第38話 このラブコメは嘘か誠か真実か~最後の四季祭~②
昼ご飯を食べた後は体育館のチアリーディング部の発表や、屋外ステージでの軽音部の演奏を楽しんだ。
「いやー、凄かったね。ねえ、何かデザート食べに行かない?」
「賛成だ」
戦国と模擬店が並ぶ場所まで戻ると、急に戦国が何かから隠れるように俺の陰に入った。
「どうした?」
「ごめん、中学でバレー部だった子がいて」
そういうことか。四季高校には戦国と同じ中学の奴はいないが、四季祭は規模的にも県内では有名な方だ。友達と遊びに来る場所の候補に入ることは十分に考えられる。
「謝ることじゃない。そいつらが戦国にしたことを考えれば当然の反応だ」
「でももう何年も経ってるのに……」
「時間なんて関係ないし、別に乗り越えるべきことでもない。陸上部の時は大和に向き合うために過去を見る必要があったが、今はそうじゃない」
戦国の頭を撫でる。
「大切なのは今とこれからだ。だから今は他のことなんて忘れて俺を見ててくれるか? 大切な四季祭なんだ。誰にも邪魔されたくない」
「……誠のそういう所、本当にずるい。お化け屋敷では私の隣でプルプル震えてたのに、今は凄くかっこいい」
「別にプルプルはしてなかっただろ」
戦国が隠れるのを止めて、模擬店の方へ歩き出す。
「もういいのか?」
「だってあの子たちは私のことなんて考えてないのに、私が一人で怖がってるなんて馬鹿馬鹿しくなっちゃった。何かあっても隣に王子様がいるしね」
「そんなキャラじゃない」
「じゃあお姫様とどっちがいい?」
「王子様で」
戦国が満足そうに笑う。こんな中身のない会話、戦国としかできないな。
「アイスでも食べよっか」
「そうだな」
その後も戦国と一緒にかけがえのない時間を過ごした。
「誠は今日のメイン演出どんなのか知ってる?」
「いや詳しくは知らない。けど去年と同じようにスモークを作る機械が搬入されていたな。去年と似た感じじゃないのか?」
ただ春雨と月見が俺たちの真似だけをするとは考えられない。何かアレンジがあるはずだ。
模擬店の片付けが終わり、生徒が校舎の外に出てくる。今日はもうメイン演出があって終わりだ。生徒が校舎の中から出てきて、一般客も去年の評判を聞いてか、多くこの時間まで残っている。
「凄い人だね。きゃっ!」
少し戦国から目を話していると、人波に揉まれて戦国が屋外ステージの方へ流されていった。
そしてステージの方ではバンドの演奏が始まり、生徒からは黄色い歓声があがる。
誰が演奏してるんだ? 目を凝らしてステージを見ると、朝市先生、小夜先生、紅葉さんがそれぞれギターやベースを演奏していた。このメンバーということはドラムは秋城だな。まさかのサプライズだ。
「いやー、懐かしいな。朝市君と小夜君、そして秋城君たちのバンドをもう一度見ることができるとは」
「そうですね。彼らが学生の時に四季祭で結成したバンドはもはや伝説と言っていいですからね。軽音部には秋城紅葉さんが作詞作曲した曲が何個も語り継がれていますよ。去年、春雨さんもその中から何曲か歌ってましたね」
隣にいた年配の教師同士の会話が聞こえる。まさか朝市先生たちが当時も四季高校にいたであろう教師に語り継がれるほどの伝説を遺しているとは。面白そうな話だな。今度本人たちに聞いてみよう。
「みんな、盛り上がってるー⁉」
小夜先生の声が響き、生徒が歓声を上げる。
先生たちの演奏もじっくり聞きたいが、戦国と合流しなければ。何とか端の方を移動して前に向かおうとしていると、何人かの生徒が陰で何かしているのに気付いた。なるほどな。演奏に注目を集めている間に、演出の準備を始めていたのか。
辺りに徐々にスモークが立ち込めてくる。時間はそんなに残っていないな。戦国、必ず迎えに行くよ。
どうして一番大切な時に誠とはぐれちゃうの。去年もそうだったけど、簡単には上手くいかないな。けど諦めない。端を歩いてさっきいた方へ戻れば誠と合流できるはずだ。誠、必ず最後まで一緒に過ごそうね。
前にいた生徒の横を抜けた瞬間、対面から戦国が来て、お互いに抱き合う形になる。
「誠……。会えて良かった……」
「そうだな。もう少しで演出が始まる」
「違う……。私と出会ってくれてありがとう。誠に会えて良かった。誠に恋して良かった。奏ちゃんや真実ちゃんよりは一緒に過ごせた時間は短かったけど、本当に楽しかったよ」
戦国が少しだけ離れて、上目遣いで笑う。
「誠の答えは最終日だけど私は今言うね。私は誠のことが好きです。これからもずっと隣にいて欲しいし、おっちょこちょいな私を守って欲しい。こんなフィクションみたいな台詞を言う時が来るなんて思ってなかったけど、私の運命の人は誠なの。だから付き合ってください……。ずっと私と一緒にいてください」
戦国がそう言った瞬間に校舎の電気が消えて、暗闇とスモークの中にオレンジ色に光るランタンが浮かぶ。さすがに火と使うと危ないので電球によるものだが、その光は暖かい。地上からだけではなく、屋上からも黒い風船によってランタンが浮かび、幻想的な空間が生まれる。
自分と戦国の存在しか感じない。言葉もなくこの空間を楽しみ、喜び、感動しながら、一緒に鼓動を刻む俺と戦国の関係は、まさに運命と呼べるものだった。
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