第34話 みんなで過ごす時間

第34話 奏でる想いはずっと一緒に~みんなで過ごす時間~①

「凄い雨だ」


 夏野たちと海に行って数日後、合宿の時の約束通り、夏野、戦国、霜雪と俺の四人で遊ぶ予定になっていたが、外は大雨でとてもじゃないがゆっくりと外出なんてできない。それにこの後、雨はさらに強くなるらしい。


 今日は無理だな。夏野たちに中止の連絡をしようとスマホを見ると、戦国から連絡が来ていた。


『今、誠の最寄り駅にいるの。今日はどうする?』


 なんで戦国がわざわざ俺の最寄りまで来ているんだよ。


『今日はさすがに無理そうだ。危ないし止めておこう』


 せっかく来てくれたのに、このまま帰すのは良くないか。


『けど今から駅まで行く。少し待ってろ』


 傘ではとても雨を防ぎきれそうにないので、レインコートを着て家を出た。




「で、なんで揃いも揃ってこの駅にお前らがいるんだ?」


 駅に到着すると戦国だけではなく、夏野と霜雪もいた。


「あ、あたしは電車に乗ったらいつもの癖で学校まで来ちゃった……。てへっ」


「わ、私は体が動くままに任せてたら気付いたらここに……」


「私は冬風君と少しでも一緒にいようと思ったから」 


 全く、どいつもこいつもしょうがない奴だ。


「取り敢えず今日出かけるのは止めておこう。それに早めに帰らないと電車もそのうち止まりそうだ」


「それがね、電車はあたしと真実ちゃんが乗ってた電車が行っちゃってから、もう運転見合わせになっちゃった」


「誠と電話してすぐ後に二人が来たんだけど、帰りたくてももう帰れないの」


「……そうか」


 この雨では車で迎えに来てもらうのも厳しいか。雨はこれから強くなる一方だしどうするのが一番だ?


「……もう今日は俺の家に泊まるか? 電車は今の段階で泊まるならもう無理そうだ。バスならまだ何とか帰れる可能性はあるが……」


「まこちゃんは迷惑じゃない?」


「家には俺と美玖しかいないのは知ってるだろ。美玖も今日、遊びに行けなくなって残念がってる。お前らが来たら大喜びだろう」


 さっきまで暗かった三人の顔が明るくなる。


「ただし親にちゃんと許可は貰えよ。親が迎えに来るなら帰るべきだ」


 三人がスマホを操作したり、電話をかけたりして親から了承をもらう。


「じゃあ、先に俺の家に行っててくれ。美玖にはもう連絡してある。どうせずぶ濡れになるからシャワーも浴びとけよ」


「冬風君は?」


「ご飯の材料の買い出しと歯ブラシとかを買ってくる。少し歩くことになるし、一人の方が早く済むからついてこなくていい。じゃあ、また家でな」


 再びレインコートのフードを被って駅の外に出る。


「……三人とも、わざわざここまで来てくれたんだよな。こんなことになって申し訳ない気持ちもあるが、嬉しかった。気を付けて歩けよ」


 三人と別れて俺は大雨の中、スーパーに急いだ。




 買う物を買って家に帰ると、夏野と霜雪がシャワーを終えて、美玖の部屋着を着ていた。


「わー、まこ兄もずぶ濡れだね」


「まさに濡れ鼠だな」


 美玖からタオルを受け取り、髪を拭く。


「今日は奏さんも真実ちゃんも六花さんも泊まってくれるんだよね⁉」


「ああ、もう電車は動いてない」


「やったー!」


 俺が家を出る時には雨で拗ねてたのに、すっかり元気になってるな。


 美玖が夏野たちと話しているうちに戦国がシャワーを終えて出てきたので、入れ替わりに俺も風呂に向かう。


「美玖ちゃんからこの短パンとシャツを貸してもらったんだけど、これって誠の?」


「ああ、美玖のよりはサイズが合うだろ。嫌なら夏野や霜雪みたいに美玖のを借りてくるけどどうする?」


「ううん、大丈夫だよ。ありがとう。私だけ誠の服を着れて嬉しい」


 戦国が海の時みたいに脱衣所に俺を引っ張って連れ込む。


「……今日はずっと一緒だね。気を抜いたら駄目だよ。私、自分を抑えられないかも……」


「そういう台詞は顔を赤くしないように言えるようになってからにしとけ」


「えー、もうこのセクシーお姉さん戦法は通じないかー」


「どこがセクシーお姉さんだよ。ほら、服脱ぐから出ていけ」


「はーい」


 戦国が脱衣所から出て行って、俺は扉を閉める。


 明日まであいつら三人と一緒か。駅にいた時は特に何も考えずに泊まるのを提案したが、かなり心臓に悪い状況だ。大丈夫、夏野も霜雪も何度かこの家に泊まりに来たことがあるだろ。


 俺は自分自身にそう言い聞かせながら、シャワーを浴びた。




 シャワーを終えてリビングに戻ると、四人はテレビゲームをしていた。


「美玖、三人の服を洗濯してくれるか? 部屋干しでも明日までには乾いてるだろ」


「はーい。じゃあちょっと交代!」


 美玖からコントローラーを受け取り、代わりに操作する。


「あ、まこちゃん、それは酷い!」


「非人道的なプレイね」


「ゲームに人道もくそもあるか。普段の美玖の方がよっぽど酷いぞ」


「こんなこと普段からお兄ちゃんにされてたらフェアプレイなんてできなくなるよー」


「いや、フェアプレイだろ。おい! 三対一こそ非人道的だ」


「冬風君、ゲームに人道なんてないわよ」


「みんなでまこちゃんをやっつけちゃえー!」


 三人を返り討ちにしたところで美玖が帰ってきた。


「美玖、どうしてそんなにニヤニヤしてるんだ?」


「ううん! 何でもない!」


 なぜかこっちに飛びついてきた美玖を躱して、操作を交代した。


 昼食を食べて、何となくお茶をしながらゆったりする時間になる。


「外は凄い雨だねー」


「そうだねー。きゃっ!」


 外が一瞬光って、雷の音が轟いた。


「これでもかっていうくらいの悪天候だな。夏野、雷が怖いのか?」


「……うん。子どもの頃からどうにも苦手で」


「そうだったのか。耳栓はあるけど、今日はずっとしとくか?」


「もー、そこまで子どもじゃないしー」


「ねえ、それよりこれから何する?」


 美玖が楽しそうに考え始める。


「クッキーでも作るか。おやつにもなるし、丁度いいだろ」


「まこちゃんって本当に器用だよねー。ホワイトデーにくれたクッキーとっても美味しかったし」


「まあ、分量は本を見ながらだし、アレンジはなんとなくやってれば大抵は上手くいく」


「私たちに色々と教えてよ!」


 午後の予定が決まり、ゆったりタイムが終わった。

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