第38話 このラブコメは嘘か誠か真実か~最後の四季祭~④

「冬風!」


 昼ご飯を食べた後、霜雪と一緒に一年生と二年生のクラスを回っていると後ろから声を掛けられた。


「八王子、それに九姫、来てたのか」


「ああ、去年の四季祭が好評だったって聞いたんでな。一か月後にはうちも文化祭だし、去年と今年の生徒会は全員来てる」


「霜雪さん、こんにちは」


「九姫さん、こんにちは」


 俺は八王子と、霜雪は九姫とそれぞれ話し始める。


「おい、状況を説明しろ。霜雪さんに決めたのか」


「そういうことじゃない。一日ずつ一人一人と四季祭を回ってるんだ」


「うわー、はたから見たらとんだたらし野郎だな」


「はたからの評価なんて知るか」


「まあな」




「四季祭、大人気だね。何かおすすめのものはある?」


「私たちのクラスはお好み焼きとチュロスの模擬店をしてるの。どちらも贔屓なしでお勧めできる出来だから、気が向いたら行ってみて」


「なるほど。後で行ってみる。みんなにもお勧めしとく!」


「ありがとう、九姫さん」




 それぞれの会話が落ち着く。


「まあ、時間があったら俺たちの文化祭にも来てくれよな。模擬店も出すからサービスするよ」


「ああ、秋城たちを誘ってみるよ」


「冬風、霜雪さん、また前の生徒会同士で会えたらいいね」


「そうね。楽しみにしてる」


 八王子と九姫が模擬店の方に歩いていき、また俺と霜雪の二人きりになる。


「対抗戦も随分前のことにように思えるな」


「楽しかったわね。朝市先生と小夜先生が、午刻先生の前になると生徒側に戻るのも面白かったわ」


「確かに。あの二人、俺たちの前では頼りになる姿しか見せないからな」


「そうね。私たちは本当に人に恵まれた。導いてくれる人たちがいたからこそ、どんな困難も乗り越えることができた」


「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」


「ああ、もっと褒めてくれよ」


 後ろから聞こえてきた声に振り返ると、そこには小夜先生と朝市先生がニヤニヤしながら立っていた。


「……いつからそこにいたんですか?」


「うーん、冬風君が対抗戦の思い出に浸り始めた頃からかな」


「最初からじゃないですか」


「だって、声を掛けるタイミングが分からなかったのよ」


 小夜先生がいたずらっぽく笑う。


「というわけでだ。お前らの尊敬する俺たちが今から屋外ステージでバンドをするから観に来てくれるよな?」


「どういうわけですか。まあ、観に行きますけど」


「じゃあ、よろしくー!」


 そう言って小夜先生と朝市先生が小走りで去っていった。


「時間ギリギリならわざわざ声を掛けてくれなくても良かったのに」


「屋外ステージの予定表に書いてなかったから、おそらくゲリラライブで、私たちが良い場所で観れるように教えてくれたのよ。他の生徒が気付く前に最前列を取りに行きましょうか。昨日の盛り上がりを考えるとライブが始まってからだったら手遅れになるわ」


「そうだな。行くか」


 そうして俺と霜雪は屋外ステージの最前列を確保して、昨日の演出で改めて伝説になった小夜先生たちのバンドを楽しんだ。




「そろそろ片付けの時間ね」


「ああ、俺は調理室の片付けに行くから、演出の前に合流しよう。俺が模擬店の方に迎えに行くよ」


「分かったわ。……待ってる」


 霜雪と一度別れて、それぞれの片付けに向かった。




 調理室の片付けが終わり、続々と校舎の外に生徒が出てくる中で、霜雪を迎えに模擬店に向かったが、霜雪の姿は見当たらなかった。


「大和、霜雪がどこに行ったか知らないか?」


「霜雪さんならさっきまでそこに……。あれ? いないわね。ごみ捨てに行ってくれたのかしら」


「……そうか」


 


 どのクラスも片付けが終わり、校舎から生徒が演出を見るために外に出てくるが、私はその流れに逆らって、とある教室に向かう。どのクラスも催し物の影響でドアを外しているので鍵はかけられていない。


 去年は理由も分からずに同じようなことをしたが、今年はそうじゃない。胸に抱える気持ちははっきりしている。


 あと五分もすれば演出が始まるだろう。あなたと一緒にこの時間を過ごせて良かった。


「冬風君……」


 教室の扉が開いた音がして振り返ると、そこには私が一番好きな人が立っていた。




 霜雪を見つけたので教室の中に入る。


「俺は四季祭において人探しの才能があるらしい。誰でも見つけられる気がするよ」 


「頼もしいわね。人探し委員長に任命してあげる」


「任期はあと一日だけだけどな」


 霜雪が椅子に座ったので俺も隣に座る。


「まさか一年の教室にいるとはな。バレたら怒られるぞ」


「バレないわ。みんな外にいるもの」


「まあな。……俺を試したのか?」


「いいえ、私はそんな立場じゃないわ。それに、そうだとしても意味がない」


「どういうことだ?」


「あなたは必ず私を見つけるもの」


 霜雪がこちらを見て少し笑って、すぐに窓の方へ顔を向ける。


「冬風君は私がどこにいても手を伸ばしてくれた。どの行事も隣にはあなたがいた。暗い白黒の世界に引きこもっていた私に光り輝く色鮮やかな世界を見せてくれたのはあなたよ。ありがとう」


「こちらこそだよ。本当に俺たちは似た者同士で常に同じ世界を見てきた。二年前、この場所でもな」


「あら、気付いてたの? ここが私たちが一年生の時の教室だってことに」


「当たり前だろ。何も関係ない場所に霜雪が行くわけないからな」


「それもそうね」


「……二年前も俺たちはここで二人きりだった」


「二人きりという状況は同じでも、抱く感情がここまで違うなんてね」


 外では去年と同じように雪が降り始める。


「生徒会やクラスのみんなと一緒に過ごす時間もそうだけど、やっぱり冬風君と過ごす時間が一番愛おしい。誰かのことをこんなに好きになることができるなんて思ってなかった。笑ったり、泣いたりしながら青春送ったり、恋をするなんて思ってなかった」


 霜雪が俺の方を見つめてくる。


「冬風君、あなたのことが好きよ。あなたの口が悪いところ、負けず嫌いなところ、そして誰よりも優しいところ。あなたの全部が好き。だからこれからもずっと私の隣にいて欲しい。あなたとずっと同じ時を共有したい。この想いはもう止められないの。これが私の真実の恋」


 霜雪がその優しい手で俺の顔をなぞって立ち上がり、窓際で俺に振り返る。


「……もう一つ、冬風君に言っておかなきゃいけないことがあるわ」


「……なんだ?」


「あなたと過ごす四季祭、とても楽しいわ! ありがとう、冬風君!」


 霜雪が笑った瞬間に外の雪は桜に変わった。


 どれだけ深く積もった雪もいずれ解けるし、冬の厳しい風は春にはそよ風になる。


 俺と霜雪の心も長く関わっているうちに解け合い、その優しさを感じ合った。


 二人きりで過ごすこの時間は、他の誰と過ごす時間よりも穏やかで、お互いの熱を、気持ちを確かめ合う時間だった。

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