが、思っていることは本心だ」


「……あたしのは嘘。本当は嬉しかった」


「先が思いやられるな。出会った瞬間にすれ違いが発生だ。何が嘘で何が真実か分からない」


「どっちが嘘つきで、どっちが正直者なのか。何が嘘で、何が真実か分からないからこそあたしたちの毎日は輝いていくんだよ」


「さっきまで拗ねてた奴とは思えないポジティブシンキングだな」


「えへー。ちなみにあたしはまこちゃんのことが大好きだよ。これは嘘か誠か、どっちでしょうか?」


「俺も夏野のことが好きだ。嘘か誠かどっちだと思う?」


 夏野と目が合って、笑い合う。


「これが真実じゃなかったら、あたしたちもう破局だよ」


「だな、次はもっと違うことで勝負しよう」


 何でもないようなことで時間が過ぎていく。まあいいか。これからずっと一緒なんだ。時間なんてそれこそ永遠にある。


 いつの間にか、俺と夏野の指が絡まっていた。少し力を入れて握ると向こうから、さらに強い力で握り返される。これをずっと続けるといつか、夏野が「痛い! こっちのことを考えてよ!」とか言って怒り出すんだろうな。そんな姿を見てみたい気もしたが、良心の方が勝利した。


「ん? まこちゃん、どうしたの?」


「いや、何でもはあるが、何でもない」


「何それ? 変なのー」


 夏野が隣で笑う。この笑顔を今は独り占めできる。そう思っていると、俺は気付かないうちに握る手の力を少しだけ強めていた。





 数か月後。


「どうぞー」


 ドレスの準備が終わって少しするとドアがノックされたので返事をする。


「失礼しまーす。わー! 綺麗ー!」


 入ってきたのは夏野さん、霜雪さん、星宮さん、戦国さん、春雨さんだった。


「みんな、今日は来てくれてありがとう。楽しんでねって言うのは変な感じがするけど、まあ暇だったら輝彦の緊張顔を見てると退屈はしないと思うわ」


「小夜先生のウェディングドレス姿を見れただけでもうお土産まで貰った気分です! あれ? 小夜先生? 朝市先生?」


「どちらでも呼びやすい方でいいわ。学校では面倒くさいから小夜のままで呼んでもらうつもりだし」


「分かりました!」


 夏野さんが元気よく答える。


「春雨さん以外はもう卒業してしまったけれど、またすぐに会えて嬉しいわ。いつでも学校に顔を出してね。私も輝彦も待ってるわ」


「ありがとうございます。みんな四季大学に進学したから、行事の時は集まりますよ。大地や咲良ちゃんの生徒会姿も見届けないといけないので」


 星宮さんがそう笑い、春雨さんが少し恥ずかしそうにする。


「そうね。ねえ、女子だけで写真を撮りましょうよ。今頃、輝彦はむさっくるしく部屋の中をうろうろしてると思うから、違いを見せつけてやりましょう」


 スタッフさんに声を掛けて、スマホを渡す。教師っていい職業ね。こんなにいい子たちに人生で一番幸せな日を祝福してもらえるなんて。




「はくしょん!」


 控室の朝市先生がくしゃみをする。


「これはこれは。誰かが朝市先生の噂でもしてるんですかね」


「どうせ涼香が俺の悪口を言ってるんだよ」


 今日は朝市先生と小夜先生の結婚式だ。俺と秋城と月見は会場に着いてからほどなくして、朝市先生に呼び出され、式までの暇つぶしの相手になっている。


「ほら、やっぱりそうだ。女子会でどんなことを言われてるんだか、想像もしたくないな」


 朝市先生が見せてきたスマホにはウェディングドレス姿の小夜先生と生徒会女子組プラス戦国が笑顔で写っていた。戦国は学級委員だったので今年度のクラスの代表として今日は会場に来ている。まあ、小夜先生と朝市先生の悪ノリが半分混ざっている可能性もあるが。


「先生のドレス姿、もう見てしまって良かったんですか?」


「ああ、ドレスは一緒に選んだからな。まあちゃんと髪をセットしてのドレス姿は初めて見たが」


「感想は?」


「……可愛かった」


「もう少し大きな声で言ってくださいよ」


「可愛かった! これで満足か⁉」


「ええ、小夜先生に送っておきますね」


 秋城がスマホの画面を見せる。どうやら今のを録音していたらしい。相変わらずこいつは性格が悪い。


「おい! 待て!」


「じゃあ式、楽しみにしてますねー!」


 笑いながら控室を出ていった秋城を朝市先生は睨みながら、諦めたように椅子に座った。


「秋城の奴、卒業したからって好き放題しやがって」


「まあ、あいつはあいつですよ。どんな時でも」


「じゃあ、俺たちも行きましょうか」


 月見に言われて時計を見るとそろそろいい時間だった。


「そうだな。朝市先生、また後で来ます」


「ああ、暇つぶしに付き合ってくれてありがとな。一人だとどうにも緊張して耐えられなかったんだ」


「朝市先生でも緊張することなんてあるんですね」


「当たり前だ。俺が今まで生きてきた中で一番大切な日だぞ。いつかお前たちにも今の俺の緊張が分かる時が来るさ」


「じゃあまずは先生として手本を見せてください」


「ああ、任せとけ」


 そう言って俺と月見も控室を出たが、最後の最後まで朝市先生の声は震えていて、その緊張が嫌でも俺たちに伝わってきた。




 式には午刻先生や紅葉さん、朝市先生たちの代の生徒会の人も来ていた。会場の穏やかの雰囲気のままに式は進み、そこにはただただ幸せに包まれた時間だけが流れていった。




「僕たちはいつにしようかな」


「え⁉」


「だってもう親公認だよ。早ければ早い方がいいんじゃない?」


 途中、隣に座っていた秋城と春雨からそんな会話が聞こえてきたような気がしたが、深く聞くと怖いので、聞こえないふりをしておいた。




「あ、次はブーケトスだ! 奏ちゃん、真実ちゃん、行こう!」


「うん!」


 戦国たちがスタッフの人に指定された場所に移動する。


「あたしたちも行きましょうか」


「あ、はい」


 星宮と春雨も席を立ち、近くには俺と秋城と月見だけになる。


「なあ、隣でイチャコリャするのは止めてくれよ」


「誠ほどではないよ。しかもそっちは三人だ」


「そうですよ。俺たちの三倍です」


「意味が分からないな」


 こうやって生徒会が揃うのも、卒業式以来だ。色々あったあの式がもう遠い昔のように感じるのは、もう高校に行くことがないからだろうか。


「けど、やっぱりお前たちといるのはいいな」


「そうだね。ついでだから、僕と誠も永遠の愛を誓っておくかい?」


「お断りだ。春雨か月見とにしてくれ」


「ぶっ! 俺を巻き込まないでくださいよー。せっかく巻き込まれないように無視してたのに」


「先輩を無視するとはいい度胸だな」


「あ! 誠先輩、パワハラです! 卒業したからといっても、断固として拒否します!」


「その正義感があるなら秋城のモラハラから俺を守ってくれよ」


「それは別問題です」


「誠、諦めなよ」


「お前は後輩に諦められてるんだよ」


 そうこう言っているうちにブーケトスの準備ができたらしく、カウントダウンの後に、後ろを向いた小夜先生がブーケを背中越しに投げる。


 宙を舞ったブーケが手を伸ばす集団の中に消える。




「あ、一番危険な所に投げちゃったかも」


「あーあ。修羅場が生まれたら涼香のせいだぞ」


「まあ、その時は冬風君に依頼しましょう。目安箱委員長として」


「都合のいい時だけ卒業生を利用しやがって」


「てへっ!」


「可愛くないぞ」


「あら、あの写真は可愛いって言ってくれたのに?」


「秋城⁉ あいつ、本当に録音を送りやがったのか……」




「取れませんでしたー」


「咲良、お帰り。まあブーケがなくても僕たちは大丈夫さ。すぐにドレスを着させてあげる」


「もう! 気が早いことを言ってからかわないでください!」


「はは、僕はいつだって本気さ」




「さすがに無理だったわ」


「まあしょうがない。後でジュース奢るよ」


「それで乙女の機嫌が取れるとでも?」


「取れるのは分かってるよ。幼馴染だぞ」


「まあ、取られてあげるっていうのが正解。あ、自販機じゃなくて、ちゃんとした店のジュースね」


「はいはい。家に帰る前に寄ろう」




「真実ちゃん、六花ちゃん、離してー!」


「絶対嫌だー! 私が一番背が高いんだから物理的に私が一番だもん!」


「私は戦国さんの前にいたわ。だから私が一番最初にブーケを触った」


「取ったのはあたしだもん!」


「私!」


「私よ」




「あいつら、一体何をそんなに争ってるんだ」


 ブーケを取ったのは夏野、戦国、霜雪の三人だった。


「誠、絶対に譲れないものがこの世界にはあるんだよ。彼女たちは今、それを手にしてる。だから諦められないのさ」




「二人とも、あたしは絶対に譲らない!」


「私だって! だって私が一番好きだもん!」


「それは聞き捨てならないわ。私の気持ちは誰にも負けていないし、譲る気はない」




 夏野も戦国も霜雪も、ブーケを掴んだまま離さない。その様子を見ていたら、急に三人に睨まれた。


「まこちゃん!」


「誠!」


「冬風君!」




「おいおい、ここで俺が巻き込まれるのか」


「まあ、誠のせいだし」


 秋城と一緒に星宮と月見、春雨にも笑われ、小夜先生と朝市先生が前の方で爆笑しているのも見える。



 俺の青春はいつからこうなったのだろうか。まるでコメディだ。それまで何もなかったはずなのに、全てがそう運命づけられたように絡まり始め、ほどけていく。じゃあ、このラブコメは噓か誠か真実か。



 この難しすぎる青春の問題。俺の答えは…………嘘だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る