第34話 奏でる想いはずっと一緒に~みんなで過ごす時間~③
やっと風呂から出てきた四人と夕食を食べて、またゲーム大会が始まった。
外はまだ大雨で、時折大きな雷の音も鳴っている。
「じゃあ、美玖たちはもうお部屋に行くね」
「ああ、おやすみ」
盛り上がりもほどほどに落ち着いた頃にはもう普段はベッドに入っている時間だった。俺もそろそろ眠たくなってきたが、去年の夏祭りの後のように、隣の部屋に夏野たちがいると思うとなかなか寝付けないので、しばらくはリビングでくつろぐことにする。
うう、やっぱり自分のベッドじゃないとすぐには寝付けないな。目を開けて起き上がると隣では真実ちゃんが静かに寝息を立てていた。
お手洗いを貸してもらおう。暗い部屋から音を立てないように出て階段を降りると、リビングには電気が点いていた。誰かいるのかなと思って覗いてみると、リビングのテーブルに突っ伏してまこちゃんが寝ていた。
去年も同じような状況だったな。今年も同じようにソファに置いてあった毛布をかけてその場から立ち去ろうとしたが、止めた。
「まこちゃん、このままじゃ風邪引いちゃうし、首痛くなっちゃうよ。起きて」
「ん……」
肩を叩いて声を掛けるとまこちゃんは目を擦りながら起きた。
「夏野か……。ありがとう」
「うん!」
まこちゃんがすぐに立ち上がらなかったので、隣に座る。
「今年は起こしてくれたんだな」
「どうしようか迷ったんだけどねー。そのお礼にあたしが眠たくなるまで付き合ってよ!」
「ああ」
まこちゃんがカーテンを開けて天気を確認してから、あたしの隣に戻ってくる。
「明日までに弱くなってるといいな」
寝る前に、明日こそ遊びに行こうという話をしたところだ。
「うん、みんなでお願いしたらきっと晴れてくれるよ。きゃっ!」
外が一気に明るくなって雷の大きな音が響いた。その弾みで隣のまこちゃんに飛びついてしまった。
「……ごめん」
「いいさ。気にするな」
横に倒れかかったまこちゃんが起き上がるが、縮まった距離はそのままだった。肩と肩が触れ合う距離で、まこちゃんが呼吸するたびにその振動を感じる。私の呼吸もまこちゃんは感じてるのかな?
「去年、ここでまこちゃんの寝言を聞いたんだ」
「夏野のことを言ってたんだったけな」
「そうだよ。それに好きだって言ってた」
「何をだ?」
「あたしのこと……」
まこちゃんが何も言わずに黙る。
「なーんて! 好きって言ってたのは昔のあたしのことだけどね! びっくりしたんだよ? まこちゃんが寝言を言ったと思ったらいきなり好きだって言われて」
「悪かったな。まさかそんなことを言ってたとは」
「本当にそう。それを聞いて色々悩んで拗らせちゃった。昔も今もあたしはまこちゃんのこと好きだよって言えば良かっただけだったのに」
まこちゃんが少し困ったような顔をする。
「ごめん、そんなつもりで言ったんじゃなかった。前にも言ったかもしれないけど、まこちゃんとはこんな風に関われて良かった。後悔もあるし、辛いこともあったけど、だからこそ自分の気持ちに気付けたの」
「……俺もだ。自分の気持ちはまだはっきりとは分からないし、本当に最後に答えを出せるかどうかも分からないが」
「大丈夫だよ。あたしたちは待ってる」
雨の音があたしたちの沈黙を和らげる。
「ねえ、明日は何したい?」
「夏野たちが行きたい所に行けばいい。どこへでも付いて行く」
「もー、主体性のない男子は駄目だよー。ちゃんとまこちゃんもわがまま言わなきゃ」
「お前らと一緒にいることが俺のわがままだ。今はそれ以上に望むことがない」
「そっか」
まこちゃんの肩に頭を乗せて、体を預ける。
「おい、寝るなら布団で寝ろよ」
「もうちょっとしたらちゃんとお部屋に戻る。だから少しだけ……」
どんな布団よりも暖かく、どんな枕よりも頭をうずめていたい。このまま目を閉じたらきっとこれ以上にないほどの素敵な夢を見て、もう目覚めることはできないだろう。
「うん! 充電完了! 夏野奏、今なら何でもできます!」
「今することは寝ることだ。そろそろ行くぞ」
「はーい。付き合わせちゃってごめんね」
「いや、起こしてくれて助かった。そういえば何で夏野は下に降りてきたんだ」
「あ! お手洗いを借りに来てたの!」
「そうか。じゃあ、俺は部屋に戻るよ。おやすみ」
「うん! おやすみなさい!」
まこちゃんが階段を上がっていく。どうしよう、ずっと胸のドキドキが収まらないよ。ちゃんと今日は眠れるかな?
ふと目を覚まして体を起こすと、隣で寝ていたはずの夏野さんがいないことに気付いた。お手洗いにでも行ってるのだろう。気にせずにもう一度、布団に潜って目を閉じる。
その瞬間、扉が開いた音がして、隣に夏野さんが戻ってきた。丁度夏野さんの方に背中を向けているので、布が擦れる音だけが聞こえる。
夏野さん、おやすみなさい。心の中でそう言った瞬間に夏野さんが後ろから抱きついてきた。声には出してないはずだが、あまりのタイミングに鼓動が早くなる。
「……真実ちゃん……」
夏野さん、あなたは本当に可愛いわね。なら私は……。
真実ちゃんが起き上がった気配で少しだけ目が覚めた。そして扉が開いた音がして、誰かが布団に入る音もした。真実ちゃんの隣ってことは奏ちゃんがどこかから部屋に戻ってきたのだろう。
今日は楽しかったな。それに明日も一緒に遊びに行くことになった。だから今日はしっかりと寝とかないと。そう思ってもう一度眠りにつこうとした瞬間に左手が握られた。
真実ちゃん⁉ びっくりして声を上げそうになったが、みんな寝ていることが頭をよぎって、何とか耐えた。けどどうして? 寝ているうちに無意識に握っちゃったのかな。けど真実ちゃんの指がさらにあたしの指に絡みついてくる。
うう、なんだかドキドキもするけど安心するな。真実ちゃん、こんなに小さくて優しい手をしてたんだね。
私はその指を離すことなく、体の力を抜いて、眠りについた。
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