第35話 春秋重ねし恋の結末、月を抱く星空は明けて~生徒会長選挙~③

 休日が明け、今週はまるまる選挙運動期間で、生徒会は俺と夏野と霜雪だけで回していくことになる。


「選挙運動っていっても、月見と春雨は全生徒に知られているから、何しようがほぼ無関係だろうな。公約もそんなに差はでないだろうから、勝負は立候補者演説。推薦員としては秋城の方が票を集めやすいと思うが、秋城だけで勝負が決まるほど星宮は甘くない。結局はどっちが勝つかは今の段階では分からないってことだ」


 俺は今日の分の仕事を終えて、ダラダラと生徒会室で過ごしている夏野に話す。


「夏野、だから唸るなよ。そんなに気になるならあいつらを見に行ってこい。どっちのペアもこの階の空き教室を使ってるだろ」


「ううー、行ってきていい?」


「ああ、もう今日の分の仕事は終わったしな」


「じゃあ、行ってきますー」


 夏野が生徒会室を出ていった。


「……余程気になるのね」


「まあ、来週の月曜日に演説と投開票があって、来週いっぱいでこの生徒会は解散だ。居ても立っても居られない気持ちは分からなくもない」


「なら冬風君は行かなくてもいいの?」


「夏野が行ったんだったら後でどんなだったか教えてくれるだろ。いい報告は聞けないと思うが……」


 俺の言葉に霜雪は少し寂しそうに「そうね」と答えた。



 生徒会室を出てまずはすぐ隣の教室に入った。ここでは政宗君と大ちゃんが今後の方針について話し合っているはずだ。


「奏、どうかしたのかい?」


「ううん! もう今日のお仕事は終わったらちょっと見に来ただけ!」


「そうか。じゃあ大地、さっきの続きだが、ポスターなどは別に作らなくていい。投開票まで時間が短いのに加えて、大地が立候補していることはほとんどの生徒が知っている。テンプレ的な選挙活動に囚われてはいけない」


「分かりました」


「ただ明日の朝からは校門で宣伝をしよう。無駄のように思うかもしれないが、相手が咲良なら有効な手段だ。大地は咲良より人前で話すことが得意だからね」


「はい」


「それで、立候補者演説の原稿と公約は僕が考えてくるよ。大地の意見があれば聞くがどうだい?」


「いえ、俺からは特に……。負担をかけて申し訳ないです」


「僕が推薦したんだから当然だ。全て僕に任せてくれ」


「ねえ、本当に大ちゃんは政宗君に全部任せるの?」


「俺にできることはもちろんしますよ。けど政宗先輩の言うことを聞いておいた方が自分で決めるよりずっといいです」


「……そっか。じゃああたしはもう行くね! 頑張って!」




 今度は空ちゃんと咲良ちゃんがいるはずの隣に教室に向かう。


「あら奏ちゃん、どうしたの?」


「何してるかなーって見に来ただけ! あたしを気にしないで続けて!」


「そう。咲良ちゃん、続けて?」


「あ、はい。ポスターは作らなくていいと思います。選挙運動期間は短いので、効果がそこまで望めないです。ただ登校時の挨拶はやるだけ得だと……」


「本当にそう? 咲良ちゃんはあまり人前に出るのが得意じゃないわよね。その点で大地と並んで挨拶は不利だわ。もちろん生徒に意欲を見せることは大事だけど、それならポスターを作るのも一つの手だわ。多分、向こうはポスターを作ってこないから。朝の宣伝は場所を気をつけないとね。少なくとも政宗と大地の隣に立ってはいけないわ」


「……そうですね。ポスターは家で作ってきます。朝の宣伝は大地君たちより少し遅れて始めます。同時に同じ場所で始めたり、早めに始めてしまうと被せられて、確かに私と大地君では印象に差が生まれてしまう」


「咲良ちゃん、本当にそれでいいの? 自信を持って、大地君と並んで自分を宣伝できるならポスターなんかも作らなくていいんじゃない? 政宗君たちがポスターを作らないのも意味がないと思ってるからだろうし」


「……いえ、私にはとても……。私の意見なんかより空さんの意見の方が正しいです……」


「……そっか。余計な口出ししてごめんね。じゃあ頑張って!」


 悶々とした気持ちを抱えながら教室を出てあたしは生徒会室に戻った。




「うー、駄目だー! 二人とも政宗君と空ちゃんに頼りっきりで自分の意見を通さないよー」


 夏野がしょんぼりとした様子で生徒会室に帰ってきて、椅子に座りうなだれた。


「まあ、そうだろうな。秋城も星宮もわざと助言を超える範囲で月見と春雨に指示を出したり、反論したりしているはずだ。月見と春雨自身がそれに抗わなければ何も成長しない。素直に二人の問題点を指摘してやればすむ問題かもしれないが、秋城と星宮はそうすることを望まなかった。月見と春雨が自分で気付けないと意味ないからな」


「もう見てられないー」


「今のままだと難しいかもな。ただあいつらなら最後には乗り越えてくれるはずだ。俺たちはあいつらを信じよう」


 そうは言うものの、俺自身も不安ではある。


「ううー。……まこちゃん、何見てるの?」


 俺はさっきまで霜雪と一緒に見ていた、来週の演説の体育館の配置図を夏野に見せる。


「俺たちは司会をすることになる。放送部と協力してマイクの準備とかもしないとな。明日、俺が放送部に行って相談してくるよ」


「まこちゃん、放送部の人と関わりあったっけ? あたしが行ってもいいよ?」


「いや、ちょっと確認しておきたいことがあるんだ。俺が行く」


「そっか、分かった!」


 生徒会室はまた沈黙に包まれる。いつもの半分以下しか人がいないと、ただでさえ広いこの部屋がさらにだだっ広く感じる。


「……夏野、霜雪。最後に俺に、目安箱委員長に仕事をくれないか? 秋城と星宮は俺たちは今回の件について何もしなくていいと言った。その代わりに生徒会としての仕事を頼むと。あいつらの頼みは聞いてやりたい。ただやっぱりこのまま黙って見てはいられない。秋城も星宮ももう引けない所まで来ている。それがどういう結果をもたらすか分からないままな。何もせずに最悪な結果に終わって生徒会が解散してしまったら、俺は後悔してもしきれない。俺の背中を押してくれ。行動するのが正しいのかどうか分からずに決心できないんだ」


 霜雪と夏野が微笑みながら頷く。


「冬風君、正しいのかどうかなんて誰にも分からない。いつだってあなたは自分がやるべきだと思うことをやるだけよ。そしてそれに後押しが必要なら私たちは協力するに決まってるじゃない」


「うん、まこちゃん。あたしと真実ちゃんからのお願い。大ちゃんと咲良ちゃんを、ううん、政宗君も空ちゃんも全員助けてあげて。みんな笑顔でこの生徒会の解散を迎えられるように!」


 これで決心が固まった。秋城、星宮、すまないな。俺は俺で動かせてもらうぞ。


「夏野、霜雪、ありがとう。目安箱院長として最後の仕事だ」

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