第37話 問題と終わりと覚悟~最後の四季祭準備~③

 四季祭の内容が決まった週の休日、俺の家で試作品を作ってみることになり、戦国、夏野、霜雪の三人が家に来ていた。


「手伝ってくれるって名目で来たのに、あいつらときたら……」


「まあ、四人全員がキッチンにいてもどうしようもないし、美玖さんに勉強を教えてって頼まれたら断れないわよ」


 夏野と戦国は楽しそうにリビングで美玖と一緒に勉強しており、キッチンは俺と霜雪の二人だけだ。


「美玖さん、受験勉強はどんな感じなの? 四季高校を受けるのでしょう?」


「余裕だよ。今すぐ入試を受けても多分受かるぞ。美玖は元々俺より頭が良いし、お前たちがよく勉強を教えに来てくれたおかげで、さらに成績が良くなった。ありがとな」


「そう言ってももらえて嬉しいわ。けど美玖さんが入学しても、私たちは卒業してるのが残念だわ。美玖さんの制服姿を見てみたかった」


「まあ、同じ学校に通うことはできないが、制服姿はいつでも見れるはずだ。これからも霜雪が美玖に会おうとしてくれるならな」


「そうね。楽しみにしてる」


 霜雪と一緒に食材を切ったりして、お好み焼きのタネを作る。


「この作業は調理室でやらないといけないわね」


「だな。模擬店のテントの中では焼く作業だけに絞らないと、スペースが足りないし、てんやわんやになる」


「トッピングや味は来週クラスのみんなと一緒に作る時に意見がでると思うから、取り敢えずシンプルに焼いてみましょうか」


「そうしよう」


 霜雪と協力してお好み焼きを焼いていく。さすがに広島風は模擬店でするには時間がかかり過ぎるし難しいので、関西風のお好み焼きだ。


「……四季祭。去年も特別なものだったけど、今年もそうなる……」


 霜雪がお好み焼きが焼ける音に紛れて呟く。


「……そうだな。体育祭と四季祭、どちらも大きな行事なだけあって、それぞれの想いが複雑に重なる」


「望む結果はあるけれど、冬風君がどんな答えを出したとしても私は受け入れる。だからあなたは安心して答えを出して」


「……ありがとう。必ず決着はつけるよ」


「……こちらこそありがとう」


 霜雪と目を合わせることなく会話は続いていく。霜雪の気持ちを一番分かっているのは俺、俺の気持ちを一番分かっているのは霜雪。いつだってお互いの心に触れ合っていた俺たちは、いつの間にかそう感じ合うようになっていた。




「いただきまーす!」


 さっき焼いたお好み焼きを昼ご飯として食べる。


「凄く美味しい! こんなお好み焼き、模擬店で作れるの? 結構材料多くなかった?」


 夏野が満面の笑みで箸を進める。


「材料が多いと確かに少し時間はかかるが、複雑な工程はないから許容範囲内だ。それに普通の店とは違って、原価はあまり考えなくていい。どうせ儲かっても俺たちの懐に入るわけじゃないからな」


「確かに」


「あとはトッピングをどうするかだな。まあ、それもタネに混ぜるだけか、上にのせるだけだから手間はかからない。来週はクラスの暇な奴らを呼んで、調理室で試作品を作る。その時に色々試してみよう」


「了解!」


 食事が終わり、リビングでのくつろぎタイムになった。


「ねえ、模擬店の準備ってどんなことがあるの?」


 戦国がババ抜きをしている最中に聞いてくる。戦国たちが俺の家に来た時は取り敢えずトランプをするのが恒例になっていた。


「メニュー表とか宣伝用の看板、ポスターの作成かなー。材料の発注とかは生徒会を通してあたしたちがやっておくから、クラスのみんなはそんな感じ!」


「なるほどー。やった! あがり!」


 美玖と夏野もあがって、俺がババを含めた二枚、霜雪があと一枚の一騎打ちになる。


「どうした? 早く取れよ?」


「冬風君、私の目を見て? ババはどっち?」


「そんなの教えるわけないだろ。ほら、早くしろよ」


「こっちがババなら私から目を逸らして? あ、逸らしたわね」


 霜雪が俺から一枚抜き取る。俺の手に残った一枚はババだ。


「私の勝ち。ちょろいわね」


 他の三人が爆笑するなか、霜雪も勝ち誇ったように微笑む。


「どんな時も正直なところ、出会った時から変わってないわね」


「勝手にそう思ってろ。トランプでくらい、もう普通に嘘をつける」


 最下位の罰として、次の試合のためにトランプを配るという役目があるので、俺がまとめたトランプをシャッフルしてると、隣の霜雪が急に俺の耳元で他の奴らに聞こえないように小さく囁いた。


「そういうところ、可愛くて好きよ」


「試合外での揺さぶりは反則だろ」


「揺さぶりじゃないわ。真実だもの」


 尚更たちが悪い。そう口に出すと次の矢が飛んできそうだったので、俺は横で笑う霜雪無視してトランプを配った。




 俺の家で霜雪たちとお好み焼きの試作品を作った次の週の平日、今度は学校の調理室で試作品を作ることになり、放課後に手伝ってくれる人を募って、教室に残ってもらった。


「新婚さんの料理教室じゃないことは分かってるよな?」


 教室に残ってくれたのは、三上、下野、末吉、松本、尾道、大和に、この前俺の家に来た三人だった。


「冬風―、こいつらはそうかもしんないけど俺は独り身だぞ。煽り行為は何人にも許されない」


「そうよ。誰しもがみんなみたいにイチャコリャしてるわけじゃないのよ」


 尾道と大和がそう言うが、こいつらはこいつらで、最近やけに一緒に話している。


「まあ、いいか。じゃあ、材料を買ってくるから三人ぐらい一緒に来てくれるか? 試作品のための費用はもう生徒会から貰ってある」


「なら男子組で行こうぜ!」


 三上の提案に反対する奴はいなかった。


「じゃあ俺たちで行ってくる。どれだけ遅くても三十分以内には戻ってこれるはずだ」


「了解! じゃああたしたちは調理室に先に行って準備しとくね!」


 全員一緒に教室を出て、男子はスーパーに、女子は調理室へと向かった。




「結構俺たちは一緒にいるけど、この四人だけってのは修学旅行以来なかなかなかったよな」


 三上が楽しそうに話し始める。


「確かにそうだな! というか将太朗! 最近大和とどうなんだよ?」


「どうもこうも何もない。鉄平と一二三がそれぞれ彼女と話してるから自然と大和と話す機会が増えただけだ。夏野、霜雪、戦国の三人は冬風しか眼中にないからな」


「確かになー。誠も俺と曜子の件を解決してくれた時は、恋愛なんて興味ないって感じだったのに、まさか三人もたらしこむとは」


「別にたらしこんだわけじゃない」


「まあ、冬風は良い奴だしな」


「ああ。誠が生徒会に入ってくれて本当に良かった。誠のおかげで俺は今も曜子と一緒にいられてるからな」


「俺も! 冬風が修学旅行前に松本の相談に乗ってなかったら、俺たちはどうなってたか分からない」


「やっぱりお前は恋のキューピッドだな」


「尾道はもう俺もどうにかしてくれって言わないのか?」


「ああ、もう目安箱委員長は引退したんだろ。俺は自分の力で大和に向き合ってみるよ」


「あ! 大和のことを好きって認めたな!」


「なら最初からそう言っとけよー! なんでさっきはごまかしたんだー!」


 騒ぎながらスーパーへ歩き続ける。


 三上、末吉、尾道。お前たちとこれからも一緒にいられたら退屈なんてしないんだろうな。


「誠? 何に笑ってるんだ?」


「相変わらず馬鹿だなって思っただけだよ」


「相変わらずって何だよ⁉」


「鉄平、お前のことだ。良かったな」


「えー⁉ 全然良くないだろ!」


 そう言いながら笑う三人のその明るい顔はいつまでも変わることがなさそうだなと感じた。

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