第38話 このラブコメは嘘か誠か真実か~最後の四季祭~③
四季祭二日目、今日も俺は朝から模擬店のシフトに入ってお好み焼きを焼いていた。シフトは三日間ほとんど固定で、霜雪と夏野は同じ時間のチュロス側のシフトに入っている。
「今日は土曜だからな。昨日も祝日だったとはいえ、今日は昨日以上に人が来るだろうなー」
三上と一緒に調理室グループが作ってくれたタネをひたすら焼いていく。
「そうだな。ただシフトはそれなりに機能してたから大丈夫だろ。調理室の人手を増やして正解だった」
「だな! 早めに対応できて良かった」
シフトは終わり、着替えを済ませて霜雪に声を掛ける。
「霜雪、もう大丈夫か?」
「ええ、行きましょうか」
エプロンを脱いで、霜雪と一緒に学校を回り始める。
「昨日の先生たちのバンドのこと知ってたか?」
「いいえ、びっくりしたわ。秋城君も私たちにくらい教えてくれればいいのに」
「まあ、あいつは陰でこそこそ笑ってたんだろう。それよりも春雨も大胆なことしたな。まさか先生や紅葉さんを利用するとは」
「やることが秋城君に似てきたわね。頼もしいわ」
「そうだな」
適当に校内を回っていると、去年、霜雪たちのクラスがやっていたコスプレカフェなるものがあったので入ってみる。
教室には去年と同じく、男子のマッチョメイドと普通の女子のメイドがいて、なかなかのカオスな状態だったが、俺と霜雪が座った席の担当は運よく、双田夢の担当だった。
「冬風さん、霜雪さん、こんにちは」
「双田さん、こんにちは。文化委員長、大変だと思うけどどんな感じかしら?」
「そうですね。大変って言ったら大変ですが、霜雪さんたちが去年の進行表などを詳しく残しておいてくださったおかげで、かなりスムーズに準備できました。それに生徒会の仕事も手伝ってくださって本当にありがとうございました」
「少しでも役に立てて良かったわ。最後まで頑張ってね」
「はい! ありがとうございます!」
そのまま夢に注文を伝えて、紅茶が運ばれてくるのを待つ。
「去年、霜雪もメイドのコスプレしてたな」
「お望みならいつでもしてあげるわよ。お金は取るけど」
「有料なのか」
夢が紅茶を出してくれたので、霜雪と飲んで落ち着く。
「冬風君もメイド服を着てみたら? 似合うと思うわ」
「どんな趣味してるんだよ。あれだけ筋肉があったら面白い部類に入るが、俺ぐらいの体格だとただただ気持ち悪いだけだ。だが有料なら考えなくもないな」
霜雪が真剣に悩むような表情をする。
「おい、冗談だ。いくら積まれても絶対に着ないぞ」
「あら、私も冗談よ? 半分わね」
「どう半分なのか言わないでくれよ」
霜雪が静かに笑って一息つく。
「ここを出たら、ご飯を食べに行きましょうか。他に行きたいところはある?」
「いや、特にはないな。霜雪が行きたいところが俺の行きたいところだ」
「私は冬風君と一緒ならどこでも行きたいわ」
「お互い相性が悪いのか良いのか分からないな」
「そうね、自分を相手にしているようで、不思議な気持ちだわ」
これからの予定は取り敢えず保留にして、紅茶を飲み終わった後、俺と霜雪は模擬店に向かった。
冬風君と手分けをして昼ご飯を買ってくることになったので、一人で目当ての模擬店に向かっていると、美玖さんに出会った。
「真実さん! こんにちは!」
美玖さんが走って抱きついてくる。本当に冬風君の妹とは考えられないくらい人懐っこくて可愛らしい。まあ、冬風君が可愛らしくないとは言わないけど。
「美玖さん、こんにちは。楽しんでもらえてる?」
「はい! 明日も友達と来ます!」
美玖さんの頭を撫でていると、後ろから沙織さんが追いついてきた。
「真実さん、こんにちは。四季祭、久しぶりに来たけど凄い人ね」
「去年の四季祭が評判だったみたいで、今年は例年以上の来場者らしいです。ゆっくりはできないかもしれませんが、楽しんでいってください」
「ありがとう。後で美波も来るらしいから、しっかり楽しませてもらうわね」
「そうなんですね。今日の朝、母の機嫌がやけに良かった理由が分かりました」
沙織さんが真っ直ぐ綺麗な瞳で私を見つめてくる。
「真実さん、綺麗になったわね」
沙織さんが私の容姿を言っているわけではないことは分かるが、具体的に何のことかまでは分からない。
「本当にそうなら、私の周りにいてくれた人たちのおかげです。……沙織さん、私はもう自分の気持ちに嘘はつきません。その答えが明日分かります」
「……そう。その答えの先にもまだまだあなたたちの青春は終わらないけど、これまでの青春は、恋はどうだった?」
「楽しかったです。どんな答えが出たとしても、それは揺るがない。これまでも、これからも私たちはお互いを傷付けながら前に進んでいきます」
「それが聞けて良かった。いつでもうちに遊びに来て。美玖も私も待っているわ」
「はい!」
沙織さんが嬉しそうに笑う。
「その笑顔、美波にそっくり……。純粋で、何一つ嘘偽りがない笑顔。本当に素敵よ」
「真実さん! またね!」
沙織さんと美玖さんが校舎の中に入っていき、私も買い出しを済ませて、冬風君と合流した。
「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
「嬉しいことを言ってもらえたの。笑顔が素敵だって」
「そうか。霜雪の笑顔は貴重だから、その分輝いて見えるのかもな」
「そんな私の笑顔を一番見ているであろう冬風君はどう思うの?」
「誰よりもそう思ってるに決まってるだろ。どれだけ俺がお前の罵倒と軽蔑を受けながら、その笑顔のギャップを感じてきたと思ってるんだ」
「そんなに冷たく当たったかしら? けど世の中には同族嫌悪って言葉と好き避けって言葉があるのよ」
「便利な言葉だな。矛盾ばっかりじゃないか」
「恋なんてそんなものよ。お互いに嘘はつかないと誓って生きてきたのに、この恋は凄く複雑だった」
「まあな」
お互いに目を合わせて笑う。
「本当に霜雪は……」
「本当に冬風君は……」
「正直なのに素直じゃない」
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