第34話 奏でる想いはずっと一緒に~みんなで過ごす時間~④

 朝起きて、朝食を作ったはいいものの、夏野たちが全く起きてこない。昨日は騒いだといっても昼寝もしたのだからそんなに爆睡することはないだろう。


 美玖の部屋まで行って、ドア越しに声を掛けるが反応はない。一言、声を掛けて部屋に入ると、四人とも仲良く爆睡していた。


 それにしてもこいつら密着して寝すぎだろ。夏野、霜雪、戦国は二つの布団を三人で使って寝ているはずが、お互いに抱き合う形で寝ていて、ほぼ一つの布団に収まっている。


「おい、起きろ。今日は遊びに行くんだろ」


「ん……。お母さん、もうちょっと……」


 夏野がこれまでと同じように寝ぼけて答える。


「誰がお母さんだ」


「えへー、まこちゃんでしたか……。きゃっ!」


「……ん、誠? きゃっ!」


 戦国と夏野が飛び跳ねてお互いに掛布団を奪い合う。


「お前らのみっともない姿はもう見飽きてるんだ。今更隠しても無駄だ」


「女の子が寝てる部屋に勝手に入るなんてまこちゃん、デリカシーがない!」


「そうだそうだ!」


「一応、声は掛けたし、起きてこないお前たちが悪い」


争いの真ん中で霜雪が目を擦りながらゆっくりと起き上がった。


「……冬風君、おはよう」


「ああ、おはよう。タオルは洗面所に置いてあるから自由に使っていいぞ。朝ご飯も準備してあるから順番に準備を済ませてこい」


「……はい。いつもありがとうございます」


 美玖の部屋を出て、俺も自分の準備を始めた。




 朝食やもろもろの準備を済ませて、玄関に行く。


「美玖ちゃん、本当に一緒に来なくていいの?」


「うん! 美玖は昨日たくさん遊んでもらったから、今日はまこ兄とたくさん遊んであげて! それにこれからも変わらずに仲良くしてくれるんだよね?」


「うん! また絶対に遊ぼうね! じゃあ、行ってきます!」


 夏野たちが先に家を出る。


「夕飯には帰ってくると思うけど、ちょっと遅くなるかもしれない」


「美玖が夕飯作っておくから大丈夫だよ。その代わり今日は奏さんたちとしっかり楽しんできてね」


「ああ、ありがとな」


 美玖の見送りで俺も家を出る。雨はまだ降っているが、昨日よりはかなり弱い。天気予報では夕方には晴れるとあったし、どうせいつものショッピングセンターを連れ回されるだけなので、天気の心配はないだろう。


 電車に乗って、数駅先を目指す。


「向こうに着いたら何する?」


「取り敢えず映画でいいんじゃないか? それから昼ご飯を食べたら、後はゆっくりと店を回れるだろ」


「賛成! 誰か観たい映画ある?」


「私は何でもいいわ。夏野さんと戦国さんの観たいもので」


「俺に選ぶ権利はなしか」


 霜雪はこちらににっこりと微笑んでそれ以上は何も言わなかった。


 結局、恋愛物の洋画を観ることに決まり、前評判はあまり聞いたことがなかったが、かなり個人的には楽しめた。


 シアターから出てきたところで戦国と夏野が目を抑えながらトイレに向かった。


「あいつら、あの映画であれほど泣けるって凄いな。確かに感動はしたが、涙が出る感じの感動じゃなかっただろ」


「そう? 私も結構泣きそうだったわよ?」


「その顔で言われてもそうは思わないな」


 霜雪がグッズ売り場の方に歩いていったで、俺も付いて行く。


「色んな物が売ってあるのね。今まで観たい映画があった時は、一人で観に来て、すぐに帰っていたから知らなかったわ」


「俺も基本的にはそうだな。美玖はこういうのも好きだから色々と買ってきてるが」


「冬風君と美玖さんって兄妹なのにあまり似ていないわね。優しいところとか、根本的にな部分は同じかもしれないけど」


「秋城もそうだろ? 紅葉さんと秋城は根本的には同じかもしれないが、普段の行動や態度は全然違う。兄弟なんてそんなもんだ」


「面白いわね」


 霜雪としばらく話していると夏野と戦国が戻ってきた。今日は朝から軽めの化粧をしていたみたいなので、それを直すのに時間がかかったのだろう。


「ごめん! お待たせしました!」


「いいえ、大丈夫。じゃあお昼を食べに行きましょう」


 昼は適当なレストランに入って、思い思いの料理を食べて、ショッピングの時間になった。


 女性陣が当たり前だが躊躇いなくお洒落な服屋に入っていったので、俺も覚悟を決めて店内に入る。


「誠があの時にこのスカートを似合ってるって言ってくれなかったら、こんなに楽しく女子同士で服を見て回るなんてできなかったかも。私はいつも似たような服しか買ってなかったから」


 戦国が去年の秋に買ったスカートをひらひらさせる。


「そんなことはないと思うぞ。大和も戦国にスカートを履かせたがっていたみたいだしな」


「え⁉ そうなの⁉ というかいつそんなことを蘭と話したの?」


「海に行った時だ。戦国本人のことも色々聞いたな。戦国の……」


「いやー! 駄目、怖くて聞けない! ほら、奏ちゃんが服を迷ってるみたいだから助っ人に行こう!」


 そう顔を赤くした戦国に手を引っ張られて、夏野と霜雪の方へ向かった。


「ねえ、まこちゃん。どっちが似合うと思う?」


「……こっちだな」


「可愛い系かー。まこちゃんの好みって意外と分かりやすいよね。今、真実ちゃんが来てるワンピースも六花ちゃんのスカートもまこちゃんが選んだ可愛い系の服だし」


「自分的には好みでは考えてないつもりだったが、そう言われたら同じ感じだな」


「じゃあ、あたしもまこちゃんが選んでくれたのにする! あたしだけまこちゃんとデートする時の勝負服がないって嫌だし」


「色々と言いたいことはあるが、まあいい。夏野が納得いくのをが一番だろ」


 夏野は元気よく返事したが、それからは悩むことなくレジに直行していった。

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