第34話 奏でる想いはずっと一緒に~みんなで過ごす時間~②
「本当にあいつら高校生か? 子どもっぽ過ぎだろ」
「はしゃぎすぎて疲れたのよ。可愛らしいじゃない」
クッキーをオーブンに入れて焼きあがるのを待っている途中、やけに静かになったと思っていたら、夏野、戦国、美玖が肩を寄せ合ってソファで寝ていた。
起きているのは霜雪と俺だけだ。
「毛布を取ってくる」
部屋から毛布とひざ掛けを持ってきて、三人にかける。気持ちよさそうに寝てるな。
「霜雪も疲れてるなら寝てていいぞ」
「いいえ、あなたと二人きりの時間だもの。大切にしたいわ。私が眠たくならないようにたくさん話して」
「そうか」
霜雪と一緒に夏野たちとは別のソファに座る。
「平和ね」
「そうだな。……こんな時間がずっと続けばいいと思う俺は間違ってるんだろうか」
「いいえ、私も同じ気持ち。私たちのこの関係はいずれ終わる。ただまた新しい関係が始まるだけ。その時が来たとしても、きっとこんな風に過ごせるわよ」
「そう願ってる」
霜雪が肩が触れ合う距離に座りなおす。
「……けど今は私だけを感じて……。二人だけの時間を……」
そう言って霜雪が俺の膝に頭を乗せる。
「霜雪?」
霜雪からは聞こえるのは静かな呼吸音だけだ。お前も十分子どもだな。
俺も重たくなってきた瞼を静かに閉じた。
冬風君、あなたの温もりを、熱を感じる。あなたといると私の心も春のように暖かくなる。このままあなたと夢の世界でも会いたい。いいえ、私があなたを探し出す。
冬風君と呼吸が重なる。心臓の鼓動が重なる。こんなに気持ちの良い眠りは初めてだ。
「まこ兄、真実さん、起きて」
美玖の声で目を覚ますと、丁度クッキーが焼きあがったところだった。
霜雪、夏野、戦国も目を擦りながら起きる。
「霜雪、首痛くなってないか?」
「大丈夫。ありがとう」
ソファから立ち上がり、焼きたてのクッキーと紅茶を用意して、味わった。
夕食の準備をする前にまこ兄が先にお風呂にいって、リビングは美玖と奏さんたちだけになった。今日は大雨で友達との外出がなくなってしまったが、まこ兄から三人が家に来てくれると聞いて、家で一人飛び跳ねるように喜んだ。
奏さんたちが泊まりに来るのは久しぶりだし、六花さんが家に遊びに来てくれるのも久しぶりだ。
三人とまこ兄は特別な関係だ。妹の直感がそう言っている。美玖も大好きな三人がまこ兄と深く関わってくれてとても嬉しい。ただそれは不安の元でもある。
「奏さん、真実さん、六花さん。三人はまこ兄のことが好きなの?」
これはまこ兄と奏さんたちの問題だ。妹だからといって簡単に立ち入っていいものじゃないが、つい口に出してしまった。
「うん、あたしたちはまこちゃんのことを好きだよ。友達としてもだけど、恋愛という意味でもね」
「……けどいずれ付き合えるのは一人だけだよ……。そうなったら他の人はまこ兄から離れちゃう。三人も今は仲が良いけどそれが壊れちゃうかも。そんなの美玖、嫌だよ……」
こんなわがままを言っても三人を困らせてしまうだけだ。けど……。
それ以上、何も言えずにいると、真実さんが美玖を抱きしめてきた。
「大丈夫よ。私たちも最後には一人しか選ばれないのを知ってる。ただ、選ばれなかったとしても冬風君から離れてしまうことはないわ。もう今までをなかったことにできないほどに私たちは関わってるの。それに私たちは誰が選ばれても恨んだりしない。だって同じ人を好きになった大切な友達だもの。これ以上気が合う人はいないわ。だから心配しなくていい。これからもずっと私たちと一緒に遊んでくれる?」
奏さんも六花さんも真実さんの言葉に頷いている。まこ兄、本当に素敵な人たちと出会えて恋したんだね。美玖、涙で前が見えないほど嬉しいよ。
「うん! 真実さん、奏さん、六花さん、大好き!」
風呂からあがると美玖が夏野たちに囲まれて涙を流していた。
「何があったんだ? 大丈夫か?」
「大丈夫よ。女の子同士の友情を確かめ合ってたの」
「それで泣くことがあるのか?」
「まこ兄、大丈夫だよ。これ、感動の涙だし」
「俺が風呂に入ってる間にどんな青春物語があったんだよ……。まあ、大丈夫ならいい。俺は夜ご飯作り始めておくから、順番に風呂入ってこい」
「みんなで一緒に入ろ!」
「美玖ちゃん、さすがに四人一緒は……」
「うちのお風呂なら大丈夫! ね、お願い?」
結局、三人とも美玖のあざとい誘惑に負けて、揃いも揃って風呂に向かっていった。
「さっきシャワーを借りた時も思ったけど、本当に大きなお風呂だねー」
私はシャンプーを流しながら、浴槽の三人に話しかける。
「でしょー。こうやってみんなで入った方が修学旅行みたいで楽しい!」
そう嬉しそうに言う美玖ちゃんは奏ちゃんに後ろから抱きつかれるようにしてお湯に浸かっている。
「六花ちゃんって本当に脚長いし綺麗だよねー。見とれちゃう」
「奏ちゃん! 恥ずかしいからそんなに見ないでよー!」
急いで体も洗って、奏ちゃんと交代する。
「奏さんも六花さんも、真実さんもすっごく可愛いのに、まさかまこ兄を好きになってくれるなんて。……まあ、まこ兄もかっこいいけど……」
「美玖ちゃんも誠も本当にお互いのこと大好きだね」
「ええ、冬風君にも美玖さんにも嫉妬しちゃいそう」
「えへー、妹の特権だよ。けどまこ兄の良さがやっと学校の人に認められて嬉しいな。美玖と同じ接し方を学校の人にするだけでまこ兄はモテモテなはずなのになー」
「そのギャップがいいんだよー。それにそうなったらライバルが増えちゃうから今のままの誠がいいなー」
「そうね。誰にでも美玖さんと同じように接する冬風君なんて気持ち悪くて見てられないわ」
「真実さん、容赦ないねー」
好きな人の話を、同じようにその人が好きな友達と話すことができる。普通の人間関係ならそれはいびつかもしれないが、私にとっては素敵なことだ。
奏ちゃんが体を流し終わり、丁度私と美玖ちゃんのように、真実ちゃんを後ろから抱く形で浴槽に入る。
「ちょっと……⁉ 夏野さん⁉」
「えへー、油断したね。真実ちゃん、なかなか抱きつかせてくれないから、今日は逃がしてあげないよ」
「抱き癖が付くから駄目って言ったでしょ?」
「だからぬいぐるみみたいに言わないでー」
その後もお風呂での女子会は続いた。
あいつらいつまで風呂に入ってるんだよ。いくら四人で一緒っていっても長すぎだろ。すっかり作り終わった夕食を前に俺は一人寂しくリビングでテレビを見ていた。
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