第37話 問題と終わりと覚悟~最後の四季祭準備~⑤
四季祭の準備は学校全体としても、クラスとしても問題なく進み、いよいよ本番前日になった。今日は丸一日、準備に充てられている。
「じゃあ、テントの設営や機材を運ぶグループは俺と一緒に外へ、ポスターとかを貼って回るグループは夏野について行ってくれ。それ以外のグループは学校全体の飾りつけがあるから、一度体育館に集合だ。それからは小夜先生からの指示に従ってくれ」
「おう!」
クラスに文化委員としての指示を出したところで、それぞれ持ち場に向かい、早速準備に取り掛かった。
「誰かテントを備品倉庫から取ってきてくれるか? 二張り必要だから六人ぐらいで頼む。生徒会が受付してるから、クラスを教えれば渡してくれるはずだ」
「了解! じゃあ男連中で行くか!」
三上が男子を連れて倉庫に向かった。
「冬風君、私たちは何したらいい?」
「俺たちのクラスの区画に目印をつけるのと、簡単に砂とか落ち葉とかを掃除しておこう。調理用の機材はテントを立てた後に取りに行くから、まだ大丈夫。じゃあ俺が区画に目印のテープを貼るから一人、手伝ってくれ。他の奴らは掃除を頼む。道具はすぐそこで貸し出してるはずだ」
「了解!」
クラスの女子が掃除道具を取りに行き、残った下野と一緒にテントを置く位置などを考えながら、テープを貼っていく。
「クラスの女子の間で、冬風は頼りになるって評判よ」
「文化委員が四季祭で頼りにならなかったら困るだろ」
「もっと素直な言い方をすればモテるのに。いつまで経っても冬風は冬風ね」
「残念か?」
「別に。そんな冬風を好きになった人もいるし、あんたがそこら辺にいるような奴だったら、こんな風にうちらが話す仲になることはなかったわ」
「そうだな。もし下野とこんな仲にならなかったとしたら、俺は文化委員にもなってないし、クラスメイトの話題に上がることもなかった。俺が生徒会に入ったこと、下野や三上たちと関わったこと、そして今俺がこうしていること。全て必然なのかもな」
「まあ、うちらは目の前の事実を真実として向き合うしかないのよ。よし! こんなものかしらね」
「ああ、そろそろ女子も男子も戻ってくるはずだ」
その後もトラブルなく準備は終わり、帰りのショートホームルームの時間になった。
「じゃあ明日はエプロンを持ってくるのを忘れるなよ。それに鉄板に関わる奴は軍手をテントの中に置いておくから積極的に使うように。多少蒸れるかもしれないが、長時間鉄板で作業してると腫れるからな。……あとは、全力で楽しめ! 泣いても笑っても明日が最後の四季祭だ!」
朝市先生の話が終わり、下校になった。
「なんか体育祭以来だね。こんな感じ」
俺は教室を出る前に戦国に呼び出され、戦国、夏野、霜雪の三人と共に自販機のベンチにいた。
「冬風君、明日からの……」
「分かってる。俺から言わせてくれ。明日から四季祭は三日間ある。夏野、戦国、霜雪、去年と同じように俺と一日ずつ一緒に回ってくれるか? 俺はまだ明確な答えを自分に出せていない。ただ必ずこの三日で全てに決着をつける。いつまでも優柔不断で煮え切らないくて申し訳ないが、最後の最後まで悩んで、迷って、苦しみたいんだ。それが俺にできること、しなきゃならないことだと思う。だから……」
「まこちゃん、ありがとう。まこちゃんが最後まで向き合ってくれて嬉しいよ。じゃあ誰が何日目にまこちゃんと回るかを決めよっか」
夏野たちがじゃんけんをして順番を決める。
「明日は私! 誠、よろしくね」
「二日目は私ね。よろしく」
「最終日があたし。……これで本当に最後だね」
「……そうね。正直怖いわ」
「けど私たちも覚悟を決めないといけない」
三人がお互いを抱き寄せる。
「真実ちゃん、六花ちゃん……大好き」
「私もよ。それは四季祭が終わっても変わらない」
「ずっと、ずっと一緒だよ。この恋がどんな結末に終わっても……」
同じ気持ちを共有した者同士のかけがえのない時間がそこに流れる。
答えを出すのがこんなに辛く、難しいとは思わなかった。真実に生きるのは楽な道だと思っていた。俺はこの中の二人を傷付けなきゃならない。俺にはたった一つの答えしか出すことができない。ただそれがこの恋の運命だ。
「あたしは負けないよ」
「私こそ」
「私だって!」
三人がそっと離れて笑い合う。
「全員での写真、今のうちに撮っておくか?」
「ううん、いらない」
「そうね。全てが終わった後に撮りましょう」
「だってそっちの方がみんな笑顔だもん! 今よりももっとお互いを想えるようになってるはず!」
「……そうか。じゃあそろそろ帰るか。明日からはしゃげるように今日はしっかり寝ないとな」
「そうだね!」
夏野たちと一緒に学校を出る。
明日からは遂に最後の四季祭。この甘く、切なく、儚い青春恋愛に答えを出す時が来た。
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